三浦祐太朗、母・山口百恵さんの後押しで歌い継ぐ「祐太朗の声で、私の歌っていた曲を聴けるのはうれしいことだよ」

 

 シンガー・ソングライターの三浦祐太朗(39)が、21日に初オールタイムベストアルバム「歌い継がれてゆく歌のように」をリリースする。2011年にソロ活動を始め、10年以上の軌跡をたどる一枚。新録のオリジナル2曲や、母親の元歌手・山口百恵さん(65)の新録カバー2曲を含む全17曲が収録される。三浦百恵さんの楽曲を歌い継ぐ“覚悟”や転機になった出来事、不惑を迎える心境を語った。(加茂 伸太郎)

  三浦はひと言、ひと言かみ締めるように、丁寧に言葉を紡いだ。「まさか自分がベストアルバムを出せるなんて。夢にも思っていなかったですから。ソロデビューして10年以上がたちますが、その歩みを一つの形にできて光栄です」  2008年にバンド・Peaky SALTのボーカルとしてメジャーデビュー。10年にバンド活動を休止し、11年にソロプロジェクトを始動した。今作にはソロ活動の軌跡を集約。オリジナル11曲(新録2曲)と、百恵さんのカバー6曲(新録2曲)の全17曲が収録された。

  「バンドが活動休止になって、外に放り出されて。一人でメンバーを探していた頃に比べれば、今は天国です。(つらかった)あの時期に戻りたくないというのがあるから、頑張れているのかな。貴重な経験と時間をスタッフの皆さん、ファンの皆さんと共有できている。自分だけの喜びじゃないのが何よりうれしい」 

 17年に百恵さんの名曲の数々を初カバーしたアルバム「I’m HOME」をリリースし、その年の日本レコード大賞の企画賞を受賞した。15、16年にTBS系音楽特番で「いい日旅立ち」「秋桜」を歌い、1000件以上の問い合わせが届くなど大反響。それを受けてのCD化だった。

  ソロ活動の転機の出来事となれば、「(CDで)母の楽曲をカバーすると決めた時」になる。

  「最初はそんなことをしちゃいけない。僕が歌うのは、もともとの母のファンの方々に申し訳が立たないというのがありました」 

 不安や葛藤、重圧…決断するまでに、さまざまな感情が交錯した。そんな時、ソッと背中を押してくれたのは当の百恵さんだった。 

 「祐太朗の声で、私の歌っていた曲を聴けるのはうれしいことだよ」

  最も心強いファンからの、何にも代えがたい言葉。肩の力が抜け、決心がついた。今作の収録にあたり、百恵さんの「歌い継がれてゆく歌のように」(1977年)、「絶体絶命」(78年)を新録カバー(いずれも作詞・阿木燿子、作曲・宇崎竜童)。「絶体絶命」を選んだ理由は「この曲を聴くと、自分には母親がロックスターに見える」からだった。 

 「ロック好きに育って、いろいろなロックミュージシャンを好きになったけど、最近気付いたのが“こんな近くにロックスターいたんじゃん!”って。ロックテイストな母親の歌を歌いたいと思い、この曲を入れさせていただきました」  タイトル曲の「歌い継がれてゆく歌のように」は、歌詞の心情が自らにリンクした。「僭越(せんえつ)ながら、一人の歌い手としてこの時代に母親の楽曲を歌い継いでいく。この曲を歌うことがスッと入ってきたというか。重なる部分が多くて選びました」

  昨年10月、家族ぐるみの付き合いがあった歌手の谷村新司さん(享年74)が亡くなった。谷村さんと言えば、百恵さんに「いい日旅立ち」を楽曲提供した恩人の一人。三浦も15年にテレビ番組、17年にリサイタルで共演し、デュエットで同曲を披露している。

  「優しい親戚のおじさんのような、小さい頃から温かく見守ってくださった方でした。(音楽活動を始めて)谷村さんとステージに立たせていただいた時、素晴らしい曲を歌い継ぐことの大切さを感じた瞬間がありました。当時、それが自分なのかは疑問だったけど…。でも(誰かしらが)していくべきだなって」と回想。17年のカバーアルバムの発売時には、激励の言葉をもらったという。「谷村さんも応援してくださって。母と谷村さん、2人の言葉があったから『やってみよう!』と思えたし、そこで覚悟が決まりました」

  谷村さんは1981年に中国・北京工人体育館で日中共同コンサートを開催し、2004年に中国・上海音楽学院の教授に就任。「歌と音楽は目に見えないからこそ、海も空も超えていく」をモットーに国内外で活動した。一緒に食事をした際には「祐太朗くんも、いろいろな国との懸け橋になるような歌い手になれるといいね」とエールをもらった。「いつか僕も、国と国との懸け橋のような歌い手になれるように―。谷村さんから頂いた言葉を胸に活動していきます」

  自身はアニメ好きで知られ、推しのライブやイベントに足を運ぶ。それだけにファン心理も熟知。どうしたら楽しんでもらえるか―。自らの音楽活動にも、できる限り反映させられるように心がけている。「(コロナ禍で)声を出せなかった時期、ライブの楽しみの大部分を削られたような感覚がありました。その中でも会場に来てくれたお客さんの存在が、本当にありがたくて。この先も全国のいろいろな場所に行って、生で(歌声を)届けることが活動の主軸になる。オリジナル曲も広く聴いてもらえるように頑張っていきたい」

  4月に不惑を迎えるが、「自分が年齢にふさわしい立ち居振る舞いができているかは分からないけど、(ブレずに)堂々と生きていきたい」。マイペースに、一歩一歩を大事に踏み締めながら歩んでいくつもりだ。

  「ここまでの音楽人生、意味のないことは一つもなかったです。僕の場合はゆっくりですけど、一段一段が積み重なって、この10年でようやく僕のベーシックが培われた気がします。これからも一段ずつ、着実に階段を上っていきたいです」  

◆新録オリジナル2曲 〇…新録のオリジナル曲は「JOY」「心の花」が収録される。「JOY」はバンドメンバーでもあり、キーボード奏者で作曲家の高木博音氏が担当。「すごくアップテンポで明るく元気になるような曲。ライブ映えする。『心の花』はストレートに僕の声を生かすようなバラード」と説明した。「月と木星の距離」「THE WALK〈KI 335 ver.>」など懐かしいナンバーも収録。「バンド時代に出せずにソロになって出した曲や、自分の中で大事にしているファンとの楽曲を入れられたことがうれしい」と喜んだ。