<誰でもできる政治資金収支報告書のチェック方法>
・では、実際にある議員の政治資金について、おかしな点がないかチェックしていくにはどうすればよいのでしょうか。
一番わかりやすいのは、大きなお金の流れを追ってみることです。
・自民党本部の収支報告書の支出欄を見ると、たとえば各地域の自民党選挙区支部に対して「支部交付金」の名目で数十万円から数百万円ずつお金が支出されています。このようなお金の流れについて、お金がわたっている各政党支部の収支報告書の収入欄と照らし合わせて、整合性があるかどうかを確認しています。
・こうしたお金の流れは政党本部から政党支部へだけでなく、派閥から所属議員の資金管理団体に対して支出されていることもありますし、ある議員の「国会議員関係政治団体」からその議員と関係のある「その他の政治団体」に対して「寄付」などの名目で支出していることもあります。こういった事例についても、収入側と支出側に整合性があるか逐一見ていくことで、不正をチェックしていきます。
・もう一つ注目すべきなのは、支出の内容です。
よくあるのは、「会議」の名目で女性がお客を接待するクラブやキャバクラのような店を使用している場合。そんな環境ではまともな会議などできるはずがありませんから、実質的には個人の「遊興費」としてポケットマネーから支出すべきものに政治資金を使ってしまっていることになります。
・日常生活のための飲食代やお菓子代、プライベートで使う家電製品などを支出している場合もあります。安倍晋三元首相の資金管理団体「晋和会」が、アイスの「ガリガリ君」を買うお金を政治資金から支出していたことが発覚して問題になったことがありました。
・こうした不適切な支出の多くは、即座に刑事事件になるものではありません。しかし、このような公私混同が政治的、道義的に見て許されるのかという視点からすると、見過ごしていいものではありません。
・領収書の写しについては、収支報告書と違ってインターネット上で公開されていないため、総務省や各都道府県選管に情報公開請求をかける必要があります。
・このように面倒な作業ではありますが、収支報告書だけでなく領収書もチェックすることで、支出についてより詳細な情報がわかります。
・支出を調べる上では、地元の市民の目で監視することが特に大きな意味を持ちます。たとえば「会議」の名目でキャバクラで遊んでいた場合があったとして、このような店の領収書というのは発行元の会社名が「〇〇興行」のようになっていて一目でお店の種類がわからないことがよくあります。
・政治資金オンブズマンや政治資金センターで収支報告書の読み方も解説もしていますし、私は、報道機関の記者から頼まれて学習会も開いたこともありますので、市民の方々にはそうした機会も活用してほしいと思います。
<「政治資金パーティー」の不正を暴くには>
・パーティーを主催した側の報告書に、20万円を超えるパーティー券の購入者として名前が記載されている者のうち、相手が政治団体の場合は、相手側の政治資金収支報告書の支出欄にも、同額の支出が記載されているはずです。ここに齟齬がないかをチェックしていくことが、最初にできることかと思います。
・自民党派閥の裏金パーティー問題でもこれに当てはまるケースがたくさんありましたが、疑惑をスクープした「しんぶん赤旗」日曜版の記者は「パーティーを主催した安倍派の収支報告書には書かれていないけれど、この業界の政治団体ならパーティー券を買っているかもしれない」と予測して、疑わしい政治団体の報告書を一つ一つしらみつぶしに調べていったのです。全国には約5万7000の政治団体が存在しますから、知識もマンパワーも必要とする途方もない作業です。
・しかし、この手法でわかるのは、パーティー券を購入した側が、政治資金収支報告書に支出を記載する義務のある政治団体の場合だけです。相手が企業だった場合、たとえ20万円を超えるパーティー券を購入してもらっているのを主催者側が記載せずに裏金にしていても、私たちとしては調べる術がありません。
・また、前述したように武見敬三氏が代表を務める政治団体「敬人会」はオンライン講演を開催して、政治資金パーティーと同じ高額な2万円の会費を徴収していながら、政治資金収支報告書に20万円を超える会費支払者の明細を記載していませんでした。
・刑事告発できないとなると、政治資金パーティーと同じ高額の会費を徴収したオンライン講演会は政治資金規正法で禁止するしかありません。企業の会費支払も確認できないので全面禁止は当然です。
