(2024/3/20)

 

 

『日本の常識は世界の非常識!』

高橋洋一   徳間書店  2023/6/2

 

 

 

まえがき

・岸田政権は経済オンチともいえる反アベノミクスの姿勢を示し、「国債でというのは、未来の世代に対する責任として採り得ない」などと「防衛増税」や「異次元の少子化対策増税」に走ろうとしているように見える。

 

そもそも、アベノミクスの理論的基礎となっているのは、2022年にノーベル経済学賞を受賞したバーナンキ氏の理論である。マスコミや官僚、一部専門家など反アベノミクスを煽る人たちは、マクロ経済の政策でも日本流ですべて通用すると思っているのだろうか。「埋蔵金」を使わせない財務省の論理によって、日本の外貨準備は先進国で突出した多さとなっている。また少子化対策として児童手当の増額が考えられているが、税と社会保障が一体運営されていないのも日本だけだ。そもそも、消費税を社会保障目的税としている国はない。

 まさに「日本の常識は、世界の非常識!」と言えることがまかり通っている。

 

日銀総裁交代で、日本経済はどうなる

日銀・植田新総裁の「煙幕会見」 やはり雇用より金融機関重視の姿勢か

・植田日銀は、安倍政権の大規模マクロ政策発動の遺産もあり、インフレ目標がすぐに手に届く位置にいるが、それでも「達成は難しい」と煙幕を張っている。これは政府による財政のサポートはないと観念しているのかもしれない。当面の動きはないということだろう。

 

「賃上げ要請」で経済オンチぶりを現した岸田首相

<●「トリクルダウン」という俗説

・だがこうした経済理論は存在せず、俗説に過ぎない。実証分析でも、トリクルダウンはほとんど検証されていない。

 

<●どうすれば賃上げは可能か

・まず教科書的な説明から始めよう。大前提として失業率とインフレ率の間には逆相関関係があるという、いわゆるフィリップス曲線がある。

 

・安倍政権時のデータでは、それは失業率2.5%程度、インフレ率2%程度だ。この下限となる失業率は、経済理論では、NAIRU(インフレ率を上昇させない失業率)として知られており、筆者の推計では日本では2%半ば程度だ。

 

・アベノミクスの根幹になっている異次元の金融緩和は、2%・2倍・2年。すなわちインフレ目標を2%とし、そのためにマネタリーベースを2年間で2倍にするとされていた。

 

・どの程度の賃金上昇になるかといえば、インフレ率プラスその国の実力で賃金上昇率は決まるが、プラスアルファ部分は、資本・労働生産性や技術進歩などによる。

 

<●「増税と利上げ」では、「賃金上昇」には向かわない

・こうした経済状況に呼応するが、GDPギャップがまだ相当額存在している。

 現存するGDPギャップを前提とすれば、必要な政策は「追加財政政策と金融緩和政策を行い、GDPギャップを解消させた上で、若干の需要超過状態を維持する」ことだ。それを半年程度継続すると、失業率が下限となり賃金が上昇し始める。

 

・筆者の言うことは、失業率についてインフレを加速させない程度の下限に維持するとのマクロ経済原則を言っているにすぎない。しかしそれに至らずに、望ましい追加財政政策と金融緩和政策とはまったく方向の違う「増税と利上げ」をしようとする岸田政権は、まさに経済オンチだ。これでは賃金上昇は期待できない。

 

・そうなると、一定期間後に、失業率がちょっとずつ上がってくる。失業率が上がるとどうなるか。企業経営者からみれば、余っている労働力を使えば良いわけだから、賃上げをしなくて済む。

 

岸田首相は、経済の好循環というが、初手で増税と利上げでは「悪循環」になってしまう。

 

岸田首相の失策で、アベノミクスは潰えた

<●アベノミクス10年を振り返る

・安倍・菅政権では、民主党政権で決めた消費増税以外は、極力増税を回避してきた。新型コロナ対策の100兆円予算も、政府・日銀の連合軍により、増税せずに行った

 

アベノミクスの最大の成果は、雇用の確保だった

 

・そうしたマクロ経済を評価する筆者の基準もシンプルで、雇用の確保が出来れば60点、その上に所得の向上があれば40点を追加して100点満点とするものだ。

 アベノミクスでいろいろなことを言う人がおり落第点という人も少なくないが、その評価基準は筆者にはさっぱりわからない。

 

