感想⑤あるいはファイナル。


地元でキミオイの上映終了なので見納めに行ってきました。そしたらまだ書きたいこと出てきちゃった…今度こそ最後です…。


結局13回観ましたが13回泣けた。自分にとってそれだけ特別な位置にある作品なのだろうな。主演の山田裕貴さんのファンになって間もないタイミングで公開になったこと(何事もハマりたては盛り上がりが強いと申しますので)、もともと台湾版を観ていてとても好きだったこと、それがキッカケではあるけれども、これだけ刺さっているのは浩介と真愛 双方への自己投影が強いんだと思う。日本版のキャラクター造形が繊細で、多くの人にひっかかる普遍性を備えていながら、個人的にこんなにも深く刺さり込んでくるの、凄い。

以前についったでも言ったけど、どんな芸術作品でも結局は個人の体験に基づく鑑賞しかできない。自分の中にある何がしかの記憶と響き合って、心が動くかどうか。青春の普遍性を描いた作品としてキミオイは大傑作だと思うんですが、ここまで愉しめたのはやっぱり個人的経験に根付くものに揺さぶられているのでしょう。


というわけで自分語りから入っちゃうけどすみません、私は中学まで優等生で、高校は地元で一番の進学校に進みました。そこに入学して目的は果たしたと言わんばかりに勉強をパタリとやめ、学年でビリのほうに近い劣等生になりました。だから、コツコツと勉強だけに時間を費やしていた真愛の気持ちも、俺はまだ本気出してないだけな浩介の気持ちも、とてもわかる気がして。

特に感情移入してしまう理由が、高校に入って優等生の男の子に恋をした記憶。成績が良いだけでなく、誰よりも博識で、テニスとバイオリンを嗜んでいる、お金持ちの家の子でした。こちとらエンゲル係数高めな家庭の娘でね…凄く憧れた。苦手でどうしようもない物理を彼に教えてもらって、必死で勉強したんだよな。恋を原動力にした勉強はとても楽しい。浩介の浮かれ気分最高潮だなって感じわかる。

本来、ガリ勉の勉強は孤独です。大人になってから受験生の頃を振り返ると、なかなか凄い生活してたよなーと思うけど、衣食住を全部親に面倒見てもらってるからこそ、キャパシティ全てを勉強に費やすことが出来ていたと思う。私が優等生だった頃、好きなテレビ番組、芸能人の話で盛り上がる人たちとは全く仲良くなれなかった。共通言語がなかった。「○○ちゃんは頭良いからいいよねー」と言われて「そんなことないよ、皆がテレビ見てる時間に勉強してるだけ」と応えて、ますます友達はできなくなった。オタク趣味の仲間はいたけど彼女らともまたその趣味以外の話は全くできず、特に勉強に関する話はタブーで、友達とは言い難かった。孤独でした。


真愛も友達は少ない、というか詩子しかいないように描かれています。台湾版だとヒロインのチアイーは心霊番組なんかも観ているし男子を叱りつけたり姐御っぽくて、頼られるクラスの人気者だろうなーという感じ。でも真愛はお堅くてバリア張ってて、流行りのものに疎い。中学から勉強一筋、医者の娘という目で見られていて本人もそれをわかっていてあまり心を開かない。真面目すぎて近寄り難く、非の打ち所がないゆえに虐められるでもなく、男子からも女子からもなんとなく遠巻きにされている感がうっすらとある。

勉強一筋に打ち込む日々は、たとえ詩子が居てもそこの価値観を共有できない以上、真愛にとって孤独な日々だったと思います。独りで黙々と机に向かうのですから、勉強してる時は誰だってそうだといえばそれまでだけれど。他のことを捨ててまで一番頑張っていることに関して、誰とも想いを共有できないのは、やはり孤独ではなかろうか。

そんな真愛にとって、勉強の合間に夜空を見上げる時間は、特別なものだったと思う。綺麗な月を見て、漠然とした不安や切なさを感じながらもホッとするような、頭からっぽにして自分を取り戻すみたいな、大事な時間。それを覗く陽平にリコーダー吹きながら登場してくる寿音と即カーテンを閉めてシャットアウトする真愛、ここ、ずっと笑いと訝しさの間で微妙にスッキリしなかったんですけど、13回目にして今更気付いたのが、浩介と教室で一緒に月を見たシーンに繋がって対比になってるのかなって。浩介とのシーンでは、真愛が席についていて、窓際の浩介越しに月を見て、キレイ…と呟く。真愛が月を見上げる視界に、浩介が自然と入ってきた構図になっている。真愛の“特別”に浩介が含まれたことを示唆しているようです。

その後、浩介が月の綺麗な夜に髪を切ったと勘違いしていたのが、髪を切った後の帰り道に、前髪がなくなって広くなった視界で、月を見上げていたのではないかと思ったり。土砂降りの中で教室を出て行き、坊主頭で戻ったシーンでは雨音がせず、恐らく雨は上がっていたのだと思います。でも、真愛にとって、月は、一緒に観ることが大事だったのにね。約束を果たしてくれたのが月の綺麗な夜だったなら。真愛が独りでそれを空想し反芻していたかと思うとたまらない。やっと同じ月を見上げることができたのは、距離を置いて、パラレルワールドに思いを馳せるときでした。


