9月3日
好きだった人に堕胎してくれと言うことは、夫にとって辛かったことと思います。
3人の父親である夫は、モニターに映る胎嚢がどのようにして大きくなり、可愛らしい赤ちゃんになっていくのかを知っています。
平気なわけない、辛いはず。
自業自得ではあるけれど…。
本当にバカだ。


9月4日
朝、元々休みだった夫へ彼女から電話がかかってきました。


私は仕事に行けず(行っても仕事にならないので)休みました。
夫は2階にある子供部屋へ行き、私は子供部屋の扉を開け部屋の外に座っていました。

電話口でずっと、彼女からの暴力的な言葉を聞きながら、ケイと別れたいこと、ケイには死んでほしくないこと、ケイに対して気持ちはないことを伝えているのがわかりました。
夫が必死で彼女を宥めているのもわかりました。
正座しながらボソボソと話し、時に伏せて泣くこともありました。時に声を荒げ『だからもう好きじゃない!!』とも言っています。

そんなんじゃない、そうじゃない、だから違う!好きじゃない!!」
『楽しいことなんてなかったやんね』
『私死ぬて…言いよったやんね、どんだけ腕切ったか?どんだけ薬飲んだとや、動けんごとなったや!何回飛び降りようてしよった!?俺はお前が死ぬて思って…死ぬ死ぬて言う奴を好きになるわけないやろうが!』

『もう、好きじゃない。ごめん、本当にごめんなさい。産んでもよかし、どうするかは決めてよかけん…。違う、俺は一緒には育てられん!もし産むなら養育費は払うよ、嘘じゃない…』


同じような話の繰り返し。
彼女は産むか産まないかの判断が出来ないようでした。
多分、産みたい気持ちはあるようですが育てられないことの自覚があるように思えました。

私は部屋に入り、夫に
『あなたが悪者になりなさいよ、言ってあげたら?』
と彼女に聞こえないよう小声で伝えました。

夫は
『俺の気持ちは…堕して欲しい』
と話しました。

とても悲しくなり、その場に居るのが辛く立ち去ろうとすると、夫が首を振りながら口パクで『ここに居て、お願い』と私の腕を掴みました。
私は夫の隣で黙って彼女との会話を聞きました。

『俺が悪かっちゃん…俺が…子どもが出来るとは思わんだった…子どもが出来ない身体て聞いとったけん、出来るとは思わんやった…俺が…ゴムしとけば…』


ここで初めてワナワナと怒りが込み上げました。

『は?ゴムしとったら良かった?お前ふざけんな!ゴムじゃねーだろ。不貞行為しなきゃよかったの間違いだろがい!!』


こいつはバカにしとる、私をバカにしとる。
言いたくて言いたくて仕方なかったけど、電話中ですから我慢しました。偉いぞ私と褒めてあげたい。
ここで自分の気持ちをぶちまければ、今までの苦労・労力がぶち壊しになりますから。
後でガツンと言いました、ちゃんとそのことについては伝えました。
マジムカつくふざけるなと。


彼女のお母さんからは聞いていました。
彼女はバツイチで妊娠がなかなか出来なかったこと、これまでの彼氏との間でも、妊娠出来てもすぐに流産になってしまうこと、今回も実は流産しかかっていること…。

妊娠出来ない身体と妊娠しにくい身体は違う。それもわからない男なんだと本当に呆れてしまいました。


彼女が私について聞いたようです。
仕事は?とか一緒にいるのか?みたいな。

夫は『仕事は休んだみたい、俺が電話しよるけん』『一緒におるよ、俺が一緒におってくれって言ったから』と言ってました。
すると彼女が電話を代わってと言ったようです。携帯を私に渡してきました。

私は『もしもし。どう?身体の具合は大丈夫?』
と彼女に話しかけます。

彼女『はい、大丈夫です。あのー、私は産みたいんですけど〜』

私『あなたの好きなようにしていいよ。でもね、妊娠出産育児はそんなに楽なものではないよ。私達はあなたが産むというなら、そのサポートをしていくつもりです。養育費のことね。でも養育費であって、あなたの生活費ではないから、あなた1人で赤ちゃんを育てないといけない。その覚悟は大丈夫?』

彼女『そんなこと、あなたに言われたくない』

その後は、彼女が色々と話しました。夫が自殺しようとしたので自分が止めたとか、夫から騙されたとか、、、

「へー」とか「ふーん」と相槌をうち、しばらく話を聞いていました。
そして最後に伝えました。
『そうだったのね、わかった。でもそろそろ夫を解放してくれないかな。私はあなたに慰謝料を請求するつもりは今のところ全く考えていないんだけど、これ以上長引かせるようなら私も考えなきゃいけなくなるから。あと看護師として言うけど、産まないつもりがあるならば、早ければ早い方が母体への侵襲が少なくて済むから…』
と伝えました。

夫と電話を代わります。
その後しばらくして電話が切れました。
彼女曰く、
『奥さんいい人だったから…今から病院に行き、堕胎することを伝えてくる』と。
なんだそれ。

朝から電話がかかってきて切るまでに、4時間以上話していました。
夕方、堕胎手術は翌日に決定したと連絡が入りました。