NHK100分de名著「マルクス『資本論』」の内容が最先端すぎる

 第2回と第3回を視聴しました。マルクス『資本論』は大学の教養の講座でほんの少し入門を聞いたきり全く勉強してきませんでした。
 番組を聴いていると、『資本論』で指摘されたことは、まさに今のグローバル資本主義下での労働の実態そのものが書かれているかのようです。
 最終回が来週月曜日です。

100分de名著 マルクス“資本論” 第2回「なぜ過労死はなくならないのか」(2021年1月11(月)午後10時25分~10時50分/Eテレ)/第3回「イノベーションが「クソどうでもいい仕事」を産む!?」(2021年1月18日(月)午後10時25分~10時50分/Eテレ)

以下、視聴メモです。

●第2回「なぜ過労死はなくならないのか」(2021年1月11(月)午後10時25分~10時50分/Eテレ)/
無限に進む価値増殖の運動「資本主義」。それがやがて労働者を過労死にまで追いやってしまう仕組みを明らかにし、この暴走にブレーキをかけるためには何が必要かを考える。

労働者を過酷な労働に駆り立てる2つの「自由」
(1)奴隷労働からの自由(労働者には選択の自由がある)→自分で選んだのだから(自己責任?)
(2)生産手段からの自由(=労働者は生産手段を持たない→労働を売ならければ生きてゆけない)

際限のない価値増殖運動
「G(貨幣)-B(商品)-G-B-...」という際限のない運動(労働者が受け取る賃金水準を超えて生み出される商品の価値(余剰価値)が際限なく自己増殖)「資本とは、際限のない価値増殖運動である」
 この際限のない価値増殖運動に巻き込まれた資本家は余剰価値を多く得ようとするため労働者を長く働かせようとし、労働者のほうも上記の「2つの自由」によって(?)この際限のない自己増殖運動の歯車になっていく。
 チャップリンの『モダン・タイムズ』を思い出しますが、今はグローバル資本主義が跋扈して、おそらく当時よりももっと苛烈になっていると思います。愕然とします。

 番組では最後に、斎藤先生が、フィンランドでは労働時間短縮(日6時間週休3日)を目標に掲げていることに触れ、資本の暴走に歯止めをかける動きがあるということを説明されました。(私の感想→)ただし、北欧諸国は「社会民主主義」の国々であり、日本やアメリカなどとは政治の状況、前提が違うと思います。しかし、日本とて労働法制により労働者保護の政策はあるので、日本でも検討の余地はあるはずです(ということなのでしょう)。

2019年12月にフィンランド首相に史上最年少で就任したサンナ・マリーンさん。2020年1月時点では、「日6時間労働週休3日」は首相の持論と思われるけれども政府としては目標に掲げておらず報道の早とちりだと大使館が指摘していましたが、首相は8月24日に与党・社会民主党の会合で基調講演に登壇し、改めて、「労働時間の短縮」を実現するため、「明確なビジョンと具体的なロードマップ」を打ち出す必要があると強調したとされます(まだ正式な政府の目標ではないということか)。首相の持論であることは間違いなく、「労働条件を改善し、富の公正な分配を」、「労働時間の短縮と経済は矛盾しない(日8時間週休2日導入でも経済は成長した)」ということを言っているわけです。


Wikipedia「資本論」(※)から

商品や貨幣は、資本を説明するための論理的前提である。一般の商品流通は、自分の所有する商品と相手のもつ商品との間の、貨幣を媒介とした交換の過程であり、商品-貨幣-商品である。この流通は「買うために売る」、つまり欲しい商品を手に入れ、その使用価値を消費することによって終わる。これに対して、資本としての貨幣の流通は「売るために買う」、…貨幣-商品-貨幣… である。この流通の目的は価値、しかも、より多くの価値を得ることであり、資本としての貨幣の流通は終わることのない無限の過程である。資本とは「自己増殖する価値」であり、これが最初の資本概念である。

 


