二宮:リーダー、ちょっといい?
大野:なに?
24時間テレビの打ち合わせが終わり、帰り支度を始める大野に二宮が声をかけた。
二宮:外野から耳に入るより、身内から聞いた方がいいと思うからさ。
大野:何のことだよ。
二宮:…
大野:なんだよ、もう帰るよ。
二宮:波瑠ちゃん、男できたかもよ。
大野:…え?
聞き流す体勢でいた大野だったが二宮の言葉に顔をあげる。
二宮:俺が前にドラマで共演したやつの友達みたい。
大野:そう…
二宮から目をそらす大野。
二宮:リーダー
大野:…ん?
二宮:いいのかよ。
大野:…いいもなにも、俺には関係ないし。
二宮:あのさ…関係ないって顔してないじゃない。
大野:…
控え室の扉が開く。
櫻井:あれ?ふたりともまだいたの?
二宮:おつかれ。もう帰るとこ。じゃ、リーダー、そういうことだから。
大野:…
二宮が出ていく。
大野はその場に立ちすくんだまま動かない。
櫻井:えっ?なに?なんかあったの?
大野:いや…なんでもないよ。
櫻井:なんだよ、気になるよ。
大野:…
櫻井:なに、教えてよ。
大野:波瑠ちゃんさ…
櫻井:え?
大野:誰かとつきあってるみたい。
櫻井:あ…
椅子に座り込む大野。
櫻井:そうなんだ…
大野は膝の上で腕を組み下を向く
櫻井:大丈夫?
大野:…
櫻井:…じゃ、なさそうだね…
櫻井は黙って大野の隣の椅子に座る
大野:…笑っちゃうよ…
櫻井:え…?
大野:俺…
うつむいたまま声を出す大野
大野:足が…震えてる…
櫻井:智くん…
大野は顔をあげ、そのまま天井をあおぐ
大野:自分から断っておいてね…
櫻井:…
大野:俺、情けないよな…
櫻井:…そんなことないよ
大野:…
櫻井は大野の背中に手を当てる。
櫻井:それってさ、確実な情報なの?
大野:…わかんないけど…ニノはいい加減なこと言うやつじゃないから…
櫻井:そっか…
ふたりは黙ったままで時計の音だけが部屋に響く
大野:俺…帰るわ。
櫻井:うん…。
立ち上がる大野。
櫻井:智くんさ
大野:ん?
櫻井:今からうち来ない?
大野:え?
櫻井:前に智くんちで飲ませてもらったからさ、今日は俺んちで。
大野:…
櫻井:ね。そうしよ。ちょっと待っててもらっていい?トイレ行ってくる。
大野:…うん…
櫻井は控え室を出たとこで、ポケットのスマホに受信を感じた。
取り出したスマホの画面を確認した後、櫻井は短く打ち込んでポケットに戻し、トイレへと急いだ。
櫻井:どうぞ~
大野:おじゃまします。
櫻井:散らかり具合がはんぱないけど(笑)ノークレームでお願いします。
大野:そんなでもないじゃん
嵐のこれからを話し合っていた時期も、メンバーと一緒に大野は櫻井の部屋を訪れていた。
いろいろな物がところ狭しと飾られている。
大野:あ、これ、まだ持っててくれてるんだ?
櫻井:え?何が?
大野の視線の先には、だいぶ前に大野が櫻井にプレゼントした絵が居間に飾られていた。
櫻井:当たり前だよ。ある意味、家宝(笑)
大野:俺の絵が?(笑)
櫻井:ずっと寝室に置いてたんだけど、こっちに持ってきた。
大野:ありがとね。
床に落ちている新聞や本を拾いあげ、ソファーに脱いだままになっていた上着を片付ける櫻井。
大野:翔ちゃんさ、ほんとすごいよね。
櫻井:何が?
