最近台湾有事についていろいろ言われている。「台湾有事は日本の有事だ」、とすら述べる人もいる。では、その台湾有事とは何だろうか?
鈴木一人・東大教授の発言を引用する。

〇 台湾有事はすでに始まっている
台湾有事の可能性について、どう考えていますか?

鈴木:その質問に答える前に、何点か整理しておく必要があります。一つ目は、どういうタイプのことを「台湾有事」と呼ぶか。全面的な着上陸侵攻(編集部注:艦船や航空機などにより地上部隊を相手国の国土に送り、上陸させる侵攻形態)を有事と捉えると、その確率はおそらくそんなに高くないと考えられます。 その理由は、本格的に着上陸侵攻をやり遂げるための能力が中国にはまだ欠けていて、大規模な着上陸侵攻で中国が被る損害と台湾を併合するメリットとのバランスで考えると、努力に対して得られるものが少ないからです。
中国にとってもっと賢いやり方がいくつかあります。例えば、最も可能性が高く、すでに中国が一生懸命に取り組んでいるのが、平和的演変(編集部注:軍事力を使わず体制の崩壊や転換を図る)です。まず、国民党を中心とした親中国派の政権をつくり、中国の影響力を受け入れる方針をとらせていく。そして、次の段階としていわゆる「香港スタイル」を実行していくというものです。
 「香港スタイル」とは何かというと、親中政権ができて親中路線に舵(かじ)を切ったとしても、それに反対するデモなどは必ず起きるので、抵抗に対して警察力で抑え込みます。香港の場合は、一国二制度とは言いながらも主権は中国にあるので、形としては香港の警察が、事実上は中国の公安が、香港のデモを潰して、言ってしまえば政治的自由を奪って香港を支配したわけです。着上陸侵攻や武力を使わず警察力を使うこのやり方が、二つ目のタイプの有事です。
 武力を使うとすれば、着上陸侵攻よりも可能性が高いのは海上封鎖です。台湾は島なので、台湾に入ってくる物資の供給を完全に止めることができれば、石油や食料の備蓄がなくなり干上がってしまいます。海上封鎖は戦争行為と認定されますが、武力を行使するとしてもこういったいくつかの段階があるわけです。
 この三つのタイプで言うと、サイバー攻撃なども含めた平和的演変は、すでに実行されていますが、今のところそれほど効果を生んでいないので、2024年1月の台湾総統選挙が一つの鍵になるでしょう。鴻海グループ創業者のテリー・ゴウ(郭台銘)も出馬を決め、4人の候補による戦いが起きようとしています。テリー・ゴウは親中派に近い候補ですが、彼の出馬によって結果的には親中派の票が分かれることになります。

台湾有事に関して、着上陸侵攻の可能性は低いが、平和的演変はすでに始まっており、その先の海上封鎖が懸念される、と話す鈴木氏だ。