●第3回「イノベーションが「クソどうでもいい仕事」を産む!?」(2021年1月18日(月)午後10時25分~10時50分/Eテレ)/

「なぜ生産力が上がっても労働者は働かされ続けるのか」
価格競争→資本家は労働者の酷使に走る
マルクスは、労働者の賃金は生活費と考えた


イノベーションは資本家にとって夢、労働者にとってはただ賃金だけでなく技能も奪われ貧しくなっていく原因に

「構想と実行の分離」
 昔の職人仕事では構想と実行は一致していた。 
 資本家は安く大量に作りたい→分業し、コントロールできる労働者に(「構想と実行の分離」) イノベーション機械化によってより一層「構想と実行」が分離(労働者は主体性をなくし単純労働だけに 何年労働しても何の技能も身に付かない、機械の部品のような労働に)
→労働者は働けば働くほど貧しくなっていく。
現代は、マルクスの指摘した「構想と実行の分離」が先鋭化している
 主体性のない単純労働=ブルシットジョブ(くそどうでもいい意味のない仕事)(2020年7月『ブルシット・ジョブーークソどうでもいい仕事の理論』(デヴィッド・グレーバー著)の邦訳が発売され話題に)
 「構想」が分離された仕事の例 広告業など(いくら商品を良く見せても製品の品質は何も変わらない いい製品を企画するという「構想」から切り離された仕事)
 「構想」と「実行」の統一の例 学校給食の自校方式 (センター方式では、構想と実行が分離) 自校方式→(自分たちでメニューを考え作る)構想と実行の統一


 第2回、第3回の視聴のメモは以上のとおりです。何か寒々として希望も湧いてきません。グローバル資本主義とは、新自由主義と同義のように考えていいのかもしれません。個人では対抗しようがない感じがします。
 第2回では、資本家による労働者の酷使には、労働者保護の法制により歯止めをかけるしかないような話でした。新自由主義政策を推進する(献金もたくさん受けて大企業資本家の側に立つ)今の自民党政権ではなかなか難しいでしょう。働き方改革による上限規制はまだ緩さがあるし、高度プロフェッショナルや裁量労働などは労働時間を青天井にする抜け道になりかねません。自民党が表向きに掲げていることと実際に進める法制には矛盾がないか常に疑う必要があります。
 第3回では、分業をしない仕事に戻すという方法になりますが、広告業のようなそもそも業種自体が分業によって生じている場合は何ともしようがないでしょう。広告業については、確かに感じていました。イメージを作るだけで中身の善し悪しに関わらない仕事であると。だから「やりがい」は無いなと(個人的な感情です)。
 あとは、職業選択の自由によって「構想と実行」が分離されていない業種、企業を選ぶということくらいしか個人にはできません。しかし、職人仕事のような零細な仕事で存在感を保ち続けるのは一握りでしょう。菅義偉政権はブレーンの外国人の進言で非効率な中小企業を潰して統廃合することに言及しているくらいです。全く世の中の資本主義の暴走の流れは止まりません。弱者には実質的に職業選択の自由はないとも言えます。私は、単純労働ですら簡単には雇ってもらえません。


以下、NHKサイトから

 

 

「世の中には『資本論』のたくさんの入門書はありますが、『資本論』に眠っている、将来社会という観点から読み直すものはあまりありません。そこで、番組では、グローバル資本主義社会が行き詰まり、その暴力性をむき出しにしつつある中で、もう一度、別の未来の可能性を、マルクスの代表作『資本論』を通して考えてみたいと思います。」

