安倍晋三首相は先週5日、「成長戦略」第3弾を発表した。「健康、エネルギー、次世代インフラ、観光の4分野で2030年までに443万人の新たな雇用を生み出す」「1人当たりの国民総所得を10年後に150万円以上増やす」といった内容だったが、市場の反応は鈍かった。すでに報道されたことが多く、新しみに乏しいというのである。

しかし、安倍首相の打ち出した方向は間違っていない。アベノミクスは株高や円安そのものを目標にしているわけではなく、雇用の拡大や所得の増加を生み出し、消費や生産の好循環を作り出すことにある。

肝心なことは、4分野で仕事が生まれてくるような規制緩和や投資を促す税制などの具体的な誘導策である。また、消費が増えるには、企業の所得を含む国民総所得ではなく、働く個人の所得が物価上昇を上回る結果を出すことであり、それを促すために、「政労使(政府と労働者=連合など、使用者=経団連など)による協議の場」を設けるべきである。

14日には「成長戦略」が、財政健全化の道筋を含む「骨太方針」とともに閣議決定されるが、これは、いわば「設計図」を示す作業である。それを実行する政治の力が十分でない。政治の「施工力」を獲得するのが参院選の最大の意義である。

さて、日本維新の会の橋下徹共同代表(大阪市長)が先日、「垂直離着陸輸送機オスプレイの訓練を八尾空港(大阪府八尾市)で」と、突然言い出した。

もちろん、沖縄の負担軽減のため、本土に訓練移転するという協力姿勢は大事だ。しかし、オスプレイは国交省が定める八尾空港の最大離陸重量をはるかに超えており、離着陸に適さないばかりか、関連軍事施設もなく訓練の意味も乏しい。

大阪市長が、別の自治体である八尾市に相談もなく言い出すのも理解しがたい。現に、八尾市長も反発している。八尾空港は、米軍普天間飛行場がある沖縄県宜野湾市よりもさらに人口が密集した市街地にある。それなのに橋下氏は市民や府民の頭越しに言い出した。

政党の代表として、橋下氏の責任感の基礎が問われよう。

先週末、米カリフォルニア州で、オバマ大統領と習近平国家主席による米中首脳会談が行われた。沖縄県・尖閣諸島をめぐって、オバマ大統領は「日中両国は、外交手段を通して対立を解消し、これ以上緊張を高めないように」と求め、習主席は「国家主権と領土の統一を断固として守る」との立場を説明したとされる。

わが国としては、日米安保に基づく緊密な連携を前提に、粘り強い対話による解決を目指すことだ。