大阪人と中国漢民族 祖先の系統分析と全ゲノムによる混血の解析から

 前回の記事「大阪は日本の中の中国?」を投稿してから(その記事は取り下げました)、もう少し勉強した結果、分子人類学(そういう用語を初めて知りました)による祖先の系統の分析、全ゲノムの単塩基多型による混血の解析などについて、その違いを明らかにして説明する必要性を感じました。もとの記事にもある程度追記しています。そこを整理し、必要な追加をした内容として、半分以上は前回記事の焼き直しのような内容となりますが、前回よりは、かなりカッチリとして詳細、かつ明瞭なものになったと思います。

 祖先の系統の分析としては、既にかなりの知見の積み重ねがあるものとして、減数分裂で変わらないミトコンドリアやY染色体に着目し、その突然変異の痕跡を、系統樹のように所謂「ミトコンドリアイブ」や「Y染色体アダム」に向かって辿っていくというものがあります。前回、Y染色体ハプログループ(男系祖先の系統)を使った説明を少ししました。ハプログループ(haplogroup)とは、ある生物種集団で、ゲノム塩基配列中のある一塩基が変異したことで生じる複数(通常は変異の前後で2種類、これが対立遺伝子に)のタイプ(タイプというには、例えば1%程度以上の頻度は必要)が存在する場合を一塩基多型(SNP  Single Nucleotide Polymorphism)と言いますが、その単一タイプを共通祖先にもつグループのことです。

 この祖先の系統の分析は、ミトコンドリアやY染色体という変わりにくく限られた部分から痕跡を辿り、どの祖先に辿り着くかを調べることであり、基本的に混血による遺伝子の組み換えの結果、ある個人が全体としてどのような遺伝的傾向を持っているかはわからないことに注意が必要です(瞬発力系のアスリートにはミトコンドリアのハプログループF (mtDNA)の人が多いという指摘があるようですが、その系統の人々の体質をどの程度受け継いでいるかは、日本のように祖先の系統にある程度多様性がある集団では、混血の度合いにより個人差があるでしょう。Fは東南アジアで最大規模の人口を持つグループですが、その中でアスリートとして活躍するのはほんの一握りです。)。ある地域の集団の祖先の構成がわかったとすれば、その中で(移動などにより「中」とは限りませんが)、程度はわかりませんが混血があれば遺伝子は混じり合っていることになり、ある程度混じり合ったものとして集団の傾向を見ることはできる可能性があります。そうした考え方に基づいて、新モンコロイドの攻撃性、同調圧力を本稿では扱っています。

 注 Y染色体ハプログループについて、例えば「Y染色体ハプログループD1(系統)」と書いたり、「D1  (Y染色体)」と書いたり、前提が明らかなとき単に「D1」と書いたり、書き方を統一しきれていない点は申し訳ありません。ミトコンドリアのハプログループについては、例えば「G (mtDNA)」のように書いています。

 一方、前回のメインとして紹介しました、東京大学大学院理学系研究科理学部がサイトで公開している研究の概要のうち「都道府県レベルでみた日本人の遺伝的集団構造~縄文人と渡来人の混血がもたらした本土日本人内の遺伝的異質性~(2020/10/14)」の内容は、全ゲノムのSNPを多変量解析するというものでした。こちらは減数分裂による遺伝子組み換えで変わる部分も全て含めています。ヒトの30億の塩基対のうち、変異の量は1000塩基に1つ程度とされ※1、つまり「多型」は300万箇所程度あるということになります。そして、減数分裂で入れ替わる部分も解析するということは、「混血」の様子を見ることになります。


[前回の復習]

