(2024/3/8)
『神になりたかった男』
回想の父・大川隆法
宏洋 幻冬舎 2023/9/28
<宗教への目覚め>
・しかし、隆法は、留年までしたにもかかわらず狙っていた司法試験に落ち、さらには上級国家公務員試験にも落ちてしまう。隆法は東大に助手として残ろうとしたが、成績が悪かったためにそれにも失敗する。
どん底の隆法は、なんとか総合商社である(株)トーメンに就職してサラリーマンになった。
<「霊言」が下りてきた>
・東大の卒業を控えたこのころから、隆法は宗教法人GLAの創始者である高橋信次の本を読みはじめ、かなりの影響を受けたらしい。
そして間もなく、「霊言」を聞くようになる。
・1985年、彼は会社勤めの傍ら父親、つまり僕の祖父を著者に立てて『日蓮聖人の霊言』を潮文社から出す。「霊言シリーズ」のはじまりだ。
・隆法は翌1986年には(株)トーメンを退社し、「幸福の科学」を設立する。
<ひとりぼっちの少年>
・後に新興宗教「幸福の科学」の総裁となる大川隆法(本名中川隆)は、1956年に四国の徳島県麻植郡川島町(現在は吉野川市川島町)に生まれた。
<共産党と宗教と>
・隆法の家庭は、両親と兄がひとりいる4人家族だった。
隆法の父、つまり僕の祖父は名前を中川忠義という。ただし宗教活動では善川三朗と名乗っていた。
・祖父から隆法への影響は他にもある。政治と宗教への関心だ。
・祖父は若いころ、少しだけ東京で暮らしていた時期があり、そこでキリスト教を学んだり、新宗教「成長の家」の創始者である谷口雅春に教えを受けたりしたという。
さらには戦後、徳島に戻った祖父は共産党に近づき、県委員会の機関紙『徳島新報』の発行にまで深く関わったらしい。
・重要なのは、祖父が徳島を訪れた宗教法人GLA創始者、高橋信次の講演を聞き、感銘を受けたらしいことだ。
<2つの『太陽の法』>
・幸福の科学でもっとも重要とされている隆法の著書、いわば聖典が『太陽の法』『黄金の法』『永遠の法』の3部作で、特に大切なのが『太陽の法』だということになっている。
<華やかな高校生活?>
・高校時代の隆法は、先ほどの同級生の証言にもあった通り、パッとしなかったんだろうと思う。
<東大受験の失敗>
・前に書いたように、隆法は東大受験に失敗して1浪しているが、旧版にはその描写がしっかりとある。
<東大での挫折>
・期待にあふれて東大に進んだ隆法だけれど、学生生活は挫折の連続だったらしい。
<GLAを通して宗教に目覚める>
・というのも、どちらにも卒業を控えたころに宗教法人GLAの創始者・高橋信次の本を読み、その後霊との通信がはじまるという記述があるからだ。
・ただし、高橋とGLAへの隆法の評価は、途中から大きく変わっている。
旧版では、当時すでに亡くなっていた高橋の霊が隆法に通信してきたことを「決定的な瞬間」と書いている。
<会社でもひとりぼっち>
・そうそう、社員の半数以上が悪霊に憑依されていたから、隣にいるだけでも辛かったとも言っていた。実際、隆法がいきなり同僚に「おまえには狐が憑いている!」とか言ってお祓いをはじめたという証言もある。
<「霊言」のはじまり>
・5年にわたるサラリーマン時代、隆法はどんどん宗教に近づいていく。
隆法が父親の中川忠義に「霊が下りてきた」と連絡したのもこのころだ。
・遅くとも1985年には、隆法と祖父は霊言を本にまとめて出版することを考えるようになったらしい。祖父は著名な霊能力者に、隆法の霊言を録音したテープを送りつけたりもしている。
・カルト宗教問題を追っているジャーナリストの藤倉義郎によると、交霊に凝りはじめたのは祖父と伯父が先で、隆法はむしろその後を追った立場だった。
・そのうち(たぶん)いやいや霊言をはじめた隆法だけれど、例によって伯父さんのほうが上手かったという話もある。
<砂上の楼閣>
<「隆法」の誕生>
・1986年11月、日暮里の酒販会館の一室に、緊張した面持ちの隆法がいた。「幸福の科学発足記念座談会」の当日だ。
<拡大する幸福の科学>
・このころになると、幸福の科学は世間からも注目されはじめる。1991年には講談社による記事への抗議や訴訟を派手に展開して話題になったし、作家の影山民夫や俳優の小川知子みたいな有名人の会員もいた。
