菜根譚    前集一七 

      一歩の寛大さ 

世の中を生きてゆくには、自分から一歩譲るのがより優れた道である。一歩を譲ることは、やがては逆に一歩を進めることに繋がってゆくのである。

 人を処遇するには、完全を求めずに、九分にとどめることである。あとの一分は、寛大にして見過ごすことが何より大事である。


一、情けは人の為ならず。利他の妙法を説く。

利他主義とは、自己の利益よりも他者の利益を優先する考え方。
本来、種の保存本能が存する以上利己的人間が普遍的である。
従って、利他的行動を人間は採りにくい。

仏典、「布施波羅密」(他人に布施することで天国への門が開かれる。


互恵的利他主義、後で何らかの見返りがあると期待して利他行動を採る。

間接互恵性、誰かの視線がある方が利他的に振る舞うことが多い。評判を気にするのもこの一種。

二. 利己主義、自己利益優先。
  株式会社の利益追求の是認による近代国家、資本主義の基本思想。

個人、法人の区別観においても、企業の社会的責任論が普遍化してきた。

利他を追求しながらも、自己利益を実現する


「利他主義的自己利益」が現代では一般的となった。

現代企業社会では、、利他主義、利己主義の二者択一から、多様化へと変化を遂げた。


三. 動物の社会的行動ダーウイン、自然選択説に基づく進化論では解き明かせない行動がある。

ミツバチでは、女王蜂が生んだ卵から成長した雌バチは、自分では卵を産むことなく、女王を助けて自分の家族の世話をやいて一生を過ごす。
つまり、自分の繁殖の機会を捨てて女王の繁殖を助ける。」

「シマウマの見張りは、ライオンの接近を身振り鳴き声で群れに知らせる。自分だけが逃げれば、助かる確率はより高い。自己犠牲の上に他者を助けている。」

最近の動物学では、先の見張りの自己犠牲をする馬の生存率は、他に比べて著しく高いことが判明。

四. 「人を使うは苦を使う」松下幸之助。病弱で人を使うしか方法のない経営者。

  封建時代ならともかく、民主主義の今日、

      主人のいうことを聞く部下を作ることは至難  

       の技である。

  上司は、部下を使うことに困ったと嘆くよ 

  り、使うことを、喜びに感ずるようでなけれ

  ばならない。

  それでは、どうしたらよいか、基本的には 

 「使う」という気持ちを持たない方がよい。

ともに働く、一歩進んで、使うより使われていると考えた方がよい。

そこまで徹すれば「苦を使う」ということにはならない。むしろ、ひとつの喜びを感じられるようになる。人を使うは使われる、なのである。 


五. 山本五十六 海軍連合艦隊司令長官。

海軍の主流を占める大鑑巨砲論に対する航空主兵論の急先鋒。皇族でも華族でもない平民が国葬にされたのは、戦前唯一。

遊び人。博才に優れる。モナコであまりに勝つので、カジノから入場禁止にされる。

新橋の芸者梅龍(河合千代子)を妾とする。しばしば呉まで逢いに来る。

「長岡へ帰って学校を作りたい。千代子と暮らしたい」が、口癖。

千代子は、平成元年没。

 「やって見せて、言って聞かせて、させてみ 

  せ、褒めてやらねば、人は動かじ。」使う側

  の精神を説く。


出典、上杉鷹山「して見せて、言って聞かせてさせてみる。」)

「話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。」

「やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず。」


六.海軍兵学校「五省
使われる側の精神を説く昭和四五年第七艦隊ウイリアムス・マック中将が、日本海軍の兵士教育に五省を使うことに感動して、米国海軍兵学校に掲示。
アメリカ人に理解させる為に英語訳公募千ドルの賞金を出す。


1、 至誠にもとるなかりしか(hast thou not gone against sincerity?

2、 言行に恥ずるなかりしか(hast thou not felt ashamed of thy words and deeds?)

   3、気力に欠くるなかりしか(hast thou not     lacked vigor?)


   4、努力に憾みなかりしか(hast thou   

    exerted all possible efforts?) 


   5、不精に亘るなかりしか(hast thou not     become slothful?)