(1)古モンコロイドと新モンコロイド
 形質人類学による区分です。まず、私たちに関わるモンコロイドについて、おおまかに古モンコロイド(寒冷適応前)と新モンコロイド(寒冷適応後)という区分を紹介しました。
 日本において具体的には、古モンコロイドは古くに日本列島に到達した人々で、その後日本で独自に変異し縄文人となり、新モンコロイドはシベリアなどを経由し寒冷適応した人々で、縄文以降に大陸から日本にも渡来して、縄文人と新たな渡来人が混血しながら弥生人となり、それ以降も大陸から新モンコロイドの渡来がありました。
 それぞれ、身体的特徴を再掲すると、Wikipedia「モンコロイド」※2から、
新モンコロイドは、

「比較的体格が大きく、凹凸の少ない顔立ち、蒙古襞(もうこひだ、目頭の襞)、体毛が少ないこと(特に男性のひげの少なさ)などの特徴を持っている。さらに、耳垢が湿ったあめ状ではなく乾燥した粉状となり、耳垢の特徴と同じ遺伝子によるわきがの原因となるアポクリン汗腺が少なく、頭髪が直毛であること、頭形は前後に短く横に広い短頭が一般的で脳容積が大きいといった特徴がある。新生児に蒙古斑が見られるのも特徴である。」

古モンコロイドは、

「低めの身長、両眼視できる視野が広い等の特徴を持つと考えられた。他の、彫の深い顔、二重瞼、体毛が多いこと、湿った耳垢、波状の頭髪、等の特徴は新モンゴロイド以外の多くの「人種」と共通する。」

 となっています。形質人類学では古モンコロイドも出アフリカ後に北ルートをとった集団としてのモンコロイドという区分けにまとめられていますが、古モンコロイド(縄文人を含む)であるY染色体ハプログループD1の系統は後述のとおり出アフリカ前から分岐しており、移動ルートも北ルートというより東ルートで(Haber et al. 2019)※3、別扱いにしてもいいくらいな感じさえします。さらにハプログループDの前身、DEは全ユーラシアの共通祖先のCTから早期に分岐しており、他のユーラシア系統とは分岐から7万年以上経ています※14。なお、DEだけが持っている変異にYAP(Y-chromosome Alu Polymorphism)と呼ばれるものがあり、これを「YAP遺伝子」と称して日本人だけが持っていると自画自賛して煽る主張もあるようですが、これは先祖の系統を見るための目印の一つに過ぎす、その変異箇所自体に何らかの機能があるとは思えません。また、Dの子系統のD1が出アフリカを果たし東方へ進出後日本にも到達し、一方でD2とEはアフリカに留まったものの一部が父系を通じて地中海地域やヨーロッパに広がった※14とあるのでヨーロッパ南部や中東の人々にもYAPという変異は存在します(D2については、EよりもDに近い人たちがアフリカで発見されたことにより、後から定義されたもので、Dがアフリカで発生したという説の裏付けになったとされます※3)。Dの系統は、現在の人類の共通祖先が「社会的協力」で生き残った当時まで男系の祖先を遡れる(最古に近い部類の系統)ということではあります。

 


(2)Y染色体ハプログループによる、現在に子孫を残す男系祖先の組成
 形質人類学のモンコロイドをY染色体ハプログループから説明すると、
 縄文人は、Y染色体ハプログループD1から日本で誕生した日本固有のD1a2a系統※2のグループです。Wikipedia「ハプログループD (Y染色体)」※3より、

「ハプログループDは、今より約7.3万年前にアフリカにてハプログループDEから発生、下位系統のハプログループD1のみが出アフリカを果たし、その後内陸ルートを通って東アジアへ向かった」

