HiGH&LOW THE WORST X が最高でした。 

公式Twitterアカウントが新キャラ紹介をしてくれるたびに「お、おぼえきれない」と呻いていましたが、一度観ただけでバッチリ全員わかったし、全員に愛着が湧いたのだから、この人数それぞれに見せ場をつくり捌ききったHI-AXの手腕たるや凄まじい。ハイロー新規さんが多かったと思うので、見たか!これが全員主役ってやつだぜ!と思わず虚空に向かってドヤ顔をしてしまう。

前作ザワが素晴らしかったあまりに、監督交代や、髙橋ヒロシ先生が脚本ではなく原案のみになっていることなどの変化について、不安を1ミリも抱かなかったかと言われれば嘘になるが、前作へのそしてハイローシリーズそのものへの愛情に溢れた作品になっていて、すべては杞憂だった。

コロナ禍で本来なら走っていたハイローの企画が潰れて、その上で何ならできるか、何を撮ろうかとして動かせたのがザワ続篇だったという話がある。最初は潰れた企画を惜しんで天を呪ったものだけど、その結果としてこの傑作が出てくるとは、巡り合わせに感謝するしかない。ハイローくんはずっと私の大好きなハイローくんでいてくれる。それがどれだけ得難く有り難いことなのか、ザワXを観ながら感謝の念が破裂してひたすら泣いていた。楓士雄が鈴蘭に乗り込んで乱闘がはじまり、カエル跳びぴょんぴょんから号泣である。早いよ。あれは前作で、楓士雄の鬼邪高転入初日、ヤスキヨ一派との喧嘩で見せた動き、いわば楓士雄の自己紹介なのだ。アクションでキャラクターの性格がわかるというハイローの素晴らしいところが大好きだし、前作からの連続性をこうして見せてくれたことに早速浮かれ気分最高潮になってしまった。


前作からの連続性、他にも色んなところでたくさん盛り込まれていて愛を感じましたね。

特に鳳仙は、キャラ増加に負けじと鳳仙らしさを前面に押し出してくれて、アクションでもスクラム組んだり脚立突撃(最高)を忘れずに。小田島の仁川おんぶも健在どういうことなのわからないけどもっとやって……

あと、モトアキが持ってきた焼きそば、誤発注した「ゼンさんの知り合い」は新太だと思われますし。おっミスりつつ頑張ってんだな、と頬が緩みます。

そしてなによりも佐智雄のサプライズ登場……やられた……妙に各種インタビューでサッチーへの言及がないような気がしていたの割にTwitterでは四天王が佐智雄いないアピールしてくるし……ほんの微かな引っかかりを感じてはいたんだけど、志尊くん忙しいし出るわけないという思い込みの方が強かったですね。本当にびっくり嬉しいサプライズでした。最高。カット割からスケジュールが合わず別撮影だったろうことがわかりますが(楓士雄と同じ画面にいる時の後ろ姿は代役さんと思われ)(9/9追記: いや楓士雄とは一緒のカットあったな、ラオウと3人でうつるカットがないのでそれぞれで撮ったのかなと)(←いや完全に勘違いだったわ、一緒に撮ってますね/後日追記)それでも出てくれた、オファーして撮ってくれたんだ、ということでひたすら御の字です。


今回、某誌ライターさんが「よりクローズの世界観に近づいた印象」ということをおっしゃっていて、平沼監督は「SWORDを離れて全日の世界観をさらに深めた」ということと、一方で同時に「ハイローの原点に戻ろうとした」ともインタビューで語っていた。全日っぽくなりつつも原点に戻るとは、さてどうなっているのだろうかと思ったけれども、確かに、教師も女性キャラも登場しない、これだけの数の高校が舞台なのに普通の生徒すらひとりも存在しない、社会から隔絶された不良高校生の箱庭という意味では、髙橋ヒロシの世界の性格が強まっている。出てくる大人も須嵜パパのみである。

そしてテーマとしてハイローの原点への回帰と言えば、「仲間」ということだろう。天下井の支配に対して「上も下もない」「隣を見れば一緒に戦う仲間がいる」と言う楓士雄。SWORDの各チームが鍔迫り合いしながらも仲間意識を芽生えさせたように、たとえばコブラと村山が拳を交わしたうえで互いを認め合ったように。そして己のためではなく仲間を守るためにこそ、何かを背負った時にこそ人は強くなれるのだということ。「仲間」こそは確かにハイローの原点である。

