【もうすぐ25回目の「五月雨忌」】歌手・村下孝蔵の美声が運ぶ四季の移り変わりと愛しい日常の変化…『初恋』は梅雨を優しい季節にしてくれる

 

『初恋』、『踊り子』(いずれも1983年)などの楽曲で知られるフォーク歌手・シンガーソングライターの村下孝蔵さん。1980年、遅咲きと言われる27歳でのデビューだったが、1990年代を通じてヒットを連発した。1999年に46歳という若さで亡くなってから今年で25年が経つ。命日の6月24日は「五月雨忌」。

 

中森明菜さんとの縁

私が村下孝蔵さんの楽曲のカバーで、ご本家と同じくらい好きなのが、中森明菜さんによる『踊り子』である。静かで哀愁があって、あやうくて。まさに、歌姫と歌人の最強タッグ! 

このおふたり、ジャンルが違うように見えて、不思議な縁があるようだ。 なんと彼は、中森明菜さんのデビュー曲を作る作家候補に入っていたのだとか。もちろん『スローモーション』が超名曲なので、明菜さんのデビューはあれでよかったのだと思うが、それでも、村下孝蔵さんが楽曲を書いたデビュー曲も聴いてみたかった……! 

また、彼女は1989年に1年間休養をしているが、1991年、村下孝蔵さんは、『アキナ』いうシングルを発表している。

 当時、「同じ歌手として明菜さんを応援しているし、また是非歌って欲しいと思っているので彼女への応援歌として解釈されても構わない」と自ら仰っていたそう。「可憐に咲きな」など『アキナ』の韻を踏むその歌詞を見ても、純粋で一途だからこそ生きにくい彼女にあてた歌のようにも思える。

 

6月24日は「五月雨忌」

アキナ』は、もちろん中森明菜さんをモデルにしたのだろうが、個人的なメッセージだけではなく、「現代の元気のない女性たちへの応援歌」として作った部分もあったようだ。確かに「アキナ」という名前は歌詞に最後の一回だけしか出てこない(だからこそ印象的なのだが)。ここを「稲」に変えれば、私のための応援歌に早変わりである。一度やってみたが、泣けるほど励まされた。

 そしてこのCD、B面も『タカハシ』と固有名詞だ。歌詞にはサッカー部の高橋君が登場する。彼がアキナと同じく、実在する人かモデルなのかはわからない。でも、「僕は大丈夫」「僕は負けられない」と歯を食いしばる高橋君と、その姿に勇気をもらう「村下君」の姿はありありと想像できる。

 元気で明るく勇気のある人はもちろん魅力的だけれど、グッと我慢して努力し、傷つく人の純粋さもまた、雨のように誰かの心を潤し、景色の美しさに気づかせてくれる。彼の歌は、大切な人、大切な風景をフィルターにして、そんな、すべての頑張る人たちに向かっているように感じてならない。

 中森明菜さんが『踊り子』のカバーを発表したのは2003年。村下孝蔵さんは、1999年、46歳という若さで亡くなってしまったので、ご本人は聴けていない。

 生きていたら、と思わずにはいられない。また、今年から本格的に活動再開をした中森明菜さんのニュースを見て、ふたりの共演を観たかった、と心から思う。

 命日である6月24日は、『初恋』の歌詞と、梅雨の季節とを重ねて、「五月雨忌」と呼ばれているのだそうだ。

 亡くなって25年経つとは思えないほど、彼の歌はいまだに、瑞々しい。 五月雨は緑色。夕映えはあんず色。

 季節ごとに色を変える花や葉や空が、その声と、美しい言葉を思い出させてくれる。