 とあります。中央アジアやシベリアは経由せずに、チベット方面と日本列島と東南アジア方面に拡散したわけで、「古モンコロイド」ということです。次のデータによれは、現在の日本人で男系祖先を辿ると縄文人に行き着く人が4割近くもいることになります。縄文人と渡来人で、どちらか(通常は渡来人)が他を圧倒し淘汰するようなことが起こらず、これだけ長く共存し残っているのが奇跡的な感じがします。(新モンコロイドが)大挙して攻め込んで現地の人々(縄文人)を根絶やしにすることはなかったということです。日本と異なり東南アジアなどでは、新モンコロイドという新興のハプログループOが圧倒してしまいました。Wikipedia「日本人」※4を見ると、東南アジア(Trejaut et al. 2014, Hammer et al. 2006)、チベットを除く東アジア(Hammer et al. 2006)のサンプルでは拡散したほずのハプログループDがほぼゼロです。ハプログループDの末裔はほぼ日本とチベットにしか生き残っていません。後述のミトコンドリア(mtDNA)のハプログループ(母系統)で、古モンコロイド系の人々が東南アジアに存在するかどうか見ても、やはりいないようです(F (mtDNA)が新モンコロイドとするならですが)。島国だったから(日本は助かった)とするなら、インドネシアはなぜということになります。内陸の寒冷地で厳しい生存競争を経たハプログループO (Y染色体)の人々にとって、生産性の高い温暖な南方への進出が至上命題だったと考えれば、ほどほどに寒くもある日本列島は大挙して占領するほどの魅力がなかったのではないかと私は想像します。ハプログループDが日本とチベットだけで生き残ったもう一つの理由は、これも想像ですが、日本には海があり、チベットには塩湖があり、塩分(ミネラル)を摂取しやすかったのではないかということです。侵攻を受けずに済んだとしても、そこで糧を得て生きられなければ意味がありません。北欧のコーカソイドもそうですが、このような環境により、極寒の内陸とは違い、奪い合いによる残忍さや攻撃性を獲得せずに済んだのではないかということでもあります。
 前回の記事からの再掲ですが、

「Wikipedia「日本人」※4によれば、調査が別々なので単純比較はできませんが、(現在の)日本人としてD1a2a系統は38.8%(日本人独自の系統でO系統より古い)、O1b2系統は33.5%、O2は16.7%(Nonaka et al.2007)、O2について、大阪22.5%(Sato et al.2014)、九州26.4%、漢民族(華北)65.9%、漢民族(華南)32.5%、朝鮮民族40.0%、満州民族38.5、モンゴル22.8%(Hammer et al.2006)となっています。」  
「Y染色体ハプログループO1b2の人々は日本に稲作文化をもたらしたグループで、日本人や朝鮮民族や満州民族に多い(それぞれ3割程度)ものの、漢民族(Y染色体ハプログループO2の人が65.7%※6)やモンゴルでは低頻度とあり※5、後述のように近畿四国の人々が他の地域よりも遺伝的に漢民族に近いというのは、弥生以降に渡来した人々ということになるでしょう。」

 ハプログループO系統は約4万年前に現在の中国でハプログループNOから分岐しN系統と分かれた※7とされ、NO系統については、Wikipedia「ハプログループNO (Y染色体)」※8より

「ハプログループNOの祖先K2aは出アフリカ後北回りで中央アジア・シベリアを経由して東アジアに至り、NOが誕生したと考えられる。」

 そのあたりからさらに前を辿ると※22、
CT (Y染色体)(ユーラシアン・アダム)6~7.9万年前のエチオピアからスーダン※20→EDとCFに分岐→CFからF(4.8万年前)とC(モンゴル高原、シベリア、オーストラリア・オセアニア先住民、クロマニョン人、日本列島に僅かに固有のC1a1)に分岐→FからGHIJKとF*,F2(中国南西部)に分岐→GHIJKからHIJKとG(コーカサス)に分岐→HIJKからIJKとH(インド)に分岐→IJKからK(4.7万年前南アジア・西アジア※21)とIJ(北欧から中東、クロマニョン人)に分岐→KからK*(パプアニューギニア)とK1(インド)とK2に分岐→K2からP(ヨーロッパとネイティブアメリカン)とNO(中国台湾)とMS(パプアニューギニア)に分岐

