No.14-1
液晶画面に映る男は、一度も会ったことのない、見知らぬ人間だった。顔から下だけを晒し、日本語を話すわけでもないのに、声さえも加工されている。
── こちらは別に何かを要求してるわけではないんですよ。妻はただ彼に会いたいだけなんです。
字幕を読むのが面倒くさくなって、テレビを消した。
こんな風に。有名になってしまった人間の身内がしゃしゃり出てきてワイドショーを賑わすのはよくある話。
ヒモのような男と結婚し、実家への連絡が極端に減ったと訴える女優の母親。CDが爆発的に売れた娘のギャラが少な過ぎると、事務所に対し不平を漏らし、独立をももくろむアイドル歌手の父親。
その親と子の関係が、後にどうなったのかはわからない。世間の関心の移り変わりは早い。
「朝飯、食おうぜ、明良」
「あ? ああ」
湯気を立てる味噌汁、白ごはん、卵焼きを見ながら、思わず複雑な顔になった。
「今日、帰んだろ?」
「うん。そのつもり。明良とも今日でお別れと思うと寂しいけどね」
男は五日、ここへ泊った。
いくら社長の娘と結婚しているからってそんなに仕事を休んで大丈夫なのか。ひょっとすると、とっくに離縁されていて、実はここに居座るつもりでいるんじゃないのか。正直何度も疑ったね。
「……いくらくらいあればいいんだろうな」
「あ?」
ぺらぺらに柔らかくなった油揚げを口に入れながら言った。
「金。困ってるって言ってたろ? いくらくらいあればいいわけ?」
きょとんとしていた男の顔がみるみる呆れた風になった。
「ほんと、信じられないくらい人がいいな、お前は」
そうかな?
「だけど、今はやめとけ」
少し考えてから、
「そりゃまあ、そうだよな」
頷いた。
さすがに今はまずいだろう。こんな騒ぎのなかお金なんか渡したら、口止め料だと受け取られかねない。
「お前のママは、方法を間違えたって、ことだな」