山口なつおは、11月9日、ロイター通信社のインタビューに応じ、TPP参加問題や復興財源のための増税議論などについて見解を述べました。

インタビュー:オリンパス問題は日本の投資環境を阻害=公明党代表
2011年 11月 9日 21:39 JST


[東京 9日 ロイター] 公明党の山口那津男代表は9日、ロイターのインタビューに応じ、オリンパス(7733.T)の損失隠し問題は、一企業を越え て、日本企業のガバナンスや会計処理に対する信頼性が疑問視されることから、日本の投資環境を阻害する要因になるとの懸念を示した。

公明党としても対応策を提示し、国会論議を深めていきたいと述べた。オリンパスは8日、過去の企業買収時に支払った巨額の資金が1990年代の「財テク」運用の失敗で生じた損失隠しに利用されていたことを認めた。

事件が投げかけた問題のひとつとして、山口代表はとりわけ企業会計制度のあり方について問題提起し、制度見直しの必要性がないか多面的に検討したいと述べた。

今後の国会の最大の焦点となる消費税引き上げに関して、山口代表は、明らかなマニフェスト違反と問題視。「上げるという意思決定をする前に国民に信を問わなければならない」と述べ、早期の衆院解散・総選挙を求める自民党と歩調を合わせる考えを強調した。

インタビューの詳細は以下の通り。

─復興財源調達の民主・自民・公明の協議で、復興債の償還期間25年を了承した理由は。

「3党で合意を作ることが被災地に対する安心感を与える。早く合意を作って本格的に復興を前に進めることが大切という大局感から、合意形成を最優先し た。(60年償還を主張した)自民党にも柔軟な対応を促し、わが党も柔軟に対応することを宣言。公明党の意見には出ていなかった25年も、かろうじて、現 役世代で負担できるぎりぎりの線だということで許容することにした」

─たばこ増税の扱いは。

「政府は(基幹税だけでは)税収が足りないため、たばこ増税(国・地方合わせて約2.2兆円)も提案。しかも、たばこ税が地方にも入るということで、復興事業以外の防災対策等にも使うとの考え方が入っていた。このため、党内にも賛否両論があった。

反対論は昨年も増税しており、安易にたばこに頼ることはかえって売り上げを落とし、税収増に結び付くか疑問だとし、賛成論は負担を求めながら喫煙を抑制す ることが政策全体の見地からいって『妥当』とした。また、所得税・住民税に負担がかかる可能性もあり、たばこ増税は容認してよいという考え方だ」

「最終的には、償還期間が10年から25年に延び、所得税・住民税、法人税も含め、臨時増税は『薄く長く』という柔軟性が出来た。何がなんでもたばこ税で 税収を確保しなければならないという要請は非常に弱まり、こだわらなくてよいということで、柔軟性をもって協議に委ねることにした」

─たばこ増税見送りを主張するのか。

「主張はしないが、協議の中でそういう意見が強ければ、あえて反対することはない」

─3次補正予算、特に円高対策は十分か。欧州の信用不安は収束の兆しが見えず、1ドル=70円台の円高は企業にとって深刻な問題になっている。

「必ずしも十分とは言えない。8月に緊急円高対策を含む総合円高対策を提言し、2次補正で計上、予備費を活用した打撃の大きい中小企業などへの対策など、幅広く提案した。しかし、その時点でも政府の反応は鈍かった」

「提言では、為替介入は断固たる構えで臨むべきだし、その場合、国際的協調の枠組みで戦略的に取り組む必要性も指摘した。また日銀が政府と連携して、金融 緩和を積極的に行っていくことも主張。環境整備として円の国際化も提案した。3次補正で提言の一部は盛り込まれているが、3次補正は東日本大震災の対応が 主で、円高対応に直接取り組む対策にはなりきれていない」

─為替介入・国際協調、日銀の金融緩和、いずれもまだ不十分との認識か。

「そうだ。日銀は小出し感が否めない」

─臨時増税が景気に与える影響について。

「景気に抑制的であることは否めない。しかし、償還期間を25年に延ばしたことも緩和的に作用する。長く拘束される点は残るが、短期的な景気抑制的な面はかなり回避できる」

「一方で、多額の復興需要による景気刺激効果が期待できる。新興国中国を除けば、先進国の中でこれだけの需要を創出できるのは日本しかないのではないか。国際経済の中で、日本の短期的な復興に伴う需要創出効果がある」

─消費税引き上げの法案化作業で、留意すべき点は。

「政治的に容易ではない。最も大事なことは、何のために社会保障・税一体改革を行うのか、手順をきちんと説明することだ。つまり、社会保障の持続可能性、 機能強化の中身をよく説明すること。そして、そのための需要がどの程度あり、財政需要がどの程度あるか。足りない部分の負担を抜本改革でどうお願いするの か。順序立ててきちんと議論することが大事だ。今は負担だけ強いられるメッセージになっている。社会保障を持続可能にすることも、機能強化することも国民 にとってはメリットが加わる。その対応関係を説明することが大事だ」