「ハプログループKは比較的若い系統であるにも関わらず、非常に多くの人々の共通祖先となっている。」※21

 とあります。出アフリカ後すぐきれいに西、北、南ルートに分離したわけでなく、出アフリカの時期がわかりませんが、少なくとも千年くらいの間に何回かに分けて西、北、南に分岐したのがわかります。そして、さらに数千年かけて、Kのグループから北上したK2が再び西や南にも分岐しながら中央アジア、シベリアを経由しNOを生み、そこからO系統が生まれたことになります。また、Dは最初に分かれていますが、途中まで共存しながらルートを共にしたのかはよくわかりません。しかし、後述のとおり、ミトコンドリアで見るとM (mtDNA)の女性は少なくともD1 (Y染色体)の男性ともCF (Y染色体)の男性とも一緒にいた可能性はあります。しかし、D1 (Y染色体)の東ルートを共にしたM (mtDNA)の女性が見えないことが謎です。。

 最終氷期は約11万年前から約1.5万年前までなので、氷期である上に極寒の地を経由し寒冷適応した、つまりY染色体ハプログループO系統は「新モンコロイド」ということです。この厳しい環境を経たことは、約7万年前に火山噴火による気温低下で人類が存亡の危機となったアフリカでは、人口激減で遺伝的多様性を減らしながら、それでもまだ温暖だったからかもしれませんが「社会的協力」を強めることにより生き残る淘汰圧が働き、攻撃性を弱める中性化が起こった(現在の人類の共通祖先)のに対し、また、コーカソイドが到達した北欧では海があることからまだ良かったとしても、新モンコロイドは極寒の内陸で乏しい食糧を奪い合うような経験もしたとすれば、そこでは「攻撃性」の強い者が生き残ったのではないかとも想像されます。
 弥生以降に渡来した漢民族と思われるY染色体ハプログループO2系統は、現在の日本全体では16.7%(Nonaka et al.2007)、大阪では22.5%(Sato et al.2014)、九州では26.4%(Hammer et al.2006)ということでした。
 日本に稲作をもたらしたY染色体ハプログループO1b2の人々も「新モンコロイド」ですから、稲作農耕による安定な定住生活に抱く「穏やか」なイメージとは違い、これは寒冷適応とは別ですが、稲作農耕に伴うムラ社会、階級社会、生産手段や保存可能な米の「所有」という概念、格差など資本主義のもとのようなもの、これら同調圧力を強めるものがセットとなり、支配層の残虐な権力闘争なども一緒にもたらされたのではないかと私は想像します。むしろ、先住民である縄文人は狩猟採集、栗の栽培など、海や山の自然の恵みを「共有」し「分かち合う」生活をしていたのではないかとも想像します。というのも、縄文人は現在の人類の共通祖先から最古の部類の分岐で生まれた人々の末裔で、「社会的協力」で生き残った当時の人類の性質をいくらかは受け継いでいた可能性があるからです。

(3)東京大学によるSNPの多変量解析※9
 今回の冒頭に書きましたように、減数分裂で入れ替わりのある部分を含む全ゲノムを対象としているので、混血の様子がわかるということになります。
 研究概要を読んで書いた部分の前回の再掲ですが、

 ポイントとして「日本人約11000人の全ゲノムSNP(単塩基多型)遺伝子型データの解析で、現代日本人の遺伝的構造は縄文人と渡来人の混血の程度と地理的位置関係で特徴づけられることを示した」と冒頭に記載がありました。
 まず、主成分分析という多変量解析の手法を用いて「琉球人と本土人は遺伝的に明瞭に分かれる」ことがわかったとあり、次に47都道府県からそれぞれ無作為に50名抽出し、中国北京の漢民族も含め、f2統計量(2つの集団間の遺伝的距離を測る尺度の一つで、SNP毎にアリル頻度の集団間差の2乗の平均)を求めクラスター分析(多次元データで、データ点間の非類似度からグループ分けする多変量解析手法の一つ)をすると、「沖縄地方、東北北海道地方、近畿四国地方、九州中国地方に大別されたこと(関東中部は一つのクラスター内に収まらずグループを成さない)」、さらにf2統計量の解析から「近畿、四国地方は中国北京の漢民族と遺伝的に近いこと(九州北部よりも)」がわかったとありました。