また、天下井の武器が「カネ」であったことも、ただの卑怯さの演出に限らず、原点回帰のための必然性があったと思う。SWORDの物語は、喧嘩小僧が拳で向き合えない「汚い大人」と戦う中でモラトリアムを脱していく話だったからだ。不良高校生の箱庭に、SWORDにおける敵である「大人の汚さ」を持ち込むために「カネ」を登場させたのだ。そして「金を持ってるやつが権力を持つ」という大人の世界のルールを相手に楓士雄たちは闘ったとも言えるだろう。周りを蹴落として力を手に入れた奴が強い、権力が全て、いつしかそういう価値観を持つに至ってしまった天下井の、人格形成の経緯を描かずとも観客に想像させるキャラクターづくりがお見事だった。そして天下井を「子供」の世界、モラトリアムの中に引き摺り戻した須嵜も、設定の匙加減が凄すぎる。(あの二人についてはまた別途語りたいですが、公開後に何回か観てからにしようかな。)


少し脱線すると、キャストに中本悠太さん三山凌輝さんを起用したザワXをもって「上も下もない」「隣に友がいる」という話にしたのは、すでに言われていることだが、明らかに芸能界におけるボーイズグループ同士の関係性の文脈が重ねられているように思う。競合相手と勝った負けたではなく共に盛り上げたいというLDHの心のあらわれと取れないだろうか。平沼監督のインタビューの中で、ハイローは元々、HIROさんが色んなところとコラボがしたくて始めたプロジェクトだという話があった。切磋琢磨の中でも時に手を取り合って良いものをつくろうっていうの、あまりにもラブ、ドリーム、ハピネス。


クローズの世界観に寄せつつもハイローの原点に返って、そしてそのうえで、ザワXはまごうことなくザワの続編でした。轟や楓士雄が向き合ってきた「頭」についての話の続きだったという意味において。本当に惚れ惚れするストーリーテリングです。


以前エピソードOとザワを観た時に、そこで描かれているリーダー観についてクローズ側の文脈も絡めてまとめたのですが、そこでは「轟には楓士雄にある人望がない、楓士雄には佐智雄にある統治能力がない」という話をしました。そして今後の鬼邪高の行く末を、楓士雄が轟に挑み、喧嘩に負けて勝負に勝つような形で負けながらも轟に推され、頭となるのでは? もしくは、轟が預かったまま曖昧に、合議制のような形でボトムアップでやっていくのではないか(そうすることで、完璧なリーダー佐智雄が率いる鳳仙との対比がより際立ちます、なにせボトムアップの対義語はトップダウン、鳳仙のテーマ曲タイトルですから)と予想しました。


HiGH&LOW THE WORST リーダー論

https://ameblo.jp/yamagmmmmm/entry-12538752442.html


ザワXを観てみると、楓士雄が頭とされているようですが、轟が預かっていたはずなのにどうなっているのかという点については説明がありませんでした。前田公輝さんもその点疑問に思われたのか、シネマスターズvol.6のインタビューにて、楓士雄より他校に名前が知られている轟の方を便宜上の頭ということにした、つまり頭を預かったのはあくまで対外的なものだったのではないか、という風にご自身の中では整理された旨を仰ってます。

その解釈の通りなのかどうかの検証はまた何度か観てから考えたいと思っていますが、私としては、ザワの終わりの時点で轟にとっていずれ楓士雄を担ぎたいという気持ちはすでに揺るぎないものだったと受け取っていたため、色々と有耶無耶になりつつ時間経過の中で楓士雄が頭という空気が蔓延していてもおかしくないのかなという気がして、楓士雄が頭であるということにあまり引っかかりはありませんでした。


✳︎9/8追記✳︎

川村壱馬さんインタビューにて「楓士雄は自分を頭と思っておらず、轟との間で保留になったままだと認識している。周りには楓士雄を頭だと思っている人もいる」という解釈が語られており、こちらの見解が、観客として私が受け取った印象と一致します。

http://kansai.pia.co.jp/interview/cinema/2022-09/highlow-the-worst-x.html

(追記終わり)


しかし、楓士雄は己のリーダーとしての資質を疑いはじめます。佐智雄だったならこんな窮地には陥っていないと悩み、かつて轟洋介が転入してきた時の村山良樹を彷彿とさせるような調子で、少し考える時間を必要とする。

そうして出た結果が、鳳仙に頭を下げて力を借りたこと。そして、こちらは狙わずに自然と出た結果ですが、ラオウと友達になり助勢を得たこと。つまり、楓士雄が見せたのは「味方を増やすチカラ」です。