最後、結婚おめでとうのカードに書かれている文言が台湾版は「君は俺の青春だ」なんだけど、日本版は「You are the apple of my eye」なんですよね。ここも好き。単に青春を回顧して良い想い出にしただけじゃない。大事なものをくれたかけがえのない人、という意味合いにおいて、真愛はこれからもずっと、浩介のapple of eye なんです。もう真愛のことは追いかけない。代わりに、自分の道を自分で進む。進むべき道への扉を教えてくれた、唯一無二の大切なひと。「真愛に羽根をもらって、追い風も得た」というセリフにもあらわれてますが、日本版のほうが未来への羽ばたきを予感させます。人を好きになって成長することを描いたストーリーが一層引き立つラストになっていると思いました。

 

しかし、台湾版リスペクトでありながら、主人公もヒロインも全くもってキャラクター造形、行動原理が違うし、それが読めば読むほど深いんだよな…日本版大好き…。ほんとはもっと観たかったです。7人全て細かく観てたら13回でも足りないから円盤はよ…。


7人皆それぞれのこのシーンがベスト!!みたいなのありますよね。個人的好みでのベストね。


浩介は…「凄い人間になりたい」「俺のことどう思ってる」「胸を打たれるね」の表情の細やかさと台詞の抑揚がどれも凄かったし、ポニテに見惚れる眼も良かったし、花嫁入場の時の横顔も凄味すらありましたし、新郎への熱烈さは毎回号泣しちゃうし、あぁでもテスト結果発表で吉田沙保里の名言披露してるあたりも抜群に表現良かったし、えっと、うん、山田裕貴氏全部最高に良かった…全然ベストじゃない…決められないわ…

真愛はテスト結果発表シーンのブイってとこ。飛鳥ちゃんから「出来るだけ素で演じていいと言われていたけど1シーンだけとびきりのアイドルスマイルを要求された」的な話が何処かで出ていたと思うのですが、それって絶対ここでしょー。特に、掲示板の前から浩介のところまでやってきて、もっかいブイっとする顔…問答無用で持っていかれる…惚れた…。

詩子も選び難いな。猫のシーンで見せる柔らかな横顔か、海で遠くを見つめる透き通った眼差しか。どちらも胸が締め付けられる。松本穂香さんが縁の下の力持ち的にこの映画のリアリティ支えていたと思う。素晴らしいとしか言いようがない。

一樹の遊佐さんは「でもアイツ脳も神経も筋肉だからなぁ…」 の後のカットがあまりに良くて、想い人を見つめる横顔として100点満点中50000点あげたいって思いました。映画全体で2番目に好きなシーン候補にあがってくるくらい…(1番は新郎) 

健人が常にボールか指先弄ってるのもいいしなー。おにぎりと浩介の坊主見比べてるのも可愛いしな。濃いキャラだけど、むしろ國島さんの喋ってない時の演技好きです。視界の端でいい仕事してくれている感が素敵。

寿音の中田さんは居るだけで画面が華やぐ感じがすごい。流石。派手なファッションと着こなしちゃうスタイルと貌と皆にまとわりつくキャラ設定がもうマスコット…というか概念…??結婚式で浩介の髪を弄って鼻も触ろうとしてイチャイチャしてるところとか好きだ。かわゆい。

陽平は意外にダンスシーンが好きだったりする、なんか目が追ってしまう。佐久本さんダンス上手?あと色々なシーンで真愛をちらちら見てるところ可愛いし、やはり盗難事件のシーンの演技は迫力。ああやっぱりベスト決められない。



こんなにキミオイが愉しめて良かったし、好きになれて良かった。公開前からローカルなものを除けば全部の雑誌記事に目を通したと思うし、こんなに何度も観てこんなに感想書いたの初めてだし、舞台挨拶とかの推し事も生まれて初めてだった。地元で上映終わって区切りがついた今、キミオイを追いかけてた自分が好きだ…全力で追いかけて良かった…という気持ちがまた作中とリンクして、こんなに凄い映画体験させてもらったのビックリしてる。山田裕貴さんはじめキャストの皆さんの今後の出演作を追っていくことを考えると、その映画体験はまだ終わってなくて、これから広がり続けるとも言える。幸せです。有難うございました。



今度こそ感想終わり!

ずっとネタバレ注意とかしてなかったあたりからして、読んでもらうこと考えずにただ脈絡なく吐き出した拙文でしたが、目を通してくださった方有難うございました。



過去に書いた感想(特に続いてない)

【あの頃、君を追いかけた】感想①

https://ameblo.jp/yamagmmmmm/entry-12406186572.html

【あの頃、君を追いかけた】感想②

https://ameblo.jp/yamagmmmmm/entry-12407787753.html

【あの頃、君を追いかけた】感想③

https://ameblo.jp/yamagmmmmm/entry-12408449203.html

【あの頃、君を追いかけた】感想④

https://ameblo.jp/yamagmmmmm/entry-12414493210.html