 


[今回追加内容 ミトコンドリア(mtDNA)によるハプログループから(母方祖先)]

 ミトコンドリアによるハプログループについても追加しておきます。母系統を遡るものです。
 ハプログループD(mtDNA)は、4.8万年前に東アジアで誕生し、現在は東アジア・東南アジア・北アジア・中央アジアそしてアメリカ大陸に至るまで広範囲に観察され、形質人類学のモンコロイドの分布域と概ね重なり、長寿の遺伝子とされ(日本人の41から42%)、とりわけ日本人(大和民族)に多いのがD4(日本人の30%以上)です※10。
 ハプログループD (mtDNA)の母方祖先はハプログループM (mtDNA)で、出アフリカを果たし、ユーラシア、オセアニア、アメリカ大陸に広がったグループ
(西ユーラシアにはほとんど存在しない)です※11。Dを含めMから派生したもののうちM7の系統でも、

「ハプログループM7aは、日本人の約7.6%が属し、沖縄(23%)、本州(7%)の他、北海道アイヌ(16%)や、縄文人の人骨からも検出されている。」

 とあります※12。
 また、同様にM (mtDNA)から派生したG (mtDNA)について、

「ハプログループGはオホーツク海周辺の民族に高頻度に見られ 、アイヌ、日本人、モンゴル人、チベット人(そしておそらく北海道の縄文人)のハプログループにおいても主要な部分を占める。」

 とあります※13。

 さらに、F (mtDNA)については、

「ハプログループFは、現在東南アジア最大規模の人口を持つグループである。 高頻度で見られる地域は、ニコバル諸島(50%)・インドのアルナーチャル・プラデーシュ州(31%)・ジャワ(28%)・小スンダ列島(23%)・中国大陸の長江以南(特に雲南省のラフ族77%・広州26%)・ベトナム(26%)・ラオス・フィリピン(29%)・台湾原住民(27%)・日本(5.4%)などである」
「日本列島では、沖縄・宮崎をはじめ各府県にも分布し、北海道にも多少その痕跡が見られることから、縄文時代には既に南方諸島から北上したことがうかがえ...」
「近年、日本人のトップアスリートたちの身体能力とミトコンドリアDNAの研究が進むにつれ、瞬発系・パワー系の競技者群において、ハプログループFの頻度が高いことが指摘されている。」
「ハプログループNの子系統「R9」を祖先に持ち...」

 とあります※15。
 さらに、N (mtDNA)については、

「ハプログループMとともに、出アフリカを果たし、子孫がユーラシア、オセアニア、アメリカ大陸に広がっていった。」※18
「ハプログループNが欧米ユーラシアで大きな主流グループになっている。」※18
「ハプログループNとその子系統は北ルート、西ルート、南ルートの3方向に拡散した。」※18
「ハプログループN9はN9a、N9b、Yの3つの下位系統に分かれる。このうちYはアイヌを含むオホーツク海沿岸に多い。」※16
「一方のN9bは朝鮮半島や沿海州の先住民にもわずかに見られるが、基本的には日本にその分布が限られている。」※16

 とあります。
 さらに、Y (mtDNA)については、

「アイヌはハプログープYを持つが、縄文人には全く観察されていない。いっぽうオホーツク人のなかにハプログループYが確認され、アイヌ民族とオホーツク人との遺伝的共通性が判明した。」

