マイナンバーに利便性の愚(安全コストの無視)/接種は蟻の一穴に

一昨日の記事の加筆が多くなり新たに記事を起こしたものです。

 

 菅義偉政権はマイナンバーの利便性を強調し、「デジタル化」にパッケージして、利用拡大を急いでいます。マイナンバーに利便性を求めることは原発に似ています。安全コストの無視です。高税率高福祉、社会民主主義の北欧諸国では共通番号制度の必然性がありますが、小さな政府を志向する日本は全く状況が違います。様々な分野での共通番号制度は北欧を除き先進国で皆導入しているわけではありません。社会保障や税分野で限定的に個人番号として使われているのが普通です。共通番号制度を導入し民間での身分証明にも使われているアメリカではなりすまし被害が問題になっているようです。今の日本の政府の狙いは国民の一元管理です。無批判に許していると、将来大事故につながります。

 ワクチン接種での導入で、自治体と国の共有システムが構築されると、蟻の一穴となり、なし崩し的に利用拡大が推進されるかもしれません。



 河野大臣がマイナンバーを利用し接種情報を紐付けするための自治体と国の共有システム作りに着手すると表明しました。あーやっぱり、「令和の運び屋になる」などと言っていましたが、それはおそらくどうでもいい話で(ワクチンも)、河野大臣起用の本当の目的が出てきました(「運び屋」などと平然と言えたあたり、やはり信用できないパフォーマンスの人です(例の目安箱は即ポイ捨てしたあと、続きには何も関わっていないのでは)。ワクチン接種にはこんなにもいろいろな省庁が関わっていますよとSNSに投稿して耳目を集め、マスコミ、NHKがそれを拡散して協力しています。複数の省庁が関わる事例は別に変わったことではなく、従来でも調整してやっていたはずのことです。縦割りを壊すというイメージを作りたいのでしょうか。それともマイナンバーに関わらない発信で、マイナンバーの印象を薄めたいのでしょうか。大袈裟に情に訴えるやり方はまさにパフォーマンスで、政治家がやるとなぜか品がないと感じます。)。自治体ごとにシステムが違うことを菅義偉総理はマイナンバーによる国民の一元管理の障害としてずっと問題視していましたので、蟻の一穴でこれを突き崩すきっかけになることでしょう。とにかく国が直接国民を一元管理したいことがひしひしと伝わってきます。思わぬ棚ぼたで金塊を手にした盗賊のごとく、新型コロナのおかげで思いのほか早く自治体の壁を突破しマイナンバーの紐付けができそうな菅義偉政権なのかもしれません。もう流れは止まりません。政党でマイナンバーに一貫して反対してきたのは共産党くらいです。ワクチンを錦の御旗にマイナンバーが着実に推進されます。作業は民間に委託されることでしょう。
 今の自民党は、総理と河野大臣と厚労相と平井デジタル担当大臣と二階幹事長の5人だけですかというくらい、ほかの議員の存在感が全くありません。表向きは見えなくてもそれぞれ国会議員として働いていると思いたいですが、とてもそのようには思えません。何しろ、大物議員でさえ「イエス、サー」と言えなければ憂き目に遭う政党になって久しいですから。まさに、河野大臣と平井デジタル担当大臣は、総理の特命を受け総理のために何でもやる感じです。この「ワクチン接種でマイナンバー利用」は、完全に総理が2人の口に言わせているように見えます。平井大臣が言う「マイナンバーなら住所地に関わらず一元管理できる」がいくら本人が発した正論であり正しい内容だったとしても、どうしても、片方(平井大臣)に言わせて片方(河野大臣)がそれを受ける「パペットマペット」のようで酷い茶番に見えてしまいます。それは、マイナンバーと一体のデジタル化への総理の異様なこだわり、「説明しない」「答えない」不透明で「暗に」示す総理の有り様と自民党の独裁的統治の有り様が原因です。自民党内の専制的なガバナンスはロボットの集団のようです。かつて派閥により疑似的な民主的統治がありましたが小選挙区制により完全に失われて見る影もありません(宏池会の流れである岸田派を見てのとおりです)。金権政治をヒステリックに批判し意味のある機能も破壊してしまった訳です(小選挙区制導入は小沢一郎氏でしたが)。既得権益をヒステリックに批判し自分たちと目先しか見ていないポピュリズムが危険な理由の一つがここにあります。一見破天荒でも結局「イエス、サー」の人、パフォーマンスばかりの人を次期総理に期待する人の気がしれません。この方の父上河野洋平氏は小沢一郎氏にほだされて小選挙区制導入を決めた人で、後年にそれを後悔しただけで何もしなかった(しない)人です。
 いろいろ情報を検索して経過を見ると、旧民主党が行政コスト削減のためマイナンバーに着手したことがわかります。民主党はそもそも共通番号制度に反対したり進めたり風見鶏のごとく一貫していませんでした。今推進となっているのは大企業労組を含む連合がマイナンバーに積極的なことが大きく関わっているようです。その理由はIT業界の利権があるとも言われます。結局、立憲民主党も自民党と同じで大企業のほうを見ているのかもしれません。だから、「全ての労働者の立場を代弁する」とは正々堂々と言えないのでしょう。やはり、小選挙区制は強者による専制を作る制度だということをつくづく感じます。一見二大政党っぽい状態になってもそれが同じような政党なら全く無意味です。
 マイナンバーについて、私は政府による国民の抑圧に使われるのを最も心配していましたが、民間にも利用が拡大することでセキュリティー上も十分に心配なようです。石村耕治教授(白鴎大学法学部)は一貫して慎重な意見を言い続けておられます。共通番号制によってアメリカではなりすまし犯罪が横行しているといい、2006年にはアメリカ合衆国議会で「社会保障番号の身分証明としての使用を制限し、商業用の使用(レンタルの申請など)を禁止する法案」が検討されたくらいです(※1)。イギリスでは共通番号制度を導入しかけましたが、反対が強く実現しませんでした。ヨーロッパでは、ドイツは納税者番号、フランスは公的医療保険証に記載された番号などがありますが、様々な分野に利用される共通番号制度があるのは北欧の国くらいのようです(※2)。先進国はどこも共通番号制度を導入しているかのようなイメージは全く間違っています(そういうイメージを作って導入を推進するのは詐欺の手法であり、マスコミなども片棒を担いでいます)。前から書いていますが、社会民主主義の高税率高福祉国家である北欧諸国と日本とでは社会制度の根幹も国民と政府の信頼関係も前提は全く違います(日本では高税率高福祉とは全く逆の小さな政府を志向し、政府への信頼感が極めて薄い)。北欧の導入国でさえ

