日経ビジネス電子版から、ダロン・アセモグル米MIT教授のインタビュー記事があった。面白いので少し引用して私の所感も述べてみたい。

国が繁栄する条件は何か、成長が止まった時、国は何をすればいいのか。米マサチューセッツ工科大学のダロン・アセモグル教授は「国が長期的に、持続的に成長するためには創造的破壊を通じて最高の技術が生まれ、その技術を使って最高の制度にする必要がある」と指摘。その時、「全員政治」の制度と「全員経済」の制度、双方を同時に実現することが望ましいという。

たとえば、旧ソビエト社会主義共和国連邦がそうでした。ウラジミール・レーニンが率いたボリシェビキによる徹底的な中央集権体制によって、国がすべてを管理して最初はうまくいきましたが、結局、誰も創造的破壊を起こそうというインセンティブを持たなくなり、成長が止まりました。技術キャッチアップ型経済、あるいは(石油など)特定資源の利用による収奪的な成長と全員参加型の成長では違うのです。構造的に創造的破壊を必要としない前者はやがて行き詰まり、長続きしません。

英国が産業革命で劇的に成長したのは、それに先立つ1688年に名誉革命があり、創造的破壊が生まれる素地があったからです。だから産業革命が波及しても、近隣諸国では必ずしもすぐに劇的な成長につながらなかった。経済だけでなく政治制度も中央集権型から全員参加型に移行しないと難しいのです。

中国がこれまで発展したのは「技術キャッチアップ型経済」、すなわち他国をモデルにしてエリートが牽引して追いつく「収奪的な成長」だったからです。まだしばらくの間は成長すると思いますが、1950年代、60年代に順調に成長していたラテンアメリカ諸国で、70年代に成長が止まったのと似たような未来を思い浮かべます。中国はまだ低中所得層中心の国ですし、技術的キャッチアップの余地も当面まだまだありますが、それが尽きた時、創造的破壊、技術進歩が起こるオープンな市場に移れるのかどうかがカギです。
政治がより幅広く多様な人々の手で運営されるようになれば、成長が続く可能性は高いでしょう。中国は準全員参加型の政治体制に移行しようとしている最中ですね。制度に必要なのは、土地の私的所有権が認められること、適切な法規制が機能すること、そして適切な税制などでしょう。つまりは創造的破壊を起こすためのインセンティブが制度的に重要だということです。

→ 中国に関しては、欧米、そして日本も、中国が経済的に発展すれば自由主義や民主主義が自動的に発展し自由世界の仲間入りをするだろう、との観測で欧米や日本が資本を投下し、官民揃って支援をしてきたが、もはやそうはならないことが明白になった。西側の観測が間違っていたと言えると思う。だから教授の言う、中国の見方もそうならない可能性も大きいと思う。

?日本は欧米へのキャッチアップ型の発展を終えた後、創造的破壊を起こせる全員参加型社会に向けての改革がうまくいかず、過去20年経済の停滞に苦しんできたように思えます。

 いくつかの要因があると思います。もっと開かれた経済への変革がうまくいくかどうかは、「どれだけ社会が『全員参加型』か」次第です。スターリン主義のようなモデルでさえも基本的な成長は可能なのですが、やがて息切れするのです。日本は第2次大戦後、多方面でそれ以前に比べればまずまず全員参加型の仕組みを築きましたが、部外者の目から見るとまだ問題が多いように見えます。
キャッチアップ型の時には、大企業を基盤にしてうまくやっていくことができました。投資をして、既存の技術に適応していけばよかったからです。しかし、米国のソフトウエアやバイオ技術、ナノ技術などのように動きが激しい業界においては、カギとなるのはベンチャーです。果たして国内の環境、経済制度が、新しいプレイヤーが入れ代わり立ち代わりやってきて、容易に資金調達ができ、必要な支援を受けられるものになっているかどうか。そして、一緒にアイデアを実現しようとあちこちからやってくるような人々を雇用できる環境を整えているかどうか。日本はおそらく、米国や他の国々に比べ、そこでつまづいているのでしょう。

→ この見方は鋭いと思う。我々日本人は日本にいると見えて来にくい事を指摘している。やはり世界水準からみると、日本はベンチャーが育ちにくい、世界から雇用を確保する、について後進国なのだろう。