VS嵐のプラスワンゲストとして波瑠と久しぶりに再会した大野は、本番中にもかかわらずぼんやりと今までのことを思い返していた。


前年の、暮れも押し迫った頃、嵐にしやがれ元日スペシャルの収録が終わり帰り支度をする大野。

松本:リーダー、今日さ、この後みんなで飯行かない?
大野:今から?なんで?
松本:年内のしやがれの収録、今日が最後だからさ。うちあげ。
大野:あぁ…いいよ。
松本:波瑠ちゃんにも声かけたから。
大野:波瑠ちゃんも?来るって?
松本:うん。波瑠ちゃんがちょうど帰る時にすれ違ったから声かけたらOKだって。
大野:そう。
松本:有吉さんと吉村さんはまだ次の仕事があるから無理だって。6人で軽く行こ。

波瑠は元日スペシャルのゲストとして出演していた。

仕事場以外で波瑠と会うのはいつ振りだろう。
大野は波瑠とメールやLINEのやりとりはあるが、一緒に食事に行ったりしたのは数えるほどだった。


櫻井:智くん、ごめん。ちょっと先に行っててくれる?
大野:え?待ってるよ。俺、場所わかんないし。
櫻井:マネージャーが店まで車で乗せてくれるからさ。波瑠ちゃんと一緒に送ってもらって。ニノと相葉くんは別の車で向かうから。松潤はもう先に行ってるし。
大野:うん…わかった…

大野が駐車場に向かうとマネージャーの車のそばに波瑠が立っていた。

波瑠:大野さん。

大野の姿に気づいた波瑠が駆け寄ってくる。
大野の胸がかすかにざわめいた。

波瑠:お疲れ様です。
大野:お疲れ。今日はありがとね。
波瑠:いえ、こちらこそ。私、ご一緒していいんですかね?
大野:こっちから誘ったんだし。でも大丈夫なの?無理してない?
波瑠:全然。声かけてもらって嬉しいです。

にっこり笑う波瑠の笑顔が大野にはまぶしかった。

ふたりが店に着くと松本は店の人間と話をしていた。
相葉と二宮はまだのようだった。

ふたりは個室に通され、隣同士の席に座って他のメンバーが到着するのを待った。

波瑠:こうやって大野さんとお食事するの久しぶりですよね。
大野:そうだよね。「今度行こうね」ってLINEはよくしてるけどね(笑)
波瑠:そうですよ、大野さん、全然約束してくれないじゃないですか。
大野:えっ?だって…波瑠ちゃん忙しそうだしさ…
波瑠:うそ!面倒くさいだけでしょ!
大野:そんなことないよ…。それに波瑠ちゃんだって、あんまり約束入れるの好きじゃないって言ってるじゃん。
波瑠:それは…
大野:でしょ?
波瑠:それは…否定しないです(笑)
大野:やっぱり(笑)


大野は本当は何度も波瑠を誘おうと思っていた。ふたりで会いたいと思っていた。大野は波瑠に、友人でも仕事仲間でもないそれ以上の感情を持っていた。

だがこれからの人生において方向の定まらない自分にはそんな資格はないような気がして、足を踏み出さないままでいた。

それでも、こうやって社交辞令だとしても波瑠が自分に歩みよろうという素振りをみせてくれることが、大野は素直に嬉しかった。

大野:もし今度一緒に飯行くとしたらさ…
波瑠:えっ?いいんですか?
大野:ふぐにしようか
波瑠:ほんとっ?!
大野:今日、すごく美味しそうに食べてたもんね。

波瑠がゲスト出演した嵐にしやがれのデスマッチのコーナーで、波瑠の好物はふぐだと紹介されていた。
そして波瑠は見事クイズに正解し、高級ふぐ料理を口にしたのだ。

波瑠:あれはすごく美味しかったです。また食べたいです。
大野:じゃ、波瑠ちゃんのおごりで。
波瑠:なんですか、それ!せめて割り勘にしてくださいよ。

ふたりで笑った。

大野:でもふぐだとちょっと敷居が高いかな。
波瑠:そんなに割り勘が嫌なんですか?
大野:違うよ!(笑)
波瑠:(笑)

大野:もっと気楽にさ…
波瑠:あ…うん…そうですね。

大野:他に好きなものある?
波瑠:好きなもの?
大野:うん
波瑠:あ…ありますよ。一番好きなものが。
大野:なに?

波瑠は少し背筋を伸ばす。

波瑠:…大野さんです。
大野:…えっ?

猫背のまま前を向いて話していた大野だが横を向き、隣に座る波瑠を見る。

波瑠はまっすぐ大野を見つめる。

波瑠:私が一番好きなのは…大野さんです。
大野:波瑠ちゃん…

ふたりは見つめあった。

突然の告白に大野は困惑し、波瑠から視線をはずした。

波瑠:…って言ったらどうします?
大野:…えっ?

再び顔をあげ波瑠を見つめる大野。

波瑠:ひっかかった~。ビックリしました?

