お説教 | カフェ チャルルココ

お説教

ただいま

あっ お迎えに出てきてくれたのかい

えっ 出て行くの

私と一緒にいるのが嫌なのかい

お父さんが死んでしまってから

お前だけが頼りなんだよ

いいからここへお座りよ

この頃私が仕事に出かける時も

寝たままで部屋から出てこないで

食事もドアの前に置いておくと

いつの間にか無くなっていて

夜中になると外に出て行って

明け方まで帰ってこない

どこをほっつき歩いてるのやら

お前年頃なんだから

悪い男にだまされて

付き合っているんじゃないんだろうね

時々ずぶ濡れで帰ってくる時もあるみたいだけど

お母さんはとても心配だよ

なんかお言いよ

小さかった頃は近所の人からも

可愛い

可愛い

と言われていたのに

お前がまだ赤ちゃんで

お父さんが生きていたころ

三人で川の字になって寝ていたこと

覚えているかい

お父さんもお母さんも

お前を甘やかしすぎてしまったのかもしれない

お前はよくなく子だった

欲しいものがあるともらえるまでなき続けて

お前は私よりお父さんにまとわりついて

お父さんの後ばかり付いて歩いていたね

夕方お父さんが帰る頃には

まだ誰も気がつかないのに

お前だけは家を飛び出して

お迎えに行っていたね

ご飯を食べるときは

お父さんの膝に乗って

何かしら酒の肴をもらって食べていた

お父さんにばかり甘えていて

いくら娘だと言っても

二人が仲良すぎて

私はお父さんとお前に嫉妬したものだった

お父さんが事故で死んでしまい

家でお通夜をしたとき

お前は悲しみのあまり

部屋にこもりっきり

お悔みに来た人たちが

お前の姿が見えないので

ずいぶん心配していたね

その後しばらくの間

玄関で物音がするたび

お前はお父さんが帰って来たんじゃないかと

玄関までお迎えに出ていた

その姿が健気でかわいそうで

涙が出たよ

お父さんはほんとに素敵な人だったねぇ

お父さんの方が私を好きになって

結婚したと言ってきたけど

本当は私の方がお父さんのことが好きで

結婚を申し込んだのも私の方だった

それなのに優しいお父さんは

自分の方がお母さんを好きでたまらなくて

お願いして結婚してもらったんだと

人に訊かれるといつも言っていたんだよ

ほんとに優しい人だったねえ

あれまぁ

いつの間にか恥ずかしいことを言ってしまったよ

よその人にはいってはだめよ

今日はお父さんの月命日だよ

お父さんにお線香をあげるから

お前もここにお座り

一緒に拝むのよ

なんだいお前は

拝んでいるのかと思えば

そんな大きな欠伸なんかして

何してるの

どこへ行くの

戻ってきてここにお座りなさい

まったくもう何て子でしょう

そんなに私の言うことを聞くのが嫌なのかい

お父さんが死んでから

女手一つでお前を育ててきたのに

私がお前の本当の親でないからといって

私はいつでもお前の本当の親のつもりで

育ててきたつもりだよ

それなのに

どうして黙っているの


「…」


聞いてるの


「…」


怒られる前に何とかお言いよ

「にゃあ」

それでいいのよ


仲良くしようね

撫でてあげるよ

「ゴロゴロ」