産経新聞の書評だ。評は島田洋一氏=現在福井県立大学名誉教授
日本外交の劣化=山上信吾著(文芸春秋社)

よくぞ書いてくれた、と読みながら何度も思った。外務省の中枢にいた人が、実名を挙げつつ日本外交の闇に斬り込んだ本書はまさに画期的と呼ぶにふさわしい。
例えば歴史戦について山上信吾氏は、斎木昭隆元外務事務次官が発した「敗戦国は歴史を語る立場にない」という言葉を厳しく批判する。
「一部の外務官僚がクールなリアリストを気取り、主張すべきを主張せずに拱手傍観している間に、国家や民族が貶められていく。こんなことを看過するわけにはいかない」。戦争に負けて外交に勝つ、があるべき気概ではないかと言うのである。「クールな」態度は勉強不足にも起因する。歴史を堂々と語る知識がないから「歴史を語る立場」を打ち出せない。これは多くの「国際政治学者」にも言えることだ。自戒したい。
本書は外務省を巡るさまざまな疑問も浮き彫りにする。
「北朝鮮による拉致問題で安倍氏に評価されたが故に次官に就任できたと省内外で評されてきた斎木」氏が、確実とみられた駐米大使になれずに退官に至った経緯について山上氏は、安倍晋三首相(当時)による北方領土交渉の「前のめり姿勢に対して慎重論を展開したこと」で「安倍氏とその側近の不興を買って遠ざけられた。少なくとも、それが省内関係者の受け止め方だ」と記している。
これが外務省の「受け止め方」だとすれば危うい。私の知る限り、斎木氏が安倍氏の信を失った最大の理由は拉致問題にあった。すなわち、北が内々に生存を伝えてきた、日本に身寄りのない拉致被害者2人の一時帰国、および他の被害者に関する「日朝合同調査委員会」立ち上げを以て解決とする線で斎木氏が日朝協議をまとめようとした。これを欺瞞であり背信と見た安倍氏が斎木氏を切った―。
拉致問題は現在進行形の事案だけに、実務交渉を担う外務省の「組織の記憶」は重要である。膝を打つにせよ、疑問を覚えるにせよ、本書に退屈な部分は一ページもない。

以上が書評だが、早速書店に行きぱらぱらと読んでみた。確かに面白そうだ。元外務官僚の方の内側から見た日本外交のあり様だ。現役を外れた方なので内容は生々しい。
しかし、1800円(税別)も出して買うほどか・・・、と思い、その足で逗子図書館に行き、リクエスト(買ってもらい、入庫したら一番で私に通知)をした。多分また忘れたころに入庫した通知が来るのだろう(^^)。最近は物価上昇がはなはだしいが、本も同様だ。数年前なら半値ぐらいで買えただろうに。今は書評で我慢しよう。