一方で、轟が見せたのは、たった独りで江罵羅を撤退させた「敵を減らすチカラ」でした。それはとてつもない功績でしたが、それだけでは勝てなかった。この戦争における軍功という意味では、楓士雄のほうが功績が大きいわけです。

轟も楓士雄も、共に仲間のことを想い必死に行動した結果でした。当人同士に競っていた意識など一切なかったでしょう。けれども今回、楓士雄はリーダーとして轟に勝る資質を見せたんだと、ふたりのどちらが頭をやるかという話に関してはザワX本編中において喧嘩とは違う形で完全決着がついたのだと、そう受け取ることもできると思うのです。


轟には楓士雄にある人望がない、楓士雄には佐智雄にある統治能力がない。ザワの時点で明確になっていたその弱みに対し、今回、轟は周りの仲間に溶け込みつつもやはり自分のチカラだけを頼りに敵を潰し、一方で楓士雄は「気合い」だけではどうにもならない事態に際して援軍を呼ぶと言う解決能力を見せました。拳で言うことをきかせるのではなく、頭を下げることで人を動かした。組織の長として相応しい振る舞いを見せたのです。


✳︎9/16追記✳︎

精神論ではどうにもならない状況だと諌める轟に対して、「ありがとう(江罵羅を退けただけで)充分だ」と深々と頭を下げた楓士雄。轟は自分が用済みなのかと感じ狼狽えますが、楓士雄はそうではなく下げる頭ならいくらでもあるということだと告げます。

川村壱馬さんの「周りには楓士雄を頭だと思っている奴もいるけど楓士雄は自分を頭と思っておらず、轟との間で保留になったままだと認識している」という解釈を踏まえれば、ここでの楓士雄の意図も明らかになります。

轟はとうに楓士雄を頭と認めていました、江罵羅との対戦の中で「ウチの頭」と呼んでいたように。あとは、楓士雄の自覚しだいでした。そういう状況下で、自分が頭でいいのかと悩み、皆の元を離れ、しかし為すべきことを為して戻ってきた楓士雄。

ライバル校に助力を願うために、そして、仲間の功を労うために。彼は「アタマ」になると決意を固め、鬼邪高の看板を背負ったからこそ、下げる頭を得たのです。

頭の自覚のない楓士雄のままだったなら、さすがドロッキー!と仲間の戦果を喜びこそすれ、お礼は言わなかったでしょう。つまり、楓士雄が轟に対して頭を下げたのは、今日から俺が鬼邪高のアタマになるという宣言でした。楓士雄が初めて、自覚的に、上に立つ者として振る舞った瞬間だったといえます。

(追記終わり)


喧嘩で1番であることと頭であることは違います。今回、楓士雄のリーダーとしての資質を最も証明したのは、司でした。リーダーとは、自分でその座にのし上がるものではなく、周りに担がれることで初めて着く座なのです。司が献身的に「ウチの大将」のために根回しをしている姿こそが、周りにそこまでさせるだけの男として、楓士雄の価値を高めました。ここまで担いでくれる奴がいてこそ頭になれる。それがかねてより言われていた「人望」のより深い形であり、楓士雄のチカラなのです。

今回新たに登場したラオウが心優しき人格者であり、それに惚れ込んだ仲間がラオウ一派をつくっているという設定も、単にタイマンで勝てば頭になれるというものではないのだという世界観を補強しています。


この「頭とは何か、どんな人間が就くべきか」という軸において、ザワXは紛れもない正統なザワの続編であり、そして、確かにハイローの原点への回帰もなされていたと思います。思い出さずにいられないからです、この話を最初にしていたのは誰だったか。村山良樹の「喧嘩が強ェだけじゃだめなんだよ」というセリフを。達磨をSWORD連合に引き込んで「味方を増やした」姿を。思い悩む楓士雄の回想の中で、最後に登場した村山さんの一瞬の面影。村山良樹の残したものが、楓士雄の中にもあって、それは確かに芽吹いたのだと、そう感じました。

ザワXありがとう。



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いうてまだライビュで1回しか観れてないから何度も観てるうちに感想が変わることもあるかもしれないんですけど、取り急ぎアウトプットしておきます、なにせヅカローがはじまり忙しくなりますので本当だったらザワXも横アリで3回観たかったんですけど、もう遠征の飛行機とか取っちゃってて無理でした。これは宝塚へ向かう飛行機の中でだいたい書いた。宝塚宙組のHiGH&LOWをよろしくお願いします!