誤解が生じないように書いておくと、収支がプラスマイナスゼロになることを予定して企画された事業は禁止する必要がありませんが、寄付金と同じ透明度を確保すべきですので、5万円超の支払者の明細を記載するように義務づけるべきです。ただし、企業が会費を支払うことは、国民がその支払額を確認できない以上、禁止すべきです。
<真に求められる政治改革とは>
<まずは収入源を断つことが第一>
・議員たちが不正をしないよう個別に監視していくことはもちろん重要ですが、それは「対症療法」に過ぎません。真に求められているのは、様々な「政治とカネ」の問題を引き起こす元凶となっている。現在の歪んだ制度を改革することです。
・ここまで説明してたように、もっとも効き目があると思われる改革は、「資金中毒」に陥っている国会議員たちに、これ以上余分なお金を与えないようにすることです。すなわち、憲法違反の政党交付金を廃止すると同時に、「事実上の賄賂」である企業献金も、政党へのものも含め完全に禁止することです。企業献金の「抜け道」となっている政治資金パーティーについても全面的に禁止することです。自民党の派閥が裏金をつくれた最大の原因は、パーティー券を大量購入する企業には、国民や記者がチェックできる収支報告制度がなかったからです。
・まだ政党交付金のなかった1967年に設置された「第5次選挙制度審議会」が「政党の政治資金は、個人献金と党費により賄われることが本来の姿である」と指摘していたことからもわかるように、政党交付金と企業献金の両方ともなくしても、政治家はやっていけるのです。現に今でも無所属の国会議員は、政党交付金の受け取り資格が認められていませんし、企業献金も受け取れません。既存の政党はこのことを踏まえるべきです。
<合法的な裏金もなくせ>
・議員ら「公職の候補者」個人は政治資金について収支報告制度がないので、政治資金規正法は「公職の候補者」に政治活動に関する寄付をするのを原則として禁止しています。しかし、政党が行う場合を例外として認めているため、それを受け取った「公職の候補者」がその後、いつ何に幾ら使ったのか、一切わかりません。すでに紹介したように、自民党本部は年間に約10億円~20億円を「政策活動費」名目で幹事長らに寄付していますし、同党の都道府県支部連合会や選挙区支部などの各支部でも「組織活動費」や「活動費」などの名目で同様に県議や市議らに寄付しています。これらはいずれも合法的な使途不明金=裏金です。
・全国に裏金が蔓延しているのです。自民党の派閥の政治団体が裏金をつくったのは、これに誘発されたのでしょう。政党の合法的な裏金は、政治資金の透明化を目的としている政治資金規正法の趣旨に反するのですから、一刻も早く例外を認めず禁止しなければなりません。
・また、衆参の国会議員に交付されている調査研究広報滞在費は使途報告制度がないので、これも使途不明金になっています。衆参の院内会派に交付されている立法事務費は、政党又は資金管理団体の政治資金収支報告書で収入として記載しているところが多いようです。しかし、調査研究広報滞在費と同じく立法事務費も国会での公的活動のためにしか使えない公金ですから、両者は一つに統合して院内会派に交付するようにして、厳格な使途基準を決めて、各会派に使途報告を義務づけて国民が手軽に使途をチェックできるようにすべきです。
・内閣官房報償費は会計検査院もその使途をチェックできないので官房機密費と呼ばれ、内閣官房の公務のためにしか支出が許されない公金です。しかし、前述したように、まるで自民党の政治資金であるかのように私物化して使われているという重大な疑惑があります。
<「トカゲの尻尾切り」を許すな>
・これまで説明してきた通り、私が考える改革の本丸は「資金源を断つこと」なのですが、それ以外にも細かなところで現在の制度には改革の余地があります。
たとえば、政治資金収支報告書の記載義務違反や虚偽記載といった犯罪について、すべては秘書や事務所の責任者が独断で行ったことにさせられて、政治家本人は責任を免れるということが往々にしてあります。今回の安倍派のパーティー券問題でも、国会議員はそう弁明しています。いわゆる「トカゲの尻尾切り」などと批判されるケースです。