<転機になったオウム事件>
・幸福の科学と同時期に拡大していったオウム真理教と幸福の科学は反目し合い、隆法はオウム批判を繰り広げていた。
・そして1995年3月20日、オウム真理教が東京の地下鉄に猛毒のサリンを撒き、13名の死者が出る。いわゆる地下鉄サリン事件だ。
<砂上の楼閣>
・僕たち家族は隆法のことを「総裁先生」と呼ぶ決まりになっていた。
<頂点>
・僕は、1995年あたりが隆法と幸福の科学の絶頂期だったと思っている。1956年生まれの隆法は当時40歳前後、まだまだ若く、体力もあった。
<ほころび>
・宇都宮の小学生だった僕は、学校の勉強とは別に教育係の秘書さんたちからも勉強を叩き込まれていた。隆法の中では、僕は麻布中学校に進学することになっていたらしいので、中学受験をすることは決まっていた。
隆法は僕に何度も「麻布高校から東大法学部に行け」と言っていた。
<カンシャク持ちの恭子さん>
・隆法の後継者である僕は、麻布高校から東大法学部に入らなければいけない。だから僕が麻布中学に受かるかどうかは、隆法にとってとても重大だった。
母親の恭子さんも隆法に負けず劣らず教育熱心で、しかもまずいことにカンシャク持ちだった。
<暗雲>
・僕はこのころの隆法が、それまで以上に太っていた気がする。ストレスで暴飲暴食をしていたのかもしれない。そしてある日、事件が起こった。
<隆法、倒れる>
・その日、外出先から帰ると、真っ青な顔の恭子さんが「総裁先生が倒れられた……!」と狼狽しながら駆け寄ってきた。
・心不全だったらしい。隆法の家系は心臓・血管が弱いらしく、前に書いた隆法のお兄さんも心不全で倒れ、その後若くして亡くなっている。
<隆法のゼロ年代>
・ところで、隆法にとってのこのころ、つまりゼロ年代はどういう時代だったのだろうか。
少なくとも僕は、幸福の科学を作った80年代、組織が大きくなった90年代は違う、とても重要な意味を持った10年間だったと思っている。隆法はもともと、政治への興味が強かった。
・その政治思想は、おおざっぱに言えば後に隆法が立ち上げる幸福実現党に近い右翼的なものだと言えそうだけど、全体として宗教がかっていてわかりづらい。
<ワンマンの悪化>
・だがゼロ年代には、おそらく隆法が知らないところでも変化が起こっていた。
隆法がワンマンだったことは、なんどか書いた。人の意見は聞かず、いつも自分の思い通りにしたがる。
<裸の王様>
・まあ、隆法は王様になりたかったわけだから、めでたく夢をかなえたと見ることもできる。
でも、このころになると独裁体制の弊害が現れはじめていた。
<政治への進出>
・まだ恭子さんと離婚していない2009年、隆法は十数年ぶりに大々的な講演会をやり、政党「幸福実現党」の結党を宣言した。
・でも隆法だけは水増しを知らず、数百万人の信者がいると本気で思っていた。いよいよ恐怖政治のツケが、隆法本人に回ってきたわけだ。
<狼狽>
・さて、あるとき隆法は僕に、政界進出について聞いてきた。
僕は信者数の水増しを知っていたから、止めるべきだと言った。「当選者はゼロだと思いますが、それでもやるんですか?」と聞いた記憶がある。
<100億円近く使った選挙での大敗>
・隆法は選挙の準備のために上がってくる報告書を見ているうちに、実際の信者数が隆法の思い込みよりもはるかに少ないことに気づいたらしい。最初の選挙である2009年7月の東京都議会選挙で擁立した10人の候補が全員、落選したことも響いただろう。
・急に弱気になった隆法は、本命だった夏の衆議院議員総選挙の直前に、選挙からの撤退を表明する。選挙まで3週間を切ったころだった。恥をかきたくなかったんだと思う。
しかし今度は逆に僕が、撤退反対を進言した。
・選挙ではもちろん、隆法を含む337名の候補者全員が落選した。
選挙でのダメージは大きかった。その後の国政選挙にもたくさんの候補者を立ててきたけれど、当選者はゼロ。政党への貸付金が100億円以上あった時期もあるから、2009年の選挙だけで100億円近く使ったと思う。
<「神」を継ぐものたち>