「しかし、課題を難しくしているのが今の民主党政権の対応だ。一体改革は閣議決定に至っていない。与党民主党の合意形成もできていない。それを経ないで国 際会議で方針を説明し、事実上の国際公約と受け止められている。国内の合意基盤を整えていないことから、野田政権への信用が薄れるという逆の国際的な信用 低下も危ぶまれる」

「野田首相は、国際公約した後、実施の前に信を問うということも明言した。マニフェストの主張と矛盾する。むしろ、上げるという意思決定をする前に国民に信を問わなければならない」

─自民党同様、法案を国会に提出する前に衆院解散・総選挙をすべきとの考えか。

「マニフェストに反するのだから、信を問うのが筋だ。少なくとも、国会で法案を審議する前、成立させる前に信を問うのが筋だ」

─消費税増税が景気に与える影響は。

「相当な影響がある。段階的に上げるのか、いつ上げるのか、一気に上げるのかなどで影響が違ってくる。その点の議論も必要だ。景気は流動的なのでタイミングを図る一定の客観基準のようなものを議論すべきだ」

「景気との関連で心配なのは、民主党の従来の主張である年金の抜本改革によって、どの程度負担が増えるのか。彼らの主張を前提に以前試算した時は、さらに10%近い引き上げが必要になるとの結果だった。膨大だと国民は受け入れられない。この点も明確にすべきだ」

─弾力条項を厳しくするあまり、一体改革の実現性が乏しくなるリスクはないか。

「抽象的な弾力条項にこだわり過ぎるのは社会保障改革にも財政健全化にも資するものにならない。客観的判断基準をと指摘したが、まとまらないのであれば、 経済成長をしっかり行い、成長戦略を立て、財政健全化の工程を示し、これらにセットで取り組み、その過程を見ながら、その都度、政治決断をすることが重要 だ」

─環太平洋連携協定(TPP)交渉参加の是非は。

「菅前首相が昨年TPP参加を掲げた時は、国益最大化のために前向きに検討すべきとの立場だった。ところが、この1年間実質的な議論がほとんどなされず、 アジア太平洋経済協力会議(APEC)直前になってにわかに議論が浮上したが、野田佳彦首相が参加の意向を示しながら、与党内の意見対立はより激しくなっ ている。国民世論も二極分化の様相を深めている。TPP参加の権限や責任は持ち得ない野党として、情報収集にも限りがあるなかで、国論を二分するような現 状に対しては、参加に懸念を持つ国民の声を代弁して、それを解消するための説明や対策を政府に求めることが野党の役割だと考える」

「アジアの成長力を取り込んで日本の経済成長を図るために貿易ルールの確立は求められる。そのための全体的な戦略を持つべきだ。その時、TPPという手段 を選択するのであれば、アジアの成長力を取り込む貿易ルールの確立にTPPがどういう役割を果たすのか、位置付けなのか、政府はもっと説明しなければなら ない」

「日米で貿易ルールを作り、中国その他を仲間はずれにし対抗軸を作って攻めていくというアプローチであるとすると、今後本当にうまくいくのかどうか不透明なところがある」

「民主党政権は発足当時、東南アジア諸国連合(ASEAN)プラス3、ASEANプラス6での貿易ルールを目指していた。いきなりTPPに転換した説明も 不十分だ。日米関係を改善するために、普天間の失敗をTPPで取り戻そうという動機に基づくとしたら、決して好ましい日米関係にはならい。その点の説明も なされていない」

「一方、農業の競争力を強化できるとの説明をする人も推進派にはいる。そういう一面もあるが、国土の制約、農業経営者の実態からすると失う部分がある。農 業を含む国土の保全、自給率の向上目標にとってプラスかは定かではない。もっと経済的な影響があるのは、医療・サービス分野だろう」

「われわれは反対を表明しているわけではないが、いずれも、政府の説明努力が不足している」

─オリンパスの損失隠し問題の受け止めと対応について。

「日本の企業のガバナンス、会計処理に対する信頼性が疑問視されることになり、日本の投資環境を阻害する要因になる。実態解明し、改善・防止策を作ることが必要だ」

「(投げかけた問題では)企業会計を透明化する仕組みが十分なのか。会計士が問題点を指摘したのに経営側が応じなかったとすれば、会計士側の権限を強める 必要も出てくる。公認会計士側が依頼主の企業との関係で指摘しきれない部分があったとすれば、会計士制度そのもの、依頼者との関係を検討する必要があるか もしれない」

「公明党としても、多面的に検討し、対応策を出していきたい。国会論議を深めていきたい」

(ロイターニュース 吉川 裕子:編集 山川薫)

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