・政治団体の代表者になっている政治家本人の責任がどうなるのかと言うと、会計責任者など収支報告書の作成者との共謀が立証できないと起訴できませんので、政治家の立件のハードルは相当高くなります。
・こうした事態を避けるために考えられる改革の一つが、政治資金規正法に「連座制」を導入することです。日本では公職選挙法で連座制が定められていて、選挙の候補者や立候補を予定している人と一定の関係にある人が買収などの選挙違反に関わった場合に、たとえ候補者本人が関わっていなくても政治家の当選が無効となり、その選挙では同一の選挙区から5年間は立候補できなくなります。
・先ほど説明したように、現状では、政治資金収支報告書の記載義務違反や虚偽記載が発覚したときに罪に問われるのは、会計責任者などその報告書を作成、提出した人になります。
・これを問題視した国会から、条文を改正して「選任又は監督」とすれば、会計責任者の不正に対して議員の監督責任を問うことができるようになるとして改正法案が提出されたこともありました。2010年のことですが、成立することはありませんでした。この改正については、今度こそ実現させるべきです。
<「完全な比例代表制」導入のススメ>
・ここまで見てきたように、議会制民主主義を歪めてしまった一つの原因が、1994年の政治改革で導入された小選挙区制です。
多数の死に票が発生する小選挙区制によって、国民世論の実態に比べて与党が過剰に代表されることになり、それが内閣に対する国会の力を弱めていく結果になりました。また、政党助成金が過剰に流れ込むことで、与党議員が「資金中毒」になる一因になっています。
こうした問題を解消するためには、やはり小選挙区制を見直す必要があると考えます。
・では、どんな制度ならば議会制民主主義を取り戻すことができるのか。私が提唱しているのは「完全な比例代表制」です。
・ここで忘れてはならないのは、いま衆参で行われている比例代表選挙には、無所属の候補者が立候補できないという大きな欠陥があることです。
・投票価値が平等であるということは、有権者が投じる一票の価値が誰でも同じであるということで、投票前にも投票後にも保障されていなければなりません。
・細部をどのように設計するかはともかくとして、「完全なる比例代表制」を導入することによって、現在のように与党が過剰代表された議席配分は解消されますから、与野党の議席が拮抗に近い形になっていくと思われます。
・近年の衆院選の得票率で見ると自公で過半数を超えていないので、現在のように自公だけで過半数の議席を維持するのが難しくなり、三つ以上の政党による連立政権がつくられていくことになると予測できます。現に、比例代表制を採用しているヨーロッパの国々の多くが、こういった形の連立政権になっています。
・こうなると、選挙後はどこが連立政権入りするかで、政党同士の綱引きが行われることになるでしょう。
・そもそも、一般国民の投票率が上がらないからこそ、業界団体や宗教団体のような組織票によって自民党や公明党が勝ち続けられているわけです。
・さらに言えば、都道府県議会など会派のある地方議会の選挙制度も、同じ理由で、無所属の立候補を認めた完全比例代表制に改革すべきです。
<選挙制度が変われば「政治とカネ」も変わる>
・「完全なる比例代表制」を導入することで、与党による過剰代表が解消され、より民意を正確に再現した議会をつくれることはここまで述べてきた通りです。
・ところが現在は何か不祥事があっても、総裁や党幹部は「本人が説明責任を果たすべきだ」などと言うばかり。
・もしこれを、完全比例代表制に変えたらどうなるでしょうか。ある議員が不祥事を起こした場合、即座にその所属政党に入れられる票の減少につながりますから、「あなたが問題を起こしたために、党全体の得票率が下がって、自分が当選できなくなる、どうしてくれる」と厳しい評価になっていくはずです。
・もう一つ期待できる変化は、女性議員の比率が今より高まることです。現在の小選挙区制やそれに近い衆議院の選挙区選挙では、各党が候補者を一人や少数に絞らなければなりませんが、こうなるとどうしても、すでに地盤があって知名度の高い現職議員や世襲議員が公認候補に選ばれやすくなります。
・地盤に縛られた小選挙区制をやめれば自民党であっても女性議員は今より出馬しやすくなるでしょうし、過剰代表されている自民党の議席が減ることで女性議員の比率が高い野党の議席が増えれば、結果的に女性議員が増えることになります。