したがって、安倍政権の評価をすれば、雇用60点、GDP20点で、計80点だ。

 

<●アベノミクスの方向性が大転換

・岸田政権では、金融政策でもアベノミクスと真逆の政策が実施されようとしている。

 

・また、筆者が再三指摘したように、円安は日本経済全体のGDP押し上げ要因だったが、日銀の政策変更で円高になったので、株価が急落したのは当然だ。

 円安で企業の経常利益は過去最高となっており、円高が景気悪化につながるだろう。生産拠点の国内回帰の動きにも冷や水を浴びせかねない。

 今後、住宅ローンの金利も上昇し、企業が融資を受ける条件も厳しくなるだろう。一方で、利上げは銀行など金融機関の経営には恩恵が大きい。今回の事実上の利上げは、雇用、GDPなどマクロ経済よりも金融機関を優遇した政策だといえる

 

いよいよアベノミクスから舵が切られた、筆者の予感は、再びデフレ、失われた20年の再来だ。

 

黒田日銀10年は雇用確保は歴代最高 海外紙は評価するも、残念な日本のマスコミ

・14年4月の消費増税があっても、強力な金融緩和のおかげで19年にはデフレ脱却の環境が整っていた。もっとも、この期待は19年10月の消費増税と20年かららのコロナ禍で吹っ飛んでしまった。

 それでも、雇用の確保という金融政策の主目的からみると、歴代最高のパフォーマンスだ。金融政策は「2つの責務」といい、物価の安定と雇用の確保を目的とする。

 

・しかし、詳しく見ていけば、15~64歳人口は一貫して減少している。民主党時代には、就業者数が減少し、それを上回るペースで労働力人口も減少したために、見かけ上、失業率が低下した。しかし、安倍政権では、就業者数が猛烈に増加し労働力人口を上回ったので失業率が低下した。それぞれの中身はまったく異なるものだ。

 

・黒田日銀の業績について、雇用に着目するマスコミを探したが、残念ながらあまりなかった。ただし、海外紙は黒田日銀を評価しているものばかりだ。

 雇用が確保されると、その後に賃金が上がり始め、インフレ率も上がる。マスコミの論調は、黒田氏が「インフレ目標を達成できずに残念だ」と言ったところだけを切り取り、雇用を400万人作ったということは無視している

 そもそもインフレ目標を達成していないではないか、というのは、金融政策の2つの責務をしっかり理解していないために出てくる批判だ。

 

元大蔵次官が『安倍晋三回顧録』に反論  財務省の「省益追求」の正体>

・政府の財政状況を見るには、BSの借金残高を見るので不十分で、左側の資産も考慮し、具体的には資産を控除したネット借金残高で見なければいけない。これはファイナンス論・会計論のイロハのイである。

 

・一般論として言えば、資産の中には、天下り先の「米びつ」である出資金や貸付金が多く含まれている。増税は資産が温存されるので、官僚にとって好都合だ。逆にいえば、借金は返済せざるを得ないから、資産売却となれば天下りもできなくなる。民営化は資産売却の典型例なので、官僚が民営化を否定するのは、天下りを維持したいためであることがしばしばだ。

 安倍さんが、財務省が「省益」を追求していると言うのは、例えば借金返済のために増税を主張するが、一方で、資産売却を渋り、天下りに拘泥することを言っている。

 

・もちろん、増税することで財務官僚の差配するカネが増えるのも財務省の「省益」だ。

 

「バーナンキ」のノーベル賞受賞を、メディアがあまり触れない理由

<●アメリカは彼がいたから乗り切れた

・この一件をバーナンキに話したら、「君が正しい」と言われ、「金本位制に固執した国では十分な金融緩和策がとれず、デフレが深刻化した」という彼の論文を見せてくれた。それで、金本位制を放棄した国では思い切った金融緩和が可能となり、恐慌から早く逃れることができた。金本位制から早く離脱した国ほど、世界大恐慌から早く抜け出していることがわかった。

 

・FRB理事時代の2003年、バーナンキは「名目金利ゼロ」に直面していた日本経済の再生アドバイスを行った。具体的な手法として、国民への給付金の支給あるいは企業に対する減税を国債発行で賄い、同時に中央銀行がその国債を買い入れることを提案している