 とあります※17。

 Y染色体ハプログループOと発生時期や場所が近いのがハプログループD (mtDNA)なので、形質人類学の新モンコロイドとD (mtDNA)は概ね一致するのでしょう。そしてハプログループG (mtDNA)が、チベットでの分布もあることから、古モンコロイド、縄文人と一致していると思われます。また、M7系統も古モンコロイド、縄文人かもしれませんが、F系統が新モンコロイドなのか古モンコロイドなのかが判然としません(新モンコロイドっぽいです)。また、Y染色体ハプログループD1a2aのように日本で発生した日本固有なグループとしての縄文人に相当するものはないようです。一方、ミトコンドリアのハプログループでは、縄文人には2系統あるようです。また、Y染色体ハプログループD1が出アフリカ後に東ルートを取り、その後に南北東に分かれたとなっている(ただし、現在残る下位系統はチベットのD1a1と日本のD1a2aだけで、ハプログループO系統の新モンコロイドを生んでいるわけではない)※3のに対して、ミトコンドリアで見ると古モンコロイドと新モンコロイド双方の祖先であるハプログループM (mtDNA)は出アフリカ後すぐに南ルートと北ルートに分かれて拡大したとあり、図を見ると北ルートから両方(古モンコロイドと新モンコロイド)を派生していて(時系列がわからないので)※ややこしく、男系女系でのこの違いは何を意味するのか難しいですが、M (mtDNA)の女性は少なくともD1 (Y染色体)の男性ともCF (Y染色体)の男性とも一緒にいた可能性はあります。しかし、D1 (Y染色体)の東ルートを共にしたM (mtDNA)の女性が見えないことが謎です。F (mtDNA)が新モンコロイドかどうか判然としませんが、仮に新モンコロイドだとすると、やはり母系統でみても古モンコロイドが残っているのはほぼチベットと日本だけということになります。


[系統の分析と混血の解析から]

 Y染色体ハプログループ(男系祖先系統)では、現在の日本で男系祖先を辿ると漢民族の多数との共通祖先であるハプログループO2系統に行き着く人々は16.7%であり、大阪では22.5%と多めで、九州ではさらに多く26.4%ということでした。これは渡来して各地に居着いた人々の子孫が途絶えずに今も一定の割合で続いており、渡来の痕跡ということだと思います。一方、全ゲノムSNP多変量解析では、日本全体、九州中国地方よりも近畿四国地方が中国北京の漢民族に近いという結果になりました。これは、近畿四国地方で漢民族との共通祖先と縄文人の混血が最も進んだ(男系祖先で漢民族との共通祖先に辿りつかない人にも漢民族と共通の遺伝子がより浸透している)ということを示しているのではないでしょうか。ただし、研究概要だけでは「どの程度近い」がわからなかったので、「最も進んだ」程度もわかりません。しかし、仮にこの推測が成り立つとすれば、大阪の人々への印象と一致します。ということは、祖先の系統だけよりも混血の強さ、つまり遺伝子の浸透が「大阪は日本の中の中国?」を感じさせる理由なのかもしれません。なぜ、大阪が「中国的」である(と感じる)ことを、遺伝子の解析以前に前提とするかと言えば、一つは独裁や新自由主義(独占志向)を受容し支持する地域性です(中国は社会主義を標榜しても、独裁体制の「国有」は私的独占と同じ、つまり資本主義自由主義の極端な姿と同類で、覇権主義にもその傾向が窺えます)。

 