・現代の日本では「所属政党よりもこの候補者の人柄にほれ込んで投票する」といった考え方はそれほど珍しくないように思います。
<「べからず選挙法」はもうやめよう>
・選挙制度を変えることも大きな意味を持ちますが、私はそれとセットで、現在の公職選挙法を改正することを提案します。
今の公選法は選挙運動について、「あれもすべからず」「これもすべからず」という数々の規定で候補者をがんじがらめにする「べからず法」になっています。
・なぜこのような厳しすぎる規定になっているかと言うと、現在の公選法は日本国憲法制定以前の、大日本帝国憲法時代の規定をそのまま継続しているからです。そこには、戦前の政府が脅威と見なしていた革新政党の台頭を避けるため、その選挙運動を妨害・抑制するという含意があります。
そんな時代錯誤の規定を現在まで引きずっていることで、選挙運動の幅が過度に限定され、結果として知名度のない新人候補者にとって不利な規定になってしまっています。
・もちろん、お金で民意を歪める買収などの行為は厳しく規制する必要があるのは言うまでもありません。
・加えて、必ずしも裕福でない者でも立候補でできるように、現行の供託金制度を廃止するか、残してもその金額を大幅に下げるべきであると考えています。衆参の各比例代表選に立候補するのに600万円もの大金を供託させるのは被選挙権の侵害です。
<自民党は抜本的な政治改革をやる気なし>
・自民党は2024年4月23日に、政治資金規正法の改正に向けた独自の案をまとめました。
・以上の案には、そもそも私が前述した裏金をなくす改革案が一つも含まれていません。政治資金パーティーも企業献金も全面禁止する気はないようです。政党から議員に支給される「政策活動費」名目の寄付も禁止するとは限らず他党との協議に委ねるというのですから、裏金づくりを温存し続けようとしていると思われても仕方ありません。
・しかし、修正は微修正にすぎず、裏金づくりの防止案ではありません。政治資金パーティーも企業・団体献金も禁止されないままです。
政党が国会議員や地方議員らの「公職の候補者」に寄付することは禁止されましたが、「政策活動費」名目での「公職の候補者」への支出は、寄付としての支出ではないと言い張り、今後も禁止しないことにしました。
・こんな法案が最終的に可決成立しても、批判し続けないといけません。私は諦めません。主権者のための真の政治改革が実現するまで私見を主張し続けます。
<エピローグ>
<裏金事件の捜査はまだ終結させません>
・プロローグで紹介した自民党の派閥の政治団体が行った政治資金パーティーに関する政治資金規正法違反の事件は、私の見方では、三つに分けられます。
① 派閥の政治団体の20万円超の政治資金パーティー収入明細の不記載事件
② 派閥の政治団体の政治資金パーティー収入総額を政治資金収支報告書に過少記載して裏金をつくってプールしていた事件
③ 派閥の政治団体の政治資金パーティー収入総額を政治資金収支報告書に過少記載して、不記載した収入額の一部を所属の議員側にキックバックして、または中抜きを許容して寄付していた事件
<金権政治を根本的に変えるのは国民の怒りの継続>
・自民党の派閥の各政治団体による各政治団体による裏金事件はキックバックを受けた個々の議員の脱税事件ではないかとみる意見もあります。それゆえ国民の怒りは消えそうにありません。
・私の答えの一つは、すでに説明したように、政権の暴走を止めたいからです。日本国憲法は議会制民主主義の立場なのに、現行の法律で定める選挙制度や政治資金について定めている諸法律が議会制民主主義に反しているので、政権・与党は簡単に暴走できるとみなしてきましたし、現に暴走してきました。
・もう一つの答えとしては、日々、屋内、屋外で、市民運動や憲法運動をされている皆さんの言動をみて「自分でもやれることをやろう」と思うからです。
<あとがき>
・本書は、私のこれまでの憲法学の理論的研究と刑事告発など市民運動のそれぞれの成果を総合的にまとめた一冊です。私は、本書を一人でも多くの方々に読んでいただくことで国民が日本の政治を本質的に変えるきっかけになる、そんな一冊であると自負しています。
・本書を出版した後も、自民党派閥の裏金をキックバックされていた国会議員らを政治資金規正法違反の罪で刑事告発するために、私は告発状を作成して東京地検に郵送し続けます。
『救国の八策』
佐々淳行 幻冬舎 2012/7/25
<私の考える「救国の八策」とは>