屈託のない笑顔の波瑠。

大野:…なんだ…冗談?
波瑠:私のおごりでなんていうから仕返しです(笑)
大野:もう…そういうのやめてよ。

少し唇を尖らせながら苦笑いする大野。

波瑠:ふふっ。ごめんなさい。

波瑠は視線を落とした。
膝の上でハンカチを握りしめる手が震えていた。


部屋の扉が開いた。

二宮:お待たせしました~!!
相葉:遅くなってごめんね。

二宮と相葉が慌てて入ってくる。

大野:あ…おつかれ。
波瑠:お疲れ様です。

二宮:あれ?ふたり?あらら、ご両人水入らずで?
相葉:(笑)れいさんとみささんじゃないですか!

大野:…いや…

顔を見合わせ微笑む大野と波瑠。

相葉:翔ちゃんは?
大野:打ち合わせが残ってたみたいで先に行っててって。
二宮:そうなんだ。あ、波瑠ちゃん、急だったのにありがとね。
波瑠:いえ。お誘いありがとうございます。

二宮:あれ?Jもいないの?一番先に出たよね。
大野:メニューがどうのこうのって、あっちでまだ店の人と話してるよ。
相葉:こだわりすごいもんね。
二宮:悪いけど、俺、食ったらすぐ帰るから(笑)

皆が笑った。

櫻井:悪い!!遅くなって!

櫻井が到着し、松本も席に着いて6人のうちあげは始まり楽しく時間は過ぎていった。

トイレに行くと言い、大野が席をはずした。

櫻井:波瑠ちゃんさ、ぶっちゃけた話、彼氏いるの?
波瑠:えっ?
二宮:翔さん、ぶっちゃけすぎ。
松本:俺も気になる。いるの?
波瑠:いえ…いないです。
櫻井:よし!
相葉:翔ちゃん、何、気合い入れてんだよ。
松本:(笑)でもさ、つきあってる人はいなくても気になってる人くらいはいるんじゃない?
二宮:ぐいぐい行くね~
波瑠:気になってる人ですか…
松本:…いるんだ。そういう人。
波瑠:まぁ…はい…
櫻井:そっか~そりゃいるよね~
相葉:翔ちゃん、落ち込み具合も激しいね(笑)

二宮:波瑠ちゃんさ…
波瑠:はい。
二宮:リーダーのこと、どう思ってる?
波瑠:…え?
櫻井:いや…ごめんね、こんな質問ばっかりでさ。
波瑠:いえ…
松本:リーダー、波瑠ちゃんと仲良さそうだなと思ってさ。
波瑠:そうですか?
相葉:珍しいんだよね、リーダーが女の人としゃべるの。他のゲストさんとかは男性でもほとんど口きかないんだから。
櫻井:波瑠ちゃんとはドラマで共演してるっていうのもあるんだろうけど、それでも珍しいよね。
波瑠:はぁ…

二宮:でさ、波瑠ちゃんがリーダーのこと、気に入ってくれてたらいいなと思ったわけ。
相葉:でも波瑠ちゃんに好きな人がいるんじゃね。
波瑠:あの…大野さんはどう思ってるんですか?
櫻井:あ…ごめん…そのあたり、智くんの気持ちを確認したわけではなくて。
ただあの人、結構態度に出るから。
二宮:わかりやすいよね。
相葉:で、俺らがこうやって勝手に動いてると(笑)
松本:本人の了解もなくね(笑)

櫻井:そのさ、波瑠ちゃんの気になってる人とはさ、今後うまくいきそうな感じなの?
波瑠:いや…どうですかね…
松本:同業者?
波瑠:まぁ…はい…
相葉:最近は若手イケメン俳優多いからな~
波瑠:(笑)
松本:波瑠ちゃん、ここんとこずっとドラマ出てるもんね。
櫻井:智くんには勝ち目なしか…俺ら結構なおじさんだし。
波瑠:…そんなことないですよ。皆さん素敵です。それに…
松本:なに?
波瑠:なんだか…大野さんに悪いです。

二宮:波瑠ちゃん。
波瑠:はい?
二宮:もしかしてさ、その気になってる人って…
波瑠:…
相葉:えっ?…まさか?
波瑠:…
松本:リーダーなの?

波瑠:…はい…

波瑠は恥ずかしそうにしてうつむく。

櫻井:おっしゃ~っっ!!

ガッツポーズをあげる櫻井。

二宮:翔さん、喜び過ぎ(笑)

部屋の扉が開き、大野が入ってくると一斉に皆が大野を見る。

大野:な、なに?

松本:いや…
大野:なんか、盛り上がってたね。翔ちゃんの叫び声が部屋の外まで聞こえたよ。
櫻井:大盛り上がり(笑)
大野:なんか…楽しそうで良かったね。

話題に入れず、不服そうに大野は自分の席に座ると、隣の波瑠に声をかける。

大野:波瑠ちゃん、時間大丈夫なの?明日の朝早いんだよね?
波瑠:あ、はい…そうですね。もうそろそろ…
二宮:あれあれ~さすがれいさん、みささんのスケジュールは把握してらっしゃる。
大野:違うよ。ここに来る時、車で聞いたの。ね?

