中森明菜「北ウイング」が神曲のワケ プロシンガーも驚きの“進化”を続ける明菜はどこへゆくのか

 

 中森明菜(58)は昨年12月24日に公式YouTubeチャンネルで「北ウイング」(1984年)をセルフカバーした「北ウイング―CLASSIC―」の歌唱動画をアップした。再生回数は430万回(2月15日現在)を突破。「北ウイング」はなぜ愛され続けるのか。明菜を目指してシンガーになったというヴィジュアル系プロシンガー、Kayaが令和の明菜の「進化」を語る。

 2023年12月24日、中森明菜の公式YouTubeチャンネルが開設された。明菜からのクリスマスプレゼントだ。そこにアップされた「北ウイング-CLASSIC-」の歌唱動画は大きな話題を呼んだ。チャンネル登録者数は50.5万人で、『【公式】中森明菜「北ウイング-CLASSIC-」』は、すでに431万回(2月15日現在)再生されている。

  1984年リリースの「北ウイング」が、40年たった2024年も「北ウイング―CLASSIC―」として、愛され続ける。なぜなのか。中森明菜の楽曲をカバーしたこともあるプロシンガー・Kayaが、「中森明菜の魅力の真髄を伝えたい」と、インタビューに応じてくれた。

  Kayaはプロのシンガーであると同時に、長年の中森明菜ファンでもある。歌手を志した理由も、「中森明菜さんみたいになりたい!」と思ったことがきっかけだ。 

 

中森明菜が動き出しのが嬉しい 

「まず、少しずつ動き出してくれたことが本当に涙が出るくらい、うれしくて!」  開口一番、Kayaは興奮気味に感激を口にした。

 「作曲家の林哲司氏の『林哲司50周年記念トリビュートアルバム サウダージ』(2023年11月8日発売)に新録曲『北ウイング-CLASSIC-』があると報道されたニュースだけでも、本当に飛び上がるくらいうれしかったです!」

 「年末に歌唱動画がアップされてすぐに拝見して、変わらぬ歌声にまずは感動しました。元気そうに笑う姿も映し出されていて“これは2024年幸先いいわー!”って(笑)感じ。 

 『北ウイング』をどういう風にセルフカバーしてくるのかなって、すごくワクワクしていたんですね。どういう歌唱法でくるか、中森明菜さんファンとしても、ひとりのシンガーとしてもすごく気になっていました。その歌声は、本当に心のこもった丁寧な歌い方で、さらなる進化を遂げられた印象を受けました」

 

 ■中森明菜の「進化」 

 Kayaは『北ウイング―CLASSIC―』にどんな「進化」を見出したのだろうか。 「2000年代以降、中森明菜さんは地声をおさえたファルセットを多用した歌唱をされていました。その歌い方もとても上品で、私は大好きです。 

 でも、昔からのファンは、例えば「禁区」や「DESIRE -情熱-」など、地声を使ったパンチのある歌い方の曲もまた聞きたいなという気持ちもあると思います。

 『北ウイング―CLASSIC―』は、2000年代の歌唱法の全面ファルセットでくるのかなと思っていました。ところが、ファルセットでもなく地声を張って歌うのでもなく、ものすごく丁寧に心を込めて歌っている。優しいのだけれど力強いという印象。ここ数年の中森明菜さんの歌で聞いていなかった感じがありました。

  そういう意味での“進化”を遂げている感じがしました。“令和の明菜さん”を見つけた気がして、これはこれで心から素敵だなと思いました」

そして、中森明菜を進化させた『北ウイング』という楽曲そのものに、深い魅力があるという。

 「中森明菜さんは『スローモーション』でデビューしてすぐに『少女A』をリリースし、世間では“ツッパリ”路線といわれました。2曲目のシングルではファムファタル的な魔性を醸し出した。84年にリリースされた『北ウイング』の印象は、それまでの楽曲の雰囲気のあいだをとっているというか、少し大人の女性の憂いと少女のあどけなさが丁度よく共存しています。 『禁区』あたりまではあどけなさがややまだ多く残っている感じですが、『北ウイング』あたりから少しずつ大人の女性の憂いが増してくる。