第一策 海防論――日本は四方を海に囲まれた海洋国家であることを忘れるべからず、固有の領土を将来にわたって守るため、海防を強化すべし
第二策 外交論――集団的自衛権の行使を認め、日米安全保障条約を「100年条約」にすべし、中国に対しては、尖閣問題は周恩来・鄧小平の合意の線に立ち戻って、より賢い孫たちに解決させることとし、「凍結」する。「防衛費1%枠」は撤廃、防衛問題を財政問題にしてきた愚をあらためよ
第三策 皇室論――まず天皇制護持を宣言せよ。「皇室典範」の改正により、旧宮家男系相続人の養子縁組を認め、皇統断絶の危機を回避すべし
第四策 憲法論――第九条のくびきを打ち破り、自衛隊を国軍にすべし。国民の命運に関わる重要案件について、国民投票を可能にせよ
第五策 国防論――敵地攻撃能力なくして国民を守ることは不可能と認識せよ。一朝ことあらば「躊躇なく、敢然と立ち上がる」意志を示すべし
第六策 法案・危機管理論――社会とともに変化する犯罪、さらに自然災害に備え、国民の安全、治安に携わる公務員を増員すべし
第七策 エネルギー論・食糧論――安全性確保の方法を明示し、原発を再稼働した上で、新エネルギーを増加させる道筋を示すべし
第八策 経済論――専門家の英知を実現するにも、国の信用が不可欠。政府は自らの身を切って覚悟を伝え、国民の信頼を取り戻すべし
<第5策――国防論>
<超一流の「海防力」を誇る自衛隊>
<第一級の装備は海上自衛隊だけではない>
<海兵隊と揚陸強襲艦を備えよ>
・望ましいのは前述のごとく海兵隊なのだが、アメリカのように陸海空軍に加える第4の軍種として立てるだけの余裕は予算的にもない。とはいえ尖閣問題は喫緊の課題なので、早急に1個大隊(約800名)でも水陸両用部隊をつくる必要がある。
<原潜という究極の抑止力>
・抑止力としてもっとも強力なのは、原子力潜水艦である。「空母に狙いをつけた原潜がどこかに潜んでいるかもしれない」となれば、敵空母の機動力は阻止できる。
一カ月もでも二カ月でも潜航可能な原潜は、「その海域にいる」という可能性だけで敵国は身動きできなくなるのである。
・フォークランド紛争のとき、英国原潜コンクアラーがアルゼンチンの重巡洋艦ヘネラル・ベルグラーノを緒戦で撃沈し、アルゼンチン海軍の行動を阻止した。「イギリス海軍の原潜が展開しているかもしれない」というだけで、アルゼンチンは戦況を見直さざるを得なかったのだ。
・原子力潜水艦2隻と、搭載兵器として巡航ミサイル「トマホーク」があれば、長期間海中に潜んで、弾道ミサイルを発射しようとする国があればその基地を攻撃することも可能になる。核弾頭である必要はない。通常弾頭でも非常に大きな抑止力になる。防衛という観点から、選択肢として考えるべきだろう。
<第六策――治安・危機管理論>
<治安要員を削減してはいけない>
<民主党政権の脆弱な危機管理能力>
・しかも危機管理に不向きな内閣のときに限って大事件・大事故が起こる。
・民主党の無能、虚言、裏切り、責任転嫁などは今さら語るまでもないが、野田内閣が2012年4月3日に国家公務員の採用削減を閣議決定したことには、怒りを通り越して脱力した。無定見ここにきわまれり、と言うほかはない。
<負担人口を500人以下に>
・各国と比較してみると、日本の警察官は決して多くはない。
約25万2000人の警察官がいるけれども、警察官1人あたりの負担人口は、日本は503人である。
・たとえばフランスは約6200万人の国民に対して、警察官はおよそ21万人8000人、負担人口は286人である。負担人口だけで列記すると、ドイツ314人、イギリス366人、イタリア282人、アメリカ353人と日本の7割以下なのだ。
<交番相談員も1万人に>
(2024/2/17)
『諜無法地帯』
暗躍するスパイたち
勝丸円覚 山田敏弘 実業之日本社 2023/11/22
日本では数万人規模の中国スパイが活動している
<はじめに>
・スパイは、あなたのすぐそばにいる。
・私は警視庁公安部外事課(通称:外事警察)に2000年代から所属していた。外事警察ではスパイテロ対策に従事し、スパイを追跡する「スパイハンター」として、街の中に溶け込んで活動を続けてきた。日本でスパイ対策をしている公的機関はいくつかあるが、外事警察は、逮捕権・捜査権をもつ法執行機関として最前線でスパイと戦っている。
