翌日、緊張した思いのままスタジオに早めに着く波瑠。
先輩女優が到着したと聞き楽屋に挨拶に行き、波瑠は大野に話した通りに勇気を出して自分の気持ちを伝える。
その女優のマネージャーも加わり会話する中で、その女優が人違いで波瑠に腹をたてていたことが判明する。その女優は素直に非を認め波瑠に謝り、その後の現場では和気あいあいと進む。
10時に休憩が入り、スタジオから出てきた波瑠のドラマのスタッフは大野とすれ違う。
スタッフ1:☆☆☆(先輩女優)、急に波瑠ちゃんに優しくなったよな。
スタッフ2:別の新人女優の発言を波瑠ちゃんと勘違いして怒ってたらしいんだけど誤解がとけたらしいよ。
続いて波瑠がその先輩女優と楽しそうに話しながらスタジオから出てくる。
撮影が順調に進み、波瑠は昼前に上がりになる。
波瑠が心配でスタジオから少し離れた場所に朝から来ていた大野。
スタッフの会話を聞き波瑠の楽しそうな姿を見て安心してその場所を離れる。
スタッフ1:あれ?あれって嵐の大野さんだよね。
スタッフ2:そうだね。撮影かね。
スタッフ1:いや、今日の撮影は俺達の現場だけだし。でも朝俺が来たときにも見かけたんだよな。
今日の撮影が終わった波瑠はそのスタッフ2人に向かって「おつかれさまでした」と挨拶する。
スタッフ1:波瑠ちゃん、この前嵐さんの楽屋に挨拶に行ってたよね?
波瑠:えっ?
少しドキリとする波瑠。
波瑠:あ、はい。何かありましたか?
スタッフ1:いや、今、大野さんがいたんだけど。朝もこの辺で見かけたから、何かの撮影かなと思ったんだけど。今日のこの時間はうちの現場しかないから波瑠ちゃんに用事があるのかなと思って…。
波瑠:大野さんが?…あの、大野さんはどこにいるんですか?
スタッフ2:あっちの方に歩いてったね。帰る感じに見えたけど。
スタッフにお辞儀をして、スタッフが指を指した方向に走る波瑠。
裏の出口に繋がる通路で大野の姿を見つける。
波瑠:大野さん!
波瑠の声に驚いて振り向く大野。
大野:…波瑠ちゃん…
大野のそばにたどり着く波瑠。
波瑠:大野さん…。
大野:ん?
波瑠:おはようございます。
大野:おはよう…。
ばつが悪そうに挨拶を返す大野。
波瑠:今日お仕事になっちゃったんですか?
大野:…うん、あ、いや、ちょっと忘れ物を思い出してさ。気になったから取りに来たんだ。
波瑠:そうだったんですか…。
大野の態度で、もしかしたら大野は自分を心配して来てくれたのかもしれないと思う波瑠。
大野:あ、波瑠ちゃん仕事は?
波瑠:今終わりました。今日はすごい順調に進んで。もう帰るところなんです。
大野:もう上がれるんだ?よかったね。
波瑠:大野さん。
大野:ん?
波瑠:昨日お話した☆☆☆さん(先輩女優)の件なんですけど。
大野:うん。
波瑠:無事にわだかまりがとけて。いろいろお話できるようになったんです。
大野:そうなんだ!よかったじゃん!
すでに知っていたような大野のぎこちない態度で、その件が解決したのを知って大野は帰ろうとしたのだと波瑠は察知する。
大野はやはり自分を心配してきてくれたのだと確信する波瑠。
波瑠:…ホントに…嬉しいです…。
涙が溢れだす波瑠。
先輩女優とわだかまりが溶けた時も涙を堪えられた波瑠だが、大野に会えて気持ちが緩んでしまう。
大野:波瑠ちゃん…よかった、よかったね…。
大野は思わず波瑠の肩を引き寄せようとするが、人が来たので慌ててやめる。
泣いている波瑠を壁側に移動し自分の身体で通行人からよく見えないようにして、波瑠の涙が止まるのを優しく見守る大野。
大野:昼飯でも食べて帰る?
