民法891条では、5つの「相続人の欠格事由」を規定しています。

「欠格事由」に該当する場合、相続人になることはできません。


欠格事由の一つに、「相続に関する被相続人の遺言書を偽装し、変造し、破棄し、または隠匿した者」というものがあります。


たとえば、「すべての財産は長男に相続させる」という遺言書の存在を長男だけが知っていたとします。

他の兄弟との協議の結果、長男がすべての財産を相続する旨の遺産分割協議が整った場合に、長男が協議が終了するまで、遺言書の存在を他の兄弟に告知しなかったとき、この長男の行動は“遺言書の隠匿”に当たるでしょうか。


欠格事由となるべき遺言書は、まずは「相続に関してなされた遺言書」で、かつ「有効に成立した遺言書」であることが必要です。


この「すべての財産は長男に相続させる」という遺言書が有効なものと仮定した場合、長男の行動が欠格事由としての「隠匿」に当たるかが問題になります。


遺言書を隠匿した者の相続人資格をはく奪するのは、遺言書の意思に反する違法な利得をはかろうとする者に制裁を課し、遺言者の最後の意思を実現しようとするところにあります。


ですので、故意に遺言書を隠匿しただけでは足りず、遺言書を隠匿することによって、自己の相続上の地位を有利にし、または、不利になるのを妨げようとする意思が必要と解されています。


上記の例では、遺言書の最後の意思は、「すべて長男に相続させる」ことにあり、また、協議の結果も遺言書の内容と同じだったことから、「自己の相続上の地位を有利に、または、不利になるのを妨げようとする意思」があったとは考えられず、相続欠格に該当するとは言えないと思われます。


しかし、他の共同相続人からの遺留分減殺請求権の行使を免れる意思をもって遺言書を隠匿したした場合には、たとえ自分に都合のいい遺言書だったとしても、相続欠格事由に該当する可能性があります。


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山本恵美子行政書士事務所