・加えて、「スパイハンター」として活動している際に、それぞれの場面で共通して思うことがあった。それは、スパイハンターの人手があまりにも不足していることだ。
・もう、スパイがやりたい放題に動いている現実から、日本人は目をそらしてはいけないのである。
<実録!私の外事警察物語>
<大手ショッピングモールにスパイあり>
・大きなショッピングモ-ルはスパイに好まれる場所であり、首都圏にある米大手倉庫型店でスパイが協力者に接触を行っていたこともあった。郊外の店舗ゆえ、スパイや協力者が密会する穴場だと見られている。
<犯罪だらけのアフリカ某国で大使館の警備>
・もともとその国の日本大使館では、アフリカ某国の国家警察に所属していた元警察官が警備担当のローカルスタッフとして雇われていた。そして、その元警察官に、現地の治安状況や情勢について簡単な英語で報告書を作成させていた。
<麻薬カルテル情報でネタを吸い上げる>
・日本には対外情報機関は存在しない。CIAやMI6のような国外でスパイ活動をする組織がない。
それでも私は、大使館のみならず日本の安全のために、アフリカ某国で独自に情報活動をして、日本に報告を行うようになった。
<事前にイスラム過激派のテロを把握>
・警備対策官は、日本や日本人に対するこうした脅威情報を得るために情報取集をしているのだ。ただ日本には対外情報機関がないために、いち警察官である私は、それを個人の裁量で行わざるを得なかった。
<命を懸けた海外での接触>
・私が管轄していたいくつかのアフリカ諸国でも、お土産やプレゼントによるお礼の文化が普通にあった。
情報のレベルにもよるが、謝礼は、高級な万年筆が買えるくらいのレベルから、高くても良質なスーツを買えるくらいが最高額だった。
<世界から遅れている日本の情報機関>
<お互いに情報を隠し合う日本の情報機関>
・こうした私の対外情報活動は、あくまでも個人として動いていたものである。再三述べたように、日本には対外諜報機関が存在しないからだ。
・内閣情報官は常に警察出身ということになっている。そこに警察庁と公安調査庁からの職員と、国際情報統括官組織ならびに防衛省の情報本部からも職員が出向している。問題は、それぞれの組織から来ている職員が、お互いに情報を共有することはなく、隠し合っていることである。
<自衛隊の秘密組織「別班」は実在する>
・防衛省は情報本部以外に非公然組織を抱えているといわれている。その名も「別班」。私が公安監修をしていたTBS系日曜劇場「VIVANT」に登場し、話題になっていた。
防衛省では、軍事活動をする上で海外の裏情報を知ることが重要だとされているため、陸軍の軍人だった藤原岩市が、普通の情報機関員では手に入れることができない危険度の高い情報を集めることを期待して創設したのが始まりである。
別班のメンバーは主に防衛省から外務省に出向して、外交官として在外公館に勤務しながら情報収集をしている。
・ちなみに政府は別班の存在を否定しているが、別班が集めた情報は内閣官房長官と内閣情報官に上がるので、把握しているはずだ。
別班の創設にあたり、旧日本軍の陸軍中野学校というスパイ養成機関に所属していた人々が関与していたといわれる。彼らは日本を守るという任務のためには、時に邪魔者を排除することも辞さなかったといわれている。
<金正男の来日情報を一番掴めなかった公安>
・国際的に見れば、CIAやMI6といった対外情報機関の日本側のカウンターパート、つまり、日本側の同等の組織は、公安警察、内調、公安調査庁のどれなのかがはっきりとしない。そんなことから、海外の情報機関から日本に絡んだ重大な情報がもたらされても、それをうまく活かしきれずに失態がおきることもある。
その象徴的な例が、2001年5月の金正男の来日事件だ。
・私はこのケースについて、いまだに惜しいことをしたと考えている。もし最初に情報が公安警察にもたらされていたとしたら、おそらく金正男を泳がせて、どこに立ち寄るのかなど行動を調べて、日本側の関係者を特定しようとしたはずだ。さらには、毛髪からDNA情報も確保できたかもしれない。金正男からいろいろな情報が収集できたはずだったが、結果的に、そのまま帰国させてしまうというあり得ない失態をさらした。
この金正男のケースに限らず、海外で私が属していた外事警察はあくまで「法執行機関」であるために、アフリカ某国に赴任中に各国の情報機関関係者があつまるブリーフィング(説明会)にも呼ばれないこともあった。