 

・中央銀行が国債を買い入れると通貨が発行されることになるので、中央銀行と政府のそれぞれの行動を合わせてみれば、中央銀行の発行した通貨が給付金や減税を通じて国民や企業にばらまかれていることになる。これが、いわゆる「ヘリコプターマネー」だ。

 これは、日本では酷く揶揄されたが、ノーベル経済学賞を受賞したフリードマンも提唱していた由緒正しい政策だ

 アメリカはバーナンキのおかげでリーマンショックもコロナ危機も乗り切れた。

 

<●アベノミクスの理論的基礎はバーナンキ

・いずれにしても、アベノミクスの理論的基礎はバーナンキにあるといってもいい。バーンナンキも議会証言などでアベノミクスを高く評価していた。

 

・いずれにしても、もし安倍さんが生きていたらバーナンキのノーベル賞受賞をさぞかし喜んだだろう。

 

「円安になればGDPが増える」当たり前の事実

「32年ぶりの円安」が日本にとって大チャンスである理由

<●メディアの印象操作に欺されるな

・2022年10月21日、為替が1ドル150円近辺と、1990年以来の円安水準と報じられ、マスコミでは円安が大変と大騒ぎになっている。

 

そもそも、円安はGDPを増やすプラス要因だ。古今東西、自国通貨安は「近隣窮乏化政策」として知られている

 通貨安は輸出主導の国内エクセレントカンパニーに有利で、輸入主導の平均的な企業には不利となる。しかし全体としてはプラスになるので、輸出依存度などに関わらずどのような国でも自国通貨安はGDPのプラス要因になる。

もしこの国際経済常識を覆すなら、世紀の大発見だ。

 

・このため、海外から文句が来ることはあっても、国内から円安を止めることは国益に反する。

 

・しかしマスコミ報道は、こうしたマクロ経済ではなく、交易条件の悪化などごく一部の現象のみを取り上げて「円安が悪い」という印象操作をしている。

 

円安はトータルでプラス!一番儲かっているのは政府!儲かったお金を困っている人や中小企業に回せ!

 

<●バブル期は酷いインフレではなかった

・そもそも、今回の円安は32年ぶりだという。32年前というと1990年でバブル絶頂・崩壊時だ。

 その当時のマクロ経済指標はどうだったのか見ると、名目GDP成長率7.6%、実質GDP成長率4.9%、失業率2.1%、CPI(消費者物価指数)上昇率3.1%だ。文句のつけようもない数字だ。バブル期というと酷いインフレと思い込んでいる人もいるが、そうではない

 

・当時、マスコミは金融引き締めを行った日銀の三重野康総裁を「平成の鬼平」ともてはやして後押しし、日銀も従ったが、それは間違いだった。筆者の見解では、日銀はこの間違いを「正しい」と言い続け、その後も間違いが繰り返され、「平成不況」となる失われた30年の元凶になった。

 

<●むしろ円高・デフレがまずかった

・そしてメディアの論調に押されて、バブル潰しのために金融引き締めをして、それが正しいと思い込んで日銀は金融引き締めを継続した。

 

・ちなみに、カネの伸びが低いとモノの量は相対的に多くなり、その結果、モノの価値が下がり、デフレになりがちだ。バブル潰しの結果、金融引き締めを継続したのが、デフレの原因である。

 アベノミクスは、それを是正するものだった。カネの伸びは世界最低級からは脱出したが、まだ十分とはいえない。

 

<●いまは円安メリットが大きくなっている

・GDPをドル換算して日本のGDPランキングが下がったと言い、円安を悪いものとして煽る論調があるが、円払いの給与がほとんどの日本人には無意味なことだ。むしろこれまでの円高・デフレで成長が阻害された結果を表していると見たほうがいい。

 

その中でも最大のメリットを享受しているのは外国為替資金特別会計(外為特会)で、外貨資産を保有する日本政府だ

 筆者からみれば、外為特会は霞が関埋蔵金の一つであり、かつて小泉政権の時に、財源として捻出した経緯がある。

 

・含み益を実現益にするためには、ドル債の売却は金融機関相手でなく、政府内の特別会計間取引でもいい。

 