●第2回 
なぜ過労死はなくならないのか
【放送時間】
2021年1月11日(月)
午後10時25分~10時50分/Eテレ
【再放送】
2021年1月13日(水)
午前5時30分~5時55分/Eテレ
2021年1月13日(水)
午後0時00分~0時25分/Eテレ
※放送時間は変更される場合があります
【指南役】
斎藤幸平(大阪市立大学経済学部准教授)…日本人初、史上最年少でドイッチャー記念賞を受賞した俊英。著書に「大洪水の前に」「人新世の資本論」などがある。
【朗読】
岡山天音(俳優)
【語り】
目黒泉
働きすぎが引き起こす悲劇「過労死」。マルクスは150年も前に、既にこのメカニズムを明らかにしていた。資本が「無限に終わらない価値増殖運動である」ことを見抜いたマルクスは、価値増殖をもたらすのが、労働者が受け取る賃金とそれを超えて生み出される商品の価値との差額であることを明らかにし、これを「剰余価値」を呼んだ。資本の価値増殖運動に巻き込まれた資本家たちは、少しでも多くの剰余価値を得るために、労働者の労働時間を常に延ばそうとしてしまう。労働者も自らこの論理を内面化し、価値増殖運動の歯車になってしまう。第二回は、無限の価値増殖運動である資本主義がやがて労働者を過労死にまで追いやってしまう矛盾を明らかにし、この暴走にブレーキをかけるためには何が必要かを考える。

●第3回 
イノベーションが「クソどうでもいい仕事」を産む!?
【放送時間】
2021年1月18日(月)
午後10時25分~10時50分/Eテレ
【再放送】
2021年1月20日(水)
午前5時30分~5時55分/Eテレ
2021年1月20日(水)
午後0時00分~0時25分/Eテレ
※放送時間は変更される場合があります
【指南役】
斎藤幸平(大阪市立大学経済学部准教授)…日本人初、史上最年少でドイッチャー記念賞を受賞した俊英。著書に「大洪水の前に」「人新世の資本論」などがある。
【朗読】
岡山天音(俳優)
【語り】
目黒泉
AIをはじめとする「イノベーション」で、さまざまなことが便利になった現代。つらい労働は機械に任せて、人間は快適で充実した人生を送れるようになるはずだった。しかし、現実は「ブルシット・ジョブ(クソどうでもいい仕事)」といわれる労働だけが増え続け、逆に労働者の負担は減るどころかますます増えるばかり。いったいなぜこんなことが起こるのか? 資本主義下、企業間の競争が激化する中でのイノベーションは、効率化を求めるあまり過度な分業化を推し進めてしまう。その結果、本来豊かな労働を「構想」と「実行」に分離、創造的な「構想」のみを資本家が奪い、単純労働のみを労働者に押し付けるといった過酷な状況が構造的に生じてしまうという。第三回は、「資本論」を読むことでイノベーションの矛盾を浮かび上がらせ、本来あるべき豊かな労働を取り戻すには何が必要かを考える。

●第1回 
「商品」に振り回される私たち
【放送時間】
2021年1月4日(月)
午後10時25分~10時50分/Eテレ
【再放送】
2021年1月6日(水)
午前5時30分~5時55分/Eテレ
2021年1月6日(水)
午後0時00分~0時25分/Eテレ
※放送時間は変更される場合があります
【指南役】
斎藤幸平(大阪市立大学経済学部准教授)…日本人初、史上最年少でドイッチャー記念賞を受賞した俊英。著書に「大洪水の前に」「人新世の資本論」などがある。
【朗読】
岡山天音(俳優)
【語り】
目黒泉
資本主義下では、社会は豊かになっていくのに一部の人々はますます貧しくなっていく。この「富のパラドックス」をマルクスは鋭く分析した。もともと水や土地、エネルギーといった公共財は無償であり潤沢に存在していた。ところが資本主義黎明期、これら公共財は、もっとお金が稼げる「商品」として農民から強制的に引きはがされる。いわば資本によって公共財が解体され「希少性」が人工的に生み出されていった。結果、農民たちは賃労働をせざるを得ない賃金労働者へと変貌。「商品」に頼らないで生きていくことはもはや不可能に。「商品」を購入するには「貨幣」が必要だ。だから「貨幣」を求めて人々は必死に働かなければならないが、多くの人は借金、貧困、失業の脅威に晒され続ける。一方で一部の人はますます富をため込んでいく。第一回は、「希少性」に取りつかれた社会の不安定性と矛盾にメスを入れることで、私たちがいかに「商品」というものに翻弄されているかを明らかにする。


※:「資本論」フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/12/25  23:12 UTC 版)https://ja.wikipedia.org