いい日旅立ち…な俺…。
その日朝一番の新幹線は、一瞬回送電車に乗り込んでしまったと勘違いするほど閑散としていた。
まるで自家用新幹線のような優雅な一時も、新横浜を出るときにはすでにサラリーマンの慰安旅行によって終止符を打たれていた。
数ある乗り物の中で好きなのが飛行機よりもチョロQよりも新幹線で、その中でも日本列島を大胆に横切るこの東海道新幹線には特に惹かれてしまう。
東京から博多を繋ぎ、その間に名古屋や京都、そして大阪といった大都市を通る、正に日本の大動脈とも言えるこの線の一番の目玉はやはり、途中の車窓から見える富士山だろう。
何故人は、この富士の山にこんなにも魅せられるのだろう。
その真理を突き止めるべく、手元の本から窓の外へ目線を移す。
景色はすでに都会の喧噪からのどかな田園風景へと様変わりしていた。
さぁもうすぐだ。
さぁ日本一勇ましく雄大且つ優美なその姿を是非この両眼で拝ませておくれ。
…
来た…
おい、電線っ!!
気を取り直し、改めてカメラのシャッターを慎重に大胆に篠山に紀信に切る…
それを表現する言葉など、もはや無意味だった。
ただただその姿に…興奮した。
同じ景色を眺めていた、隣の席の少しばかりボディラインのふくよかな男性は更に興奮していた。
そして興奮し過ぎたのか…
鼻血を出した…
彼はあの山に一体何を重ね合わせたのだろうか。
そして彼の鼻からコンニチハした鼻血が、ふくよかな彼の胸に垂れ落ちた。
そして…
その胸に垂れた血が、偶然にも…文字となった…
信じるか信じないかは…あなた次第…