  また、歌唱法も、Aメロ、Bメロは表現力でもっていき、サビはロングトーンで攻めるという、80年代の中森明菜さんの“武器”がここから始まっている。まさに、『北ウイング』はターニングポイントだったと思うんですよね。個人的に好きな作品のひとつです」

 『北ウイング』のみならず、中森明菜には記憶に残る名曲がたくさんある。例えば、83年『セカンド・ラブ』、84年『十戒(1984)』『北ウイング』『サザン・ウインド』、85年『ミ・アモーレ[Meu amor e……]』『飾りじゃないのよ涙は』『SAND BEIGE -砂漠へ-』、86年『DESIRE‐情熱‐』『ジプシー・クィーン』、87年『TANGO NOIR』『難破船』『BLONDE』と、オリコン年間ベスト10に5年間で12曲をランクインさせている。 

 中森明菜の姿を追い続けてきたKayaには、ある確信がある。

中森明菜さんは、ファンの予想以上に“進化”し続ける方だと思っています。それに気づいたのは、14年のNHK紅白歌合戦です。10年10月に帯状疱疹になって療養されて、そこから4年3カ月ぶりに出てきてくれたのが、紅白でした。

  どんなふうにステージに上がるのか、『DESIRE -情熱-』でくるのかな、『ミ・アモーレ〔Meu amor é・・・〕』でくるのかな……と、ワクワクしていました。そうしたら、『Rojo -Tierra-』という浅倉大介さん制作の新曲だったんです。

  普通なら自分の持ち歌の中から大ヒットした曲か、出場当時の喉のコンディションにあった曲から選ぶと思います。ファルセットを生かした曲を選ぶのではないかと思ったところ、全く違う新曲! しかも打ち込みの楽曲をもってきたというあの攻めっぷりを見ていると、『ずっと“進化”をしている人なんだ』と思いました」

 

 ■『赤い薔薇が揺れた』に期待  

そして、その“進化”で期待も裏切ってほしいと語る。 「セルフカバーするなら『DESIRE -情熱-』『飾りじゃないのよ涙は』などの王道曲ではなく、2000年代のファルセットの優しい感じでもなく、90年代後半のもの、例えば、97年にリリースされたアルバム『SHAKER』の『赤い薔薇が揺れた』とかがいいですね。

  明菜さんは、ロックが好きだから生演奏の曲にこだわりがあって、打ち込みの曲は好きではない、踊るにはいいけど歌うにはちょっと、と当時回答されていたように思うんですね。でも、『赤い薔薇が揺れた』など90年代の作品では、打ち込みの曲に多く挑戦された。

 『赤い薔薇が揺れた』は隠れた名曲で、あの曲をいまの明菜さんが歌ったらどうなるんだろうという期待もあって、ぜひ聞きたいですね」  もちろん、中森明菜のステージも待ち望んでいる。

 「昨年末は、もしかしたらサプライズでNHK紅白歌合戦に出演するのではないかと、自分のカウントダウンライブを休んで待っていました!(笑)

 今年こそ紅白で元気に歌う姿を見たいと思います。 『北ウイング』は84年1月1日にリリースされた曲です。2024年末を40周年の『北ウイング』で締めくくるのは、ストーリーとしても素敵ではないかなと思います」 

 自身の夢の話も飛び出した。 「私は小さい頃から紅白歌合戦に出るのが夢なんです。なので、夢は大きく、今年は明菜さんが紅白で復活、Kayaは紅白初出場!(笑) 無謀な夢でも、言霊になってくれるかも。

  世の中悲しいニュースが多いなかで、中森明菜さんがどこかで歌い続けていてくれて、笑顔でいてくれる。そして、いつかまたステージに立つという明るいニュースを運んできてくれる……そういう思いを大切にしています。私にとって、中森明菜さんはかけがえのない存在です」

  年末の話は少し気が早すぎるが、私たちはとにかく中森明菜を待っている。進化を止めない令和の中森明菜を待っているのだ。