ダニエラコット
スーパーモデル

菜根譚 前集二 


   汚れから清きが生まれる   


糞土から生まれる虫は、この上なく汚い。この虫も殻を破りとなると、秋風の中の白露飲み、飛びながら吟ずる。光のない腐った草の中から、蛍は生まれ、清らかな光を月明かりに輝かす。つまり、潔きものは汚きものから生れ、光明は暗闇から生ずる。


 菜根譚は、汚き物へのエールを送っているようにも思う。社会には、貧富貴賎はつきものである。この社会における格差は、不合理であるもののそれを完全に解消するには至らない人間社会に内在する宿命的要因がある。おそらく宇宙万物全てに何らかの陰陽、明暗、好悪、善悪二元の存在があると同様なのではないか


 「この上なく汚い」という表現はこの場合さげすむ言葉ではなく、やがて美しくなって本当に見違える姿に変身を遂げるとの前提の誇張である。


「糞」「腐る」は教養書に出るべき文字ではない。しかし、それほど激しく変化して見る者を感動させる清らかさと美しさを備える妙味を表現している。人生は長い。かつて汚い存在であったかもしれない。また暗闇からはい出せずもがき苦しむばかりの人間であったかもしれない。しかしそんな人間も何かの拍子に変わることができる。

 「男子三日見ざれば刮目して見るべし」なのである。そして潔きものは汚きものから生まれ、光明は暗闇から生ずると断定する。


 一九九三年生まれのパリコレのモデル、ダニエラ・コットは一三歳からブエノスアイレスのごみ拾いをしていた。一五歳のとき割れたビンで手を切り血を流してうずくまってた。通りすがりの女性デザイナーのマリーナ・ゴンザレスが手当てをして可哀そうに思い服をおいて立ち去りました。

 ダニエラは物乞いのためにゴンザレスを尋ねたところ。シャワーを浴びるよう勧められ汚れを落とした彼女は美しい原石であることが分かりました。ダニエラの美貌は瞬く間に花開き国際モデルコンテストで優勝。

 世界の美女にランキング。

 かつての彼女の腕は生々しいタコ、傷跡、痛々しい瘡蓋だらけのごみ拾いの痕が残っていた。シンデレラ物語であるが、神は必ず希望ある者、純真な心で夢見る子供たちを助けに来てくれる。疑いを持たず信じる気持ちを絶やさない、そんな人間を天国に連れて行く。


スラム街出身のサッカー選手、カルロス・テベス(アルゼンチン)、アントニオ・カッサーノ(イタリア)ルイス・スアロス(ウルグアイ)イブラヒモビッチ(スウェーデン)、アレクシス・サンチェス(チリ)、ネイマール(ブラジル)ロナウド(ブラジル)数えきれないほどの億万長者ばかり。

 彼らは、サッカーに出会うまでは、スラム街で自転車を盗み、酒やたばこ、喧嘩に明け暮れていた。そのエネルギーをサッカーに打ち込んで、今では年報酬一〇〇億円プレイヤーになっている。


 彼らの有為転変人生の浮沈を眺めると、幼虫がさなぎへそして立派な蝶へと脱皮している。違う生き物への転換が可能となっている。過去は過去なのだ。

 

 


ロナウド(ブラジル)