【歌姫伝説 中森明菜の軌跡と奇跡】中森明菜に心境の変化〝最初で最後のセルフカバー〟集 2002年発売「Akina Nakamori〜歌姫ダブル・ディケイド」

 

昨年来、中森明菜は「北ウイング」をはじめ「TATOO」など、かつてのヒット曲をセルフカバーとしてユーチューブに投稿し続けている。そんな明菜が、2002年12月4日に発売したのが「Akina Nakamori〜歌姫ダブル・ディケイド」だった。このアルバムは明菜にとって今や〝最初で最後のセルフカバー〟集になっている。当時を知る芸能記者が振り返る。

明菜が過去のヒット曲をニューバージョンで発売するわけですから、明菜の本気度が伝わってきましたね。というのも明菜は基本的に〝自分の作品は常に乗り越えるもの〟という気持ちが強かったので、自らのヒット曲を再レコーディングするなんてことはありませんでした。ユニバーサルミュージックに移籍した事情があったとしても、(武部聡志や千住明らの)新しいアレンジでセルフカバーしたことは、ある意味で心境の変化があったのでしょう」

その上で、明菜については「心機一転、自らのヒット曲を振り返りたいという思いに行き着いたのかもしれない」とし、その裏事情は「おそらく(移籍に動いてきた)寺林晁さん(当時はユニバーサル執行役員マーケティング・エグゼクティブ)への感謝の思いも強くあったと思います。デビュー前からの関係で、『日本レコード大賞』では『ミ・アモーレ〔Meu amor é…〕』『DESIRE―情熱―』と〝V2〟獲得に導いてくれた人ですから。確かに、その後の不運はありましたが、20周年のタイミングで再タッグを組んだ。切っても切れない縁かもしれませんが、明菜も感慨深かったはずです。いずれにしても、明菜のヒット曲は松田聖子の作品と並んで80年代の歌謡史を切り取ったようなものですからね」。

「歌姫ダブル・ディケイド」が発売されるタイミングで前代未聞とも思える展開が図られた。なんと松田聖子のヒット曲「瑠璃色の地球」の明菜バージョンが、携帯電話「au」の展開する「ムービーメール」のテレビCMに抜擢されたのだ。

「瑠璃色の地球」は、ユニバーサルへの移籍第1弾として発売されたアルバム「ZERO album〜歌姫Ⅱ」(02年3月20日発売)に収録したものだった。明菜にとって聖子のヒット曲をカバーした〝最初で最後の作品〟だ。

「CMはムービーメールの新シリーズで『最後のメール』編として製作されました。コンセプト的には聴覚障害を持った女性が、写メで恋人と気持ちを伝え合うというものでした。クリスマスシーズンに合わせたCMでしたが、ある意味、山下達郎さんの『クリスマス・イブ』を使ったJR東海のCMを意識したものだったと思います。『瑠璃色の地球』は前年(01年)に聖子が『紅白』で歌唱しており、かつ聖子と明菜は世間的にはライバル関係だったわけですからインパクトは大きい。しかも両者にとってもまったくマイナスイメージはなく、寺林さんの緻密な宣伝戦略だったことは間違いありません」(前出の芸能記者)

CM制作の関係者によると「CMでは若い2人が育んでいく恋愛をちょっとだけ俯瞰した立場から温かく見守っていく」というテーマを前提にして選曲したそうだが、復活した明菜を強烈にアピールしたことだけは確かだろう。

ちなみにCM曲に明菜の作品が使われるケースは実に少ない。

明菜の作品はCM曲に合わないのか、1980年代でもキヤノンや花王石鹸、パイオニアなど限られていました。そんな明菜がCM曲を歌ったのは『夕焼け焼けたら お好み焼こう、お好み焼けたらひっくり返そう、ひっくり返してソースかけよう…』と情感を込めて歌い上げていたブルドックソース『東京のお好みソース』(94年)以来、8年ぶりと言われていましたね」

 

 

こちらのCMは見つけました