大野:いや、すごい忙しいのにさ、ちゃんと勉強してるし。
櫻井:そんなことないよ。
大野:俺にはできないよ。
櫻井:俺だって智くんみたいに絵書いたり物を作ったりとかできないから。
櫻井は冷蔵庫からビールを出し、帰り道にマネージャーに買ってきてもらったつまみを並べ始める。
櫻井:智くん、ビールでいい?
大野:うん。
ビールを一口口に含み喉を潤すふたり。
櫻井:あ~。やっぱ1日の終りはこれだね。
大野:だね(笑)
大野は飾ってあるスノードームを興味深く見つめる。
大野:よく集めたね。
櫻井:あぁ…なんかね。ご当地アイテムみたいなもんだよ。
大野:可愛いよね。
櫻井:ねぇ俺、ビール2本目いっちゃうよ~
大野:早いな(笑)
櫻井:でさ、波瑠ちゃんのことだけどさ
大野:あ…うん…
櫻井:智くんも、自分の気持ちに正直になったら?
大野:え?
櫻井:波瑠ちゃんはさ、ずっと自分の気持ちを智くんに伝えてるじゃない。ちゃんと。
大野:…
波瑠は出会ってすぐくらいから、常に大野に歩み寄ろうとしてくれていたように思った。
そんな波瑠だから大野も心を許していたのだ。
そして波瑠は大野への想いをまっすぐにぶつけてきてくれた。
それを遮ったのは紛れもなく大野本人だった。
「私がそばにいたら、迷惑ですか?」
大きな瞳に涙を浮かべて、波瑠は自分を求めてくれた。
なぜあの時、自分は素直になれなかったのだろう。
波瑠の為を思って出した結論のはずだった。
でも違うのだ。
大野は怖かった。
付き合い始めてから、自分の立場の難しさに波瑠の心が離れていくのが怖かっただけだ。
「約束なんかいらない。窮屈でもいい」
そう波瑠は言ってくれたのに…
大野:いまさら…
うつむく大野。
櫻井:やってみなきゃわかんないじゃない
大野:…
櫻井:もしさ、もう手遅れだとしても…
大野:…
櫻井:その時は、俺達がいるから。
大野はふっと笑う。
櫻井:なによ、その笑い。俺達はあれよ、あなたの最高の味方よ。
大野:うん…
櫻井:安心して当たって砕けてきてよ。あ、ごめん、砕ける前提で(笑)
大野:(笑)
櫻井:なにもしないでいるより、自分自身が納得できるよ、きっと。
大野:うん…
櫻井の呼んだタクシーが到着した。
大野:じゃ、帰るね。
櫻井:下まで送ってくよ。
玄関の扉を開ける櫻井。
大野:翔ちゃん、鍵持った?
櫻井:あっ!!
大野:また?(笑)
以前二宮が櫻井の家に来た時に、櫻井は鍵を持たずに外に出て、自分の家に入れなくなったことがあった。
櫻井:あぶね~…智くん、ありがと。
大野:翔ちゃん、そういうとこ可愛いよね
櫻井:可愛くねーよ。学習能力なし。
櫻井:じゃね。
大野:うん。
タクシーに乗り込む大野。
後部座席から顔を後ろに向け櫻井に手を振っている。
車が動き出してからも大野は振り向いたままだ。櫻井は車が見えなくなるまで見送っていた。
櫻井はスマホを手にした。
「リーダーを頼みます」
LINEの文字を見つめていた。打ち合わせの帰り際、二宮が送ってきたものだった。
控え室を出てトイレに行く途中で気づいた櫻井は「了解」とすぐに返信していた。
ぶっきらぼうな振りをしていても、二宮は誰よりも大野のことをわかっている気がした。
マンションの駐車場から外に出て櫻井は空を見上げる。
同性なのに年上なのに、大野のことが愛しくて心配でたまらなかった。
悲しそうな顔は見たくなかった。
どうか大野が傷つくことのないようにと、櫻井は小さな星に祈っていた。