いずれにしても、外貨債を持っている日本人にとって円安メリットは現実のものだ。最近の円安によるGDP増加要因で、日本経済は1~2%程度の「成長ゲタ」を履いており、他の先進国より有利になっている。1990年の失敗を繰り返さず、この好機を逃してはいけない。

 

「円安で儲かった37兆円」を経済政策の財源に充てよ

<●経済論戦すれば、野党は攻めどころ一杯だった

・GDPギャップが残ったままだと、余分な失業が残り、人手不足にならないので、賃金の上昇も期待できなくなる。その結果、構造的な賃上げもできなくなる。

 最終消費者における負担軽減という観点から言えば、事務的に容易なのは消費税減税や社会保険料減免で、効果も大きい。

 

<●「埋蔵金」論争の再燃を警戒する財務省

・かつて「埋蔵金」論争が起こったとき、世論は財務省の批判に向かったので、その再来を財務省は警戒しているのだろう。

 実は、外為特会については、筆者はかつて小泉政権の時にやったことがある。

 

・岸田首相の主張する「外貨を円貨に替えるのは実質的に為替介入」という論理はおかしい。円高に対応するためにドル債を購入するのが為替介入だ。ドル債は有期なので、例えば3年債なら3年後に償還されるので、その際に外貨を円貨に替える。これは、どこの国の介入でも行われる通常の行為だ。それをやらずに再びドル債を購入したら、それこそ為替介入になってしまう。

 

・筆者の言うことを確認するのは簡単だ。先進国は変動相場制であるが、その外貨準備高のGDP比を見ればいい。外貨準備を持っている国でも数%以下だ。つまり、一時的に介入しても、ロールオーバーせず、途中売却か償還になっているのだ

 

マスコミが理解していない「円安になればGDPが増える」当たり前の事実

<●なぜ企業の業績がここまで伸びているのか

マスコミでは、円安が大変という報道が溢れている。そこで筆者は、円安はGDPを増やすので、必要な対策はやりやすいと話した。

 これは、読者であればご存じだろう。そもそも円安がGDPプラス要因なのは、古今東西、自国通貨安は「近隣窮乏化政策」として知られている。海外から文句が来ることはあっても、国内から止めることは国益に反する。

 

・もちろん、輸出比率が低く輸入比率が高い中小企業には逆風だが、大企業は逆に追い風である。

 

・中小企業には、増えた税収で景気対策を行えばよく、GDP増加要因の円安を抑えてしまっては元も子もない。

 

・このままいけば、税収もかなり増えるだろう。経常収益がよければ、法人税収は当然伸びるが、給与所得も伸びるので、所得税収も伸びることになる。

 

<●円安と日本の国力は関係ない

・これまで何回も書いてきたが、日米の為替は円とドルでどちらが相対的に多いか少ないかがポイントだ。多いほうの通貨は希少価値がないため安く、少ないほうの通貨は希少価値が出て高くなる。これは、理論ではマネタリーアプローチ、実務経験則ではソロスチャートと同じだ。

 

・円ドルレートは、日米の通貨の交換比率であるが、それぞれのマネタリーベース総量の比になっているとは、何と単純・明快な話ではないか。もちろん、為替を決めるのは、日米のマネタリーベースの現在値ではなく、それぞれの予想値なので、現在値の比だけで説明できないが、現在値の比は大いに参考になる。

 

・そのとき、大きくマネタリーベースの比が変動するが、それを後追いして為替レートが動いている。これが、マネタリーベースの予想値で為替が動くという意味だ。

 

<●為替を理解していないマスコミ

・プラザ合意の前については、プラザ合意で1ドル240円くらいから1ドル130円への調整が2年間くらいで行われているが、その前はいわゆるダーティフロートという管理された「変動相場制」だ。見方を変えると、円ドル比率から計算される「理論値」である1ドル130~150円と比較して、1ドル200~250円くらいに円安誘導していたわけだ

 ニクソンショック以前は1ドル360円だから、かなり円安に設定されていた。そうした円安が輸出競争力を高め、日本の高度成長の原動力になっていたというのが筆者の見解だ。

 こうした見方は、日本の技術力が高度成長の要因という常識とは異なる。

 