波瑠:一緒にいいんですか?
大野:家に何もなくてさ。波瑠ちゃんが大丈夫なら。
波瑠:全然大丈夫です。ちょっとだけ待っててもらっていいですか?楽屋片づけてマネージャーに挨拶してきます。
大野:この辺にいるね。
別々のタクシーに乗り波瑠の誘導で湾岸近くの会員制のレストランに行く。
海の見える個室に通されるふたり。
大野:きれいな店だね。
波瑠:事務所の関係者がオーナーみたいなんです。
大野:それなら安心だね。
なんか、気楽にそのへんのお店でお茶したりとかしたいけど、なかなかできないよね。
波瑠:そうですね…女の子同士でも最近は難しくて。大野さんと一緒のところなんて見つかったら大変なことになりそう。
大野:俺なんて大したことないのにな。アイドルだと騒ぎになるよね。自分でいうのも変だけど(笑)俺、元々そんなに付き合いのいい方じゃないのにますます行かなくなったよ
さみしそうに笑う大野。
波瑠:あ…大野さん、何にします?
大野:ビールと…
波瑠:お昼からいっちゃいます?
大野:いっちゃいます(笑)
波瑠:じゃ、私も(笑)
あと、適当に頼んでいいですか?
大野:うん、まかせるよ。
ビールが運ばれてくる。
大野:では、波瑠ちゃんの問題解決をお祝いして…乾杯!
波瑠:ありがとうございます。
大野さん、昨日お渡しした服着てくださったんですね。
大野:そうそう。早速。ありがとね。
波瑠:やっぱりイメージ通りで素敵ですよ。
大野:そう?ありがとう。仕事場に着てったらニノあたりに何か言われそうだな。
波瑠:大野さんはアクセサリーはしないんですか?
大野:若い頃はしてたんだけど、最近はサッパリだね。興味がなくなっちゃって。おじさんだね(笑)
おどけたように笑う大野。
波瑠:そんな。大野さん若いですよ。顔が可愛らしいから余計に。でもたまにものすごいおじいちゃんみたいになりますよね。
大野:よく言われる(笑)
窓から東京湾の海が見える。天気がよく穏やかな海はキラキラしている。
テーブルから立ち窓から海を見る大野。
大野:セカムズのさ、最終回のロケで行った海、きれいだったよね。
波瑠も立ちあがり、大野の隣に立って海を見る。
波瑠:そうでしたね…。お天気もよくて。撮影も楽しかったです。
大野:あの時俺、ずっと夢の中にいるみたいだったよ。心ここにあらずみたいな。
波瑠:あ~…セリフでいっぱいいっぱいみたいな感じでしたね(笑)
大野:そうそう(笑)
撮影時を思いだして笑うふたり。
あの時の大野はセリフは完璧に頭に入っていた。そのあとに待つ波瑠とのキスシーンに緊張して上の空だったのだ。
大野:でも監督の言うとおりにやって、あんな素敵なシーンになったもんな。
波瑠:ホントですよね…。
大野は波瑠の方を向く。
波瑠も大野を見つめる。
一瞬だけドラマのシーンのような雰囲気が流れたが、店のスタッフからランチのラストオーダーが告げられる。
波瑠:あ…大野さん、飲み物大丈夫ですか?
大野:あ、うん。もう大丈夫だよ。そろそろ行こうか。
波瑠:はい…
ふたりはまた別々のタクシーで帰る。
波瑠は自宅に着く。
大野のことばかり考えて何も手につかない。
波瑠:あぁ、ダメだ。こんなんじゃ。ちゃんと仕事しないと。
波瑠は台本をかばんからとり出す。
大野も自宅に着く。
ビールを飲みながら波瑠の顔を思い浮かべる。
大野:…でも、俺には自信がないな…
大野は静かに目を閉じる。
続く