「ヨーロッパのEU指令では民間利用には「自由意志に基づく提供の合意」以上の厳しい指針が必要としており、デンマーク政府も単なる個人認証は誕生日や住所を聞くことで十分で安易にCPR番号(デンマークの国民識別番号)を提示する状況は望ましくないとしている。」とあります(※2)。

 なし崩し的にマイナンバー利用はどんどん進むようです。今回のワクチン接種への利用の決め方もあまりに軽いです。
 政府による抑圧、なりすまし被害というセキュリティーの問題、という懸念があるのに、大きな反対がなく大政翼賛会的に物事が動いていくことに非常な危うさを感じます。
 何事も情報をオープンにしない傾向が強いため信頼できない菅義偉政権ですが、いったい何を考えているのかわかりません。とにかく国民を一元管理したいことだけは物凄く伝わってきます。それによって誰のために何をしたいのかは全く伝わってきません。全ての国民の幸福のためでないことは確かです(もともと民主党が着手した際の目的が行政コストの削減であり利便性ですらありませんでした)。今の政府が言う利便性と引き替えに一般の国民が失うものは大きいと私は思います。アメリカへの追従なのでしょうか、分断社会も追従しています。裏でアメリカの圧力があるというような陰謀論も出てくる訳です。そのアメリカでも利用を制限しようと検討した共通番号制度をやろうとしています。マイナンバーが民間を含め様々な分野で利用されるようになれば、アメリカと同じで、なりすまし被害が続出することでしょう。菅義偉総理得意の手法(権力を行使し理由を明示せず「暗に」示すという恐怖政治)を考えると、国民の抑圧に使われる可能性も大だと思います。
 日本では、このように、どういう訳か他国で導入されて問題が起こっているものをわざわざ何周も遅れて導入する事例があります。小選挙区制もそうでした(ニュージーランドでは導入していた小選挙区制をやめるという決断をした頃に日本では導入しました)。おそらく、一部の勢力がその制度を何か本来とは別の目的で是が非でも「自分たちのために」「目先の利益のために」利用しようとするからそういうことが起こるのでしょう。小選挙区制は自民党が企画し一度廃案になっていたのに、小沢一郎という自民党を飛び出したたった一人の政治家が自らの権力闘争の道具として導入を画策主導したのではないかと思います。小選挙区制は小沢一郎氏の手を離れ、その後の日本の民主主義を破壊し続けて日本を専制国家のようにしてしまいました。小悪人の手を離れ、予想外の大災害を起こす映画のような話ですが現実です。マイナンバーもすでに法律は出来てしまっていますが、民主党が行政コスト削減のため企画したものを、自民党が引き継いで法律をつくりました。普通、民主党がやったことをあれだけ毛嫌いする自民党ですが、当初の目的以上のものがあったからに違いありません。国民を管理し抑圧し思い通りに政策を実行できると考えたからではないでしょうか。日本は、法律の理念も正義も(表面的に書いてあるだけで)存在しない国であり、本当に法治国家なのかと思えてきます。壊れることが分かっている中古物件をわざわざ求め、しかも壊れる使い方をわざわざしようとするマヌケな国が発展するわけがありません。それを政府、マスコミ、国民が一体になって引き起こしています。
 政府や、マスコミ(大手新聞、民放)や、NHKの報道・情報を全部鵜呑みにしていると気づかないことがきっといろいろあるでしょう。立場が変われば見方が変わることもありますが、3者の立場が似通っていて一面的な情報ばかり提供されると、客観的な情報を得るのはなかなかに難しいことです。海外在住の方の情報発信はきっと貴重な情報になると思います。今はまだ、インターネットでの個人の情報発信の規制が日本では緩いですが、世界的には「SNSが招く社会の不安定化」という見方が強まり規制の動きも起こり始めていると言います(これは、確か「アラブの春」後の反動を報じた2021/1/25NHKニュース9の情報ですが)。菅義偉総理による国民を抑圧する方向が現実化すれば情報発信も規制される(というより暗に自粛させられる)かもしれません。将来、菅義偉政権の手を離れたマイナンバーが、予想外(本来は想定内)の大災害を起こす可能性もあります。ハインリッヒの法則により、小さな災禍が続くうち、いつか大きな災禍が起こるかもしれません。「懸念は現実化する」、菅義偉政権がやってみせた教訓(日本学術会議法の過去の改正時の懸念が現実化したこと)です。