・ともあれ、為替レートの50年の歴史から見れば、今の円安はマネタリーベースで説明できる範囲であり、それほど酷いものではない。GDP増加のチャンスであるととらえるべきだ。

 もちろん円安で苦しい企業や人もいるので、GDP増加の果実である税収増をそうした人たちにふり向ければ、すべての人が幸せになることが可能だ。その意味で、政府の経済対策に注目したらいい。

 

景気回復、給料アップのためにも積極財政と金融緩和が必要だ

・内閣府資料には、インフレかデフレかを見るために最適といわれる「GDPデフレーター」が掲載されているが、四半期デフレーター原系列の前年同期比をみると、前7―9月期の▲0.4%から、プラスになったものの1.1%しかない。これが安定的に2%を超えるまでは積極財政、金融緩和が必要だ。

 

欧米が追加利上げする理由 日本の引き締めは時期尚早

・こうした金融政策の基本フレームから見れば、失業率がNAIRUまで下がっていて、インフレ率がインフレ目標より高ければ、金融引き締めとなる。この意味で、FRBやイングランド銀行の利上げは、セオリー通りだ。

 

・ただし、日本では、雇用調整助成金で失業率が低めに出ているので、まだNAIRUを達成しているとはいえない。その意味で日本の利上げは時期尚早だ。

 

「埋蔵金」は使わせない。あくまで「増税」に走る財務省の奇妙な論理

岸田「30兆円」経済対策の裏で、財務省の「大増税」誘導

<●経済対策の規模は結果オーライだが……

・実際に経済生産を押し上げる効果のある「真水」はどの程度か。詳しくは補正予算書を見ないとわからないが、内閣府の経済効果試算でGDPを4.6%押し上げるというのであれば、真水は25兆円程度以上になる。

 

・野党の案は、規模において政府案より少ないもので、情けない。もう少しマクロ経済を勉強してもらいたい。このままでは、財務省の応援団になってしまい、失業を容認するなど国民生活に害悪となる存在になってしまう。

 

<●「減税系」がなく「補助金系」ばかりなのはどうなのか

・これまで筆者は「埋蔵金」について50兆円程度使えると発言してきた。外為特会で30兆円、国債整理基金などで20兆円がその内訳だ。しかし、GDPギャップを意識しているので、そのすべてを経済対策に充てろとは言わない。

 

・執行率の差は、「補助金系」と「減税系」を比較すると、後者のほうがはるかにいい。

 

<●増税の前に、埋蔵金と「増収」という手がある

・さらに、「増収」では、インボイス導入という手もある。インボイス導入については、市民グループや左派政党の反対があるが、消費税が導入されている国ではどこでも導入されている普遍的な制度だ

 

このまま財務省の言いなりで終わるのか? 「埋蔵金」活用の手もあるのに

<●「埋蔵金」と「消費増税」

・ということは、未消化分はまた「埋蔵金」になる可能性があるということだ。

 このように埋蔵金は、その時々の財政運営や経済環境によって変わりうる。

 

<●埋蔵金は使っても支障がないもの

・埋蔵金というのは、筆者は特別会計における資産と負債の差額で、使っても特別会計運営に支障の出ないものとしている。

 

・それにしても、財務省の補正予算のやり方は酷い。標準的な手法なら、使い残しを集めてきて、できるだけ国債発行を抑えるのだが、そうなっていない。

 

「埋蔵金」を使わせない、財務省の世にも奇妙な法解釈

<●ドル債の売却・償還をすると、介入になる?

・さらに、外為特会で保有しているドル債の償還時期が到来したとき、償還し償還金を円転せずに、ドル債をロールオーバーして再投資するほうが、「介入」になるとも指摘しておいた。

 

<●突出した外貨準備を生む財務省の珍妙なロジック

このロールオーバーがあるために、日本はG7諸国の中で、突出した外貨準備になっている。他の先進国で外貨準備がないということは、ドル債の売却や償還時に、「介入」になるのでアメリカ政府との関係でできない、との財務省の対外的な説明が正しくないことを示している。

 

・しかし、外為特会では現実にロールオーバーしており、外貨準備を先進国で例がないほどに肥大化させておきながら、売買差益は計上していない。

 

<●この法解釈が本当に正しいか?

