桜姫東文章・今月(4月)歌舞伎座上演中(☆4月25~28日・コロナ対応で休演のようです) | 遊歩徒然(NOBUのつぶやき)

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日常の思いを風に乗せてつぶやくように・・

      旺文社文庫(1985年出版)表紙カバー

この演目、15代片岡仁左衛門が片岡孝夫であった時代、玉三郎と共演し若い女性のフアンが一気に増えたという。お二人ともお若い!

本は35年以上前の文庫本で、この演目のニューヨーク・メトロポリタン劇場招請の公演成功の後に出版され、半分ほど写真という貴重なもの。今は絶版かと思われる。当時の定価は600円、私は15年ほど前に中古を2倍ぐらいの値で手に入れたかと思う。

鶴屋南北の傑作『桜姫東文章』

今月の歌舞伎座で、仁左衛門77歳、玉三郎70歳のコンビで上演中!

 

15代仁左衛門のフアンであった頃を思い出して書いた拙い文章、歌舞伎通の方から見ると間違いもあろうかと思うがご容赦ください。

      

十五代仁左衛門徒然              後町伸子

 駅などに貼られた宣伝用のポスターが剥がされる、という騒ぎがあった。いたずらではなく京都南座で上演の『桜姫東文章』のポスター。昭和五七年(1982年)二月の公演だった。

 四世鶴屋南北の作品『桜姫東文章』で当時の片岡孝夫(十五代仁左衛門)・坂東玉三郎の出演の演目。話題のポスターは、孝夫「釣鐘権助」と玉三郎「桜姫」の最高の濡れ場シーンのワンショット。私は現物を見たことはないが、写真で見てもこれほど昇華されて美しくも怪しげなシーンを見たことがない。

その絵面が醸し出すものは、玉三郎扮する桜姫が華やかで洗練された美しい着物の裾を広げ、極悪非道な釣鐘権助に抱き込まれて恍惚とした表情で男を見つめる。玉三郎の現実離れした美しさと、孝夫扮する権助の滲むような悪の美しさが、説明のつかない男と女の情愛を感じさせる。背面の襖絵に大きな葉を持つ蓮の花が墨絵で描かれ、二人の情愛とこの後の暗澹たる物語に華やかな暗さを示しているようで印象深い。

この桜姫東文章で若い女性の歌舞伎フアンが一気に増えて「孝・玉」ブームが起こった。

南北物と言われる作品は因果関係が絡まり、登場人物の悪は容赦なく残忍凄惨で形だけの歌舞伎でも目を背けたくなることが多い。『桜姫』では権助は非道の限りを尽くすのだが、役者の魅力で引き込まれていく。どこかに可愛げがあったりする。極悪非道なものは多くの場合最後のどんでん返しで実は仇の・・元武士であったりで制裁を受けて滅びていく。桜姫は無事仇を討ちお家再興という運びになっている。

 昭和五十年後半からブレイクした孝玉コンビはスラリとした姿と顔立ちの良さ、背丈も釣り合いが良く二人が揃うと歌舞伎座の大舞台も華やかさが増す。鳥屋の幕がチャリンと音を立て役者が花道に現れると場内は芝居の中に取り込まれていく。一瞬たりとも目が離せないのである。手の指、足の先、体全体でその役の気を表現する、その役の人になってしまう。幼少の時から精進を重ねて体得してきたものが下地として根付いている。

 役者の魅力はそれぞれ違い、観客も違った感性をもっているので面白い。

孝夫が関西の仁左衛門歌舞伎で『女殺油地獄』与兵衛がヒット(昭和三九年)してから東京歌舞伎座で活躍するまでには時間を要した。数年前この『女殺油地獄』を仁左衛門一世一代として歌舞伎座で演じた。与兵衛が手拭いで頬かむりして懐手、片手に小さい油桶を下げ、借金のことを考えながら花道に音もなく現れた時の姿は永遠に残る十五代目のワンショットだと思う。

平成十年一月二日片岡孝夫改め十五代片岡仁左衛門襲名披露興行が東京歌舞伎座で初日を迎えている。同二月の歌舞伎座の興行で演じた『助六』は集客数が記録的だったと聞くが江戸っ子の中には関西人の演じる助六は見たくないという人もいたという。

父の十三代目仁左衛門の至芸『菅原伝授手習鑑』の菅丞相、当代の仁左衛門の菅丞相は一味違う神々しい華やかさが残る。この中の『道明寺』は好きで、大阪の道明寺を二度ほど訪れた。史実にも菅原道真が藤原時平の讒言で大宰府に流人として赴く途中に伯母覚寿のいる道明寺に立ち寄ったとの記載がある。本当にあった事件などをフィクッションとして練り上げていった歌舞伎の醍醐味を感じることが出来る。

                          2019・5テーマ「歌舞伎」

 

 

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