 

 ワクチン接種にマイナンバーを使う理由が「転居する人に対応するため」とは、後手が多い政府にしては、やけに細かなことに気を回しているようにも感じ、とって付けた理由ではないかと疑いたくもなります。3月に転居が多くなるのは、新大学生、新社会人、現役サラリーマンの転勤族とその家族だと思いますが、接種時期はずっと後ではないでしょうか。先般の国勢調査で行ったように(ただし世帯単位でした)、マイナンバーによらないワクチン限りの番号管理もあり得るとは思いますが、何が早くて確実か、やはり、国民に1対1で対応するマイナンバーなのか(しかし、これから自治体と国の共有システムを作るといい、急拵えで大丈夫なのか。入力を委託した業者から情報が漏れないか。)、現場の人でないとわかりません。しかし、どうしてもマイナンバーありきに見えます(自治体固有のシステムを統一システムに変えて国民を一元管理したいという菅義偉総理の新型コロナ以前からの経緯がありますから、ここでマイナンバーを導入すれば総理にとっては渡りに舟の状況が生まれます)。
 パスワードなどを時々変えましょうと言われる時代に、様々な情報をひも付けして、生涯不変の番号をどんどん利用拡大しようというのはどうかしています。「マイナンバー、パスワード」で検索しても、ごく一部の自治体のサイトの「マイナンバーカードには4種類のパスワードがありますよ」という情報(しかもかなり以前の)がヒットするくらいです。もう一つは「地方公共団体情報システム機構」の「公的個人認証サービス」のサイトですが(「go.jp」だから政府系機関だとは思いますが)どこの省庁が管轄し運営しているのか普通に探しても出ておらず、利用したことがない者には不審に見えます(2014年に設立された「地方共同法人」だそうですが(※4)、「地方共同法人」とは平成13年の閣議決定に基づく、国の政策実施機関にする必要がない地方公共団体の事業を行う団体、特殊法人とあり(※3)、民間でも国でもない機関のようです。)。こういう情報で、なぜ政府(省庁)の公式で明瞭な案内が上位にヒットしてこないのか。セキュリティーよりもとにかく普及拡大というのは、「国民のため」ではなく「国民の管理のため」ということの現れではないかと思います。公的なことで電子身分証明として使うならまだ仕方ないとしても、民間に身分証明としての利用が広まれば、セキュリティー上の危険は一気に拡大します。疑問の声が出てこないこともどうかしていると思います。導入後すぐに災禍は現れなくとも、小選挙区制の如くじわじわと、社会の大きな(悪い方向への)変化として菅義偉政権よりも後に現れるのではないか、杞憂であればいいのですが、心配です。なお、

 (「地方公共団体情報システム機構」の前身である)「地方自治情報センター」の全国センターにあるデータセンターやサーバには、日本国民の個人情報が集中している。そのため総務省は、全国センターの所在地を「テロリストの標的になる恐れがある」として公表していない(※4)。

 とされています。そんなことは今回調べるまで知りませんでした。要するに、秘密結社のような表札も看板もない謎の建物に情報が管理され、関わる職員がテロリストに漏らしたら「一巻の終わり」という完全に極少数の人に依存したシステムです。それなら、縦割り行政が少々不便でも、関連づけされずに分散して管理されていたほうがよほど安全だという考え方があってもおかしくありません。ここに、「前例打破」「既得権益打破」というポピュリズムの危険性があります。重要なセキュリティーに関する議論がなさ過ぎると思います。


※1:「社会保障番号」(アメリカ合衆国の) フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/8/26  02:37 UTC 版)https://ja.wikipedia.org
※2:「国民識別番号」フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/1/18  07:14 UTC 版)https://ja.wikipedia.org

※3:「地方共同法人」フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/1/20  15:58 UTC 版)https://ja.wikipedia.org

※4:「地方公共団体情報システム機構」フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/1/25  04:23 UTC 版)https://ja.wikipedia.org