・それでも、頭の体操であるが、特会で保有しているドル債を全部売れれば、全額政府短期証券の償還をできて、その上で差益が剰余金になる。

 

防衛費増額の財源に、ついに「埋蔵金」活用か? 財務省の「増税悪あがき」の行方

<●もともとは「防衛国債」が有力視

・政府は防衛費増額について、2023年度の一時的な財源確保策として、新型コロナ対策で厚労省所管の独立行政法人に積み上がった剰余金や外国為替介入に備えて管理している特別会計の剰余金の転用案の活用が浮上したと報じられた。

 

<●さすがに財務省も抵抗できなくなった?

・筆者のところに多くの与野党議員から問い合わせて来たので、小泉政権以来のこれまでの埋蔵金支出の経緯、その際、財務省の問題となっていた法解釈などを忌憚なく話させてもらった。そして、コラムでもそれらを公開してきた。

 

・今の為替水準だと、少なくとも30兆円程度の「評価益」があるが、剰余金だと、財務省が会計操作を行った後に出るので、評価益そのものが剰余金になるわけではない。いずれにしても、筆者から見れば少なくとも30兆円くらい捻出できるが、複数年でその半分くらいになれば御の字

だろう。

 

<●自然増収でも防衛費増をかなり賄える

・いずれにしても、実質的に建設国債対象、その他収入(埋蔵金)がポイントで、当面これで決着が付けば、増税とは政治的にはならない。

 

防衛費増額で財務省にまんまと乗せられた岸田首相

<●増税を主張するための「試算」のカラクリ

・岸田首相は、2022年12月5日夜、今後5年の防衛費として43兆円とし、あわせて財源措置の検討も指示した。

 

・前述のように予算づくりの一般論として、新規予算があるとき、(1)他の歳出カット、(2)建設国債対象、(3)その収入(埋蔵金)、(4)自然増収、(5)増税、で対応する必要があることを紹介した。検討される順番は、それぞれの番号通りだ。

 

<●まともに検討されなかった「埋蔵金」

・建設国債対象は、安倍元首相が提唱していた「防衛国債」のことで、安倍元首相が亡くなってから、財務省は官邸に有識者会議を作り、防衛国債議論を封じて増税への地ならしを行ってきた。

 

・埋蔵金は必ずしも外為特会に限らない。一般会計に計上されている債務償還費は、他に流用しても国債償還にはまったく支障がない。そもそも債務償還費を予算で計上しているのは先進国では日本だけだ。

 

<●セオリーを無視する財務省

・東日本大震災後、大震災が稀に起こるのであれば、課税標準化理論から復興費用は長期国債で賄うのが、財政学からの結論だ。これと同様に考えれば、有事が稀に起こるのであれば、防衛費用を長期国債で賄うのが筋だ。課税標準化理論からも防衛国債を正当化できる

 東日本大震災についで今回も財務省はセオリーを無視した。

 

習近平独裁体制になった危うい中国

北朝鮮のミサイルと日本の防衛 トマホーク配備で「2倍、3倍返し」は可能か

・北朝鮮は核ミサイルで、第一撃で同時に多数を撃ち込む飽和攻撃をしてくると見るのが軍事常識だ。はたしてトマホークで相手を抑止できる2倍、3倍返しができるのか。核シェアリング(核共有)を検討せざるを得ない段階だろう。

 

思いつきの「少子化対策」、欺瞞だらけのエネルギー政策

思いつきの「少子化対策」議論に財務省がほくそ笑む

<●人口減少しても1人当たりGDPは低下しない?

・まず、天の邪鬼な筆者にとって、少子化対策はその必要性が胸にストンと落ちない。人口減少しても、1人当たりGDPが必ずしも低下するとは言いがたいからだ。

 

学術会議「改革議論」の不可解 独立保つなら民営化 世界と比較しても奇妙な日本のアカデミー

・ただし、欧米諸国のアカデミーは、ほとんどが独立の法人格の団体である。

 

・独立性のためには民営化するのがいいはずなのに日本のアカデミーはどうして反対なのか、筆者にはさっぱりわからない。

 

・2000年の省庁再編もそろそろガタが来て見直しの時期だが、誰も言い出さない。本件のほか、厚労省分割、歳入庁創設、放送独立委員会創設、海上保安庁改組などやることが山積みだ。