(補足説明)
 日本で新自由主義と呼ばれるものは、資本主義市場経済が支配する資本家のための政策と政治の独占(独裁化)が同時進行する体制のことで、緊縮も資本家のためなので財政は健全化しないし、規制緩和に至っては、投機を誘発、新たな独占、利権を生み、目先優先の競争の苛烈化によって労働者からの搾取は一層進み、社会の成長発展の源泉である人材や発明が育たないため、国は豊かになれません。一時的な活況に騙されますが、格差は拡大し全体は貧しくなり続けます。排除と独占という私的所有を基礎とする資本主義、恐怖からの保身と他者への攻撃破壊を伴う「同調圧力」は非常に近縁で、資本主義支配である新自由主義とも当然に強い親和性があります。
 同調圧力とは、恐怖や不安、不満からの自己保身への強い集中で、自らの理性や生得的なモラルによる判断を放棄(消失)し、見かけの強者に依存し目先の安堵を求めたり、「決めつけ(レッテル貼りなどを含む)」により自己の不快の全責任を他者に転嫁し、極めて不寛容に激しく他者を攻撃し破壊することで安堵しようとする行為を引き起こし(自己を攻撃破壊する場合もあり)、過剰な他者依存のため消えない不安、強い感情を伴うため消えない偏見が(ただし恐怖が快感になる場合もあり、その場合は恐怖に溺れて)これを際限なくエスカレートさせ、他者を煽り同化させようとします。客観的には「周りと違うことが怖い」環境と性質に見えます。熱狂が熱狂を生み同調圧力は拡散、エスカレートし、一方で敵意は相手側の保身や敵意を誘起し、つまり逆向きの同調圧力をも誘起し拡散させます。恐怖による扁桃体の興奮を伴い、決めつけや偏見は極めて強固な記憶となって消えません。理性とモラルの消失により残虐行為を生み、戦争も生みます。詐欺はこの理性の消失を狙った意図的に同調圧力を起こさせる応用です。同調圧力は何につけても「過剰」の害をなします。恐怖への強い反応がセロトニントランスポーターの遺伝子多型のうち短いタイプで起こることから、同調圧力との関連が考えられますが、日本人はそのタイプが圧倒的多数で、同調圧力が強い可能性があり、意識して気をつける必要がありそうです。
 民主主義とは、社会の「共有」であり、社会主義的なものです。その運営や便益について共有者の意思が「いくらか」は反映されないと「共有」の「感覚」は不透明となります。ほどほどの寛容さが必要であり、不寛容な同調圧力は民主主義を阻害します(中庸の徳、過剰の害)。仮に無制限の自由があるとすれば混沌を成し社会が成立しないことから、社会を成立させる上で、そして社会の成立を前提とする民主主義において、自由は有限だとわかります(地球上の生物が物質的エネルギーに依拠し、時間や空間に制約された存在であるという点は大きいです。民主主義は「自由の分配」と言い換えることもでき、個々の自由は一層限定されます。多くの人は「自由」と言う時、「自分の」について多寡を言うため全体の自由のバランスがわかっていません。そして、自分の自由の持ち分に不満を持ち、その状況を不寛容に拒絶すれば、民主主義は壊れ、戦争にもなります。不寛容とは、まさに相手が自由を持つことを一切許さないという態度です。戦争という破壊行為自体が一方的な自由の行使です。)。つまり、誰かが(自由を)独占すれば他にまわる分(の自由)は減ります。例えば思想統制は権力による思想の自由の独占です(民主主義を逸脱し社会が壊れる手前ですが)。ロシアが他国に侵攻し戦争という大きな自由を行使すれば、様々な国の経済はマイナスの影響を受けます。また、多様性もほどほどにしないと社会はもちません(難民の流入で極右政党ができるのはそういうことでしょう)。労働は自由を売って通貨と交換することでは?。ありがちな喩えですが、自由は水やエネルギーの如く流動性があり交換が可能で、また形を変えて例えば貨幣のような約束として蓄えることも可能です。かくして、川を堰きとめて水を蓄えるが如く、あらゆる自由を独占する独裁は民主主義からでも生まれ、社会や民主主義を壊します(独裁は自由の「共有」を壊すからです)。一方で、流路を狭くし激流を起こして川を氾濫させるが如く過剰な自由を追求する自由主義は、混沌や独裁にも接近するため民主主義を阻害します(自由主義大国アメリカ、これに追従する日本の自民党も自由主義です。「保守」は保身と自由主義により直接的に不寛容と過剰である同調圧力を導き、左翼も不寛容となれば同調圧力を導きます。そして同調圧力は民主主義を阻害します。中庸を破り、不寛容と過剰により「共有」を壊すからです。)。本来の「公益」とは、自己の理性や生得的モラルを保った上で皆で「共有的(民主主義的)」に幸福を追求することであり、「滅私」は自己がなく共有もないため民主主義とはなり得ず、つまり、そのような同調圧力、全体主義では公益を生まないこと、「公共の福祉」は公益であり、「公の秩序」は強権的で公益とはならないことに注意が必要です。