・還暦が近づいてきた隆法が、自分の「王国」の引き継ぎを考えるようになっても不思議はない。
・前に書いたように、隆法には僕を含めて5人の子供がいる。
<2代目大川隆法・咲也加>
・咲也加は、「神になりたい女」だと言っていい。いろいろな意味で隆法に似ている女性だ。
<隆法の秘蔵っ子・裕太>
・三男の裕太は、隆法にとっての理想的な息子だったかもしれない。
まずなんといっても学歴がいい。麻布中高から東大法学部に入っている。しかも現役でだ。
さらに、霊言ができる。
<緩やかな死へ>
・恭子さんとの離婚と選挙での失敗で幕を開けた2010年代は、客観的に見れば、明らかに破滅へのカウントダウンがはじまった時代だった。
その根拠はいくつかあるけれど、信者さんが離れはじめたことと、信者さんの高齢化が大きい。
・もちろん2世信者もいるけれど、親からの惰性でやっているだけだから抜ける人も多いし、寄付にも熱心じゃない。
<現実からの逃避>
・僕は、2023年現在のアクティブな信者数はおよそ1万3000人と見積もっている。いやに具体的なこの数字は、幸福の科学がやっている各種SNSのフォロワーの数が、どういうわけかどれも1万3000人前後になっていることからの推測だ。偶然の一致というのは考えにくい。
もちろん幽霊会員やダミー会員を含めれば信者数はもっと増えるけれど、教団が公式に言っている1100万人にははるかに及ばないのは確実だ。
<幸福の科学はなぜ成功したか?>
<幸福の科学の教えとは?>
・多くの読者が気にしているのが、幸福の科学の教義の内容かもしれない。だけど、教義は意味不明だ。
・たとえば9次元の世界とは、「縦、横、高さ、時間、精神、神知識、利他、慈悲の8つの構成要素に、宇宙という要素が加わります」ということらしい。そして、「9次元世界になると、地球系だけにとどまっておらず、太陽系以外のほかの星団の霊界ともつながっているのです」だそうだ。
この独特の「次元」の解釈は実は教団にとってはとても重要なので、後で説明しよう。ちなみに自己紹介をすると、僕は8次元の住人ということになっている。
・さらに読み進めると、「金星人」とか3つ目の超能力者たちが住んでいた「ゴンドワナ文明」とか「ムー大陸」とかが出てくる。
・ただ、幸福の科学の教えの根底には非常に重要なメッセージがあることは見逃せない。それは、「考えることを止めなさい」ということだ。
<「考えること」からの解放>
・『太陽の法』に限らず隆法の言っていることは無茶苦茶ではあるが、根っこにあるのは「私の言うことを信じなさい。あなたは考えたり判断したりしなくて大丈夫です」という教えだ。
・隆法を信じれば、自分の頭で考え、自分の意思で判断する負担から解放されることができる。思考停止しても生きられる。そういう教えだ。
・宗教界全体を見渡したとき、幸福の科学には2つのユニークな点があることに気づく、ひとつはトップの隆法が東大法学部を出ていること。もうひとつは、非常に幅広い出版ビジネスを手掛けていることだ。
東大に限らず、高学歴の教祖様は珍しい。僕は幸福の科学が信者を増やせた理由のひとつは隆法の「東大法学部卒」という肩書にあったと考えている。隆法もその威力を知っていたからこそ、息子たちに東大に入るようしつこく言ったんだろう。
もうひとつの出版ビジネスは、その後の「霊言シリーズ」の乱発によって世の中に知られるようになってきたけど、こちらも実は重要な意味を持っていたと思う。
<宗教じゃなくて「オンラインサロン」>
・幸福の科学が設立されたのは1986年だけれど、宗教法人の許可が下りたのは1991年。では初期の幸福の科学が何の団体だったのかと言うと、「学習会」とか「学習の場」という位置付けだった。
・そして隆法の本を鵜呑みにすれば、なんとなく知的な感じを装うことができるというわけだ。「東大法学部卒」の学歴がモノを言ったことも間違いないし、なによりも幸福の「科学」という名前の付け方が、当時の方向性を物語っていると思う。
<「信者買い」が見込める本>
・以上の収益に加え、もちろん出版事業からの収入も大きい。こちらは課税されてしまうのけれど、収入面の