大野は波瑠に同意を求める。
波瑠はなんとなく恥ずかしくて、大野と目を合わせずに「はい」と答えた。

松本:そろそろいい時間だし、お開きにしよっか。
相葉:そうだね。そうしよ。
櫻井:あ~今日は思いがけない収穫があったな。いい夢見れそうだ。
大野:何があったの?
二宮:リーダーには内緒。
大野:え?

松本:はいはい、じゃ、一本締めでね。


帰りはそれぞれでタクシーで帰ることになった。

最初のタクシーは波瑠に乗るように誘導した。

波瑠:今日はありがとうございました。楽しかったです。
松本:またよろしくね。気をつけて。
波瑠:はい。

波瑠は皆に向けてお辞儀をしてタクシーに乗り込んだ。

櫻井:智くん、今日よかったよね。
大野:えっ?何が?
二宮:うちあげに波瑠ちゃんが来てくれてってことよ。
大野:いや…別に俺は…
相葉:リーダーが波瑠ちゃん気に入ってるの、見ててわかるもんね。
大野:そんな…そんなことないよ。
櫻井:(笑)超絶にわかりやすい。
松本:波瑠ちゃんも楽しそうだったしね。

大野をのぞく4人が目配せする。


櫻井:あのさ、例の件だけどさ、2月でいいよね。
松本:あぁ…そうだね。ツアー終わって少し落ち着いてからがいいね。
相葉:いよいよか…
二宮:どうなるのかな、これから…
大野:…

「嵐解散」の希望を事務所に報告するタイミングを5人は図っていた。
半年近く5人で何度も話し合い出した結論だった。事務所とは揉めずにスムーズに話を進めたかった。大野の為にも。

大野は「何事にも縛られない生活」をのぞんだ。40を目前にして、人生の折り返しは今までのようなしがらみから解放されたかった。

そして同時に、メンバーにも自由な生活、自由な活動の場を与えてあげたいと願っていた。

大野からの告白を受けた当初はそれぞれ違う思いを持つ5人だったが、終わりではなく新たな始まりとして「嵐解散」の意向を事務所に報告する結論に達した。


櫻井:ま、事務所がふたつ返事で了承するとは思えないし、長い道のりになるかもしれないけどさ。
松本:前向きな話だしね。
大野:ほんと…ごめん…
二宮:リーダーが悪いわけじゃないじゃん。皆で出した答えだよ。
相葉:そうそう、リーダーは自分の為だけに言い出したわけじゃないんだし。
大野:ありがとう…

櫻井:あとは大野智の介護要員の手配に全力を尽くさないと。
大野:(笑)なんだよそれ。
櫻井:あなたから任命されたのよ、私。介護要員だって。
松本:あぁ、そんなこと言ってたね(笑)
大野:そうだっけ?
二宮:言ってた言ってた。

櫻井:いや、俺がね、本当に介護要員になれればまだいいのよ。
二宮:なれないの?(笑)
櫻井:俺が不安なのは…2021年になったらさ、あなた、我々と連絡断つつもりなんじゃないの?
大野:…そんなことないよ
二宮:なんか、間がありましたけど?
相葉:あ、怪しい~
大野:いや、そんなことないって(笑)
松本:リーダーってさ、ひとりが好きってよく言ってるじゃん。
大野:うん
松本:ま、実際、ひとりの時間も多いんだろうけど。
大野:多いね。
二宮:それが心配なんだよね。
大野:えっ?
二宮:今までみたいに定期的に顔を合わせることがなくなるわけだから。
大野:うん…
相葉:そうだよ。極端な話、死んじゃってたって、わかんないんだよ。
大野:そんな…
櫻井:あり得ない話じゃないよ。

4人はまだ方向性の定まっていない大野の未来が心配だった。自分達とは違い、大野は事務所を辞めてこの世界から消えようとしている。

経済的な面は何も心配していないが、強さと弱さを併せ持った大野のこれからを案じていた。

大野のそばに誰かいてくれたら…4人は心から願っていた。


大野:何かあったら翔ちゃん達に連絡するように母ちゃんに言っとくよ。
櫻井:そういうんじゃなくてさ、結婚するとかさ。
相葉:そうだよ、いないの?誰か。
大野:いないよ。
二宮:波瑠ちゃんでいいじゃん。
大野:波瑠ちゃんでって…波瑠ちゃんに悪いよ。

波瑠も同じように言っていた。

松本:おんなじこと言ってる(笑)
大野:えっ?
相葉:ほんとだ(笑)
櫻井:…やっぱ…運命なのかな…
二宮:俺達がちょろちょろしなくてもいいんじゃね?
相葉:そうだね、うまくいくものもいかなくなっちゃうかもね。

大野:俺は…

4人は大野を見つめた。

大野:俺は自分がどうしたいのか…それすらわかってないから…

夜空を見上げる大野。
その姿はそのまま消えてしまいそうに見えた。





つづく