(まとめ)
 前回の記事では、「同調圧力」の傾向や攻撃性など、また新自由主義のように同調圧力と親和し独占志向の強い傾向、独裁志向を特に新モンコロイドの気質に見いだそうとすることが主要なテーマでした。
 私たち日本人には大陸の新モンコロイド(中国や混血を含めロシアなど)とは違い、古モンコロイドという現在の人類の共通祖先に近い縄文人の血が入っていますが、新モンコロイドの血も混じっています。
 そして、新モンコロイドの地域(中国、ロシア、中央アジア、東欧)では、民族紛争、独裁、残虐行為、侵略、人権侵害が後を絶たないように見えます(ロシアの場合は、Y染色体ハプログループOの新モンコロイドの前身であり新モンコロイド同様に寒冷適応を経たY染色体ハプログループNO系統から派生したNと、さらに新興の寒冷適応していない東欧人であるY染色体ハプログループR1aとの混血であると思います 追記2022/3/31)。つまり、日本人にも同じ注意事項は当てはまるということです。今のロシアによるウクライナ侵攻で、ロシア国内でのプロパガンダや国民の熱狂ぶり、「自衛」を主張していること、侵攻対象を「助けるため」だと主張していることなど、かつて日本が戦争を起こした時の状況と似ているように感じます。
 誰か何かを一方的に、全面的な「悪」と決めつけたり(レッテル貼り、同調圧力、責任転嫁)、特定の誰かに強過ぎる権力を与えたり(独裁者となり孤独により猜疑心、恐怖心に支配されるようになり、自ら同調圧力に染まり理性やモラルを失い破壊行為に至る)、他者を煽って(同調圧力)マイナスの感情を強く誘起させたりすることは、そのような破滅的状況のもととなります。

 カバー画像はセンダン(Melia azedarach L.)です。ヒマラヤ山麓原産で、中国、台湾、朝鮮半島南部、日本(本性伊豆以南、四国、九州、沖縄)に分布します。※19

(引用、参考)
※1:「一塩基多型」フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/9/28  13:22 UTC 版)https://ja.wikipedia.org
※2:「モンゴロイド」フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/3/22  09:51 UTC 版)https://ja.wikipedia.org
※3:「ハプログループD (Y染色体)」フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/3/6  22:51 UTC 版)https://ja.wikipedia.org
※4:「日本人」フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/3/19  14:35 UTC 版)https://ja.wikipedia.org
※5:「ハプログループO1b2 (Y染色体)」フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/2/13  09:15 UTC 版)https://ja.wikipedia.org
※6:「ハプログループO2 (Y染色体)」フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/15  12:04 UTC 版)https://ja.wikipedia.org
※7:「ハプログループO (Y染色体)」フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/2/12  12:11 UTC 版)https://ja.wikipedia.org
※8:「ハプログループNO (Y染色体)」フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/22  04 :01 UTC 版)https://ja.wikipedia.org
※9:東京大学大学院理学系研究科理学部サイトから2020/10/14「都道府県レベルでみた日本人の遺伝的集団構造~縄文人と渡来人の混血がもたらした本土日本人内の遺伝的異質性~」https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/2020/7056/
※10:「ハプログループD (mtDNA)」フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/3/9  16 :39 UTC 版)https://ja.wikipedia.org
※11:「ハプログループM (mtDNA)」フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/4/29  07:20 UTC 版)https://ja.wikipedia.org
※12:「ハプログループM7 (mtDNA)」フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/4/22  14:49 UTC 版)https://ja.wikipedia.org
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