法の精神〈上〉 (岩波文庫)/野田 良之
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前回ちょぴっと政治と法の話をだしたので、この本の紹介。

日本の公民の教科書にはモンテスキューは三権分立を提唱したみたいな書き方をしているものが多いのですが、実際の「法の精神」を読んでみると、実はイギリスの政治形態の紹介みたいな形で書いているのです。

ということで、どんな内容かの紹介。

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三権分立を提唱した話について日本では取り上げられるモンテスキューです。法と実態の政治形態・生活とのつながりについてあくまで検証する本なのです。この文庫本は3分冊とかなり分厚い内容ですが、上に特にかれの考えが集約されているように思います。
法律というものが、「気候や土地の位置、大きさ・民族の生活様式・住民の宗教や富・数・商業・習俗・生活習慣に関係しなければならない。そして法律間の相互間に関係を持ち、その起源、立法者の目的・確立の基礎となる事物の秩序に関係をもつため、そういったことを考察しなければならないと1章でまず述べています。

1部では共和制・貴族性・君主制・専制国家という国家の政治形態についてその成り立ちや原理についてのべ、法というものがその政治形態によってあり方が変わっていくことを淡々と述べています。
以下共和制の部分だけ抜粋してまとめるてみると・・
その共和制において人民全体として最高権力をもつとき民主制といい、その職務執行者としての役人を人民が任命できることが基本にある。共和制については、その投票といわれる部分が基盤にあり、その方法が一つの基本的な法律となり、そこに公開性があってこそ成り立つ。そして、その人民だけが法律を作るということが、民主主義の根源的な基盤にあるのが共和制とよばれる政治形態であると。そして、共和制の基盤にあるのが民衆・そして民衆の代表である職務執行者の徳というものがその基盤にあるとしている。その政治形態を維持するための手段として教育が重要であると述べています。
そして各政治形態における法律の在り方とその法の執行・刑罰の在り方について考察があったあと各政治形態の原理の腐敗のしたかについての考察が述べられていて、そこでは、「民主主義の原理は、人が平等の精神を失うときならず、極端な平等の精神を持ち各人が自分を命令するものとして選んだ人たちと平等にありたいと良くする時に腐敗する。」とあります。要するに選んだ職務執行者が何らかの理由で信頼できなくなり人民が各々すべてをその職務執行者と変わろうとするときに政治は機能しなくなり腐敗するとあります。そのあとに防御力と攻撃力に関する政治形態の在り方についても述べていますが、結局各政治形態は、その防衛の在り方によってとりうる政治形態に限界がある旨を述べています。共和制政治形態は領土の大きい国においては、防衛の軍の指示と移動に問題があり機能しえないと指摘しています。
次に人民の自由についての考察があり、法律の下で国の公民として法律の中においてのみ自由が認められるとあります。
そして、この第11編の中の国家の目的という項目の中のイギリスの政治形態に関する考察において「三権分立」にかんする考察がでてきます。(それがいいとは全くかいてなくてただ、考察だけがさらっと出てくるだけです)
そこでは、「各国家では三つの権力つまり立法権力と、万民法を執行する執行権力、公民法に基づく執行権力・すなわち裁判権力があげられる。・・・公民における政治的自由をうるためには他の公民を恐れることがありえないような政治形態にしなければいけない。
同一の人間または同一の役職団体によって立法権力と執行権力を結合されるとき自由は全く存在しない。なぜなら、同一のもの・同一の団体によって暴君的な法律をつくり暴君的にそれを執行するおそれがあるからである。」(一院制の議論がでてるけど、議院内閣制の日本において衆院と内閣は全く別物とは言い難いから、一院制になると、この立法と執行権力の結合になり暴走しうる恐れが生じるって読めますね)「裁判権力が、立法権力と執行権力と分離されなければ自由はやはり存在しない。もしこの権力が、立法権力と結合するならば、公民の生命と自由の権利は恣意的になる。もしこの権力が執行権力と結合するならば、裁判役は圧政者の力を持ちうるであろう。もし、これら三つの権力を同一の個人・団体がこうしするならば、すべてはうしなわれるであろう」
よく考察できているように思います。そして、世界は腐敗と共和制の崩壊へ着実に歩み始めていると読み取れますね。
公民の自由・税についてのほうの在り方について書いてあります。

古い本ではあるんですが、この時代において非常によく考察され丁寧に古典などを研究しながらねられたこの本は現代においても十分に通じるところが多く面白い著作だと思います。
ぜひ上巻だけでもご一読あれ。

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紹介の中にも書いてあるように、今の世界の民主制といわれる政治形態をとる国という国が、職務執行者の腐敗によって、また癒着や法制度の変更による権力の集中により崩壊しつつあるのが非常に明快に書かれています。

これが書かれたのはフランク王国時代ということではあるのですが、むしろ今の政治に関する教科書的公民教育を受けたものにとっては、そのしがらみから抜け出てより客観的に書かれていることに驚くとともに、教育というものが政治的な意味においてはその国の政治体制に適応できるため、洗脳的な要素があることもこの本を読むとよくわかると思います。

この本を読んで古典といわれる本を読む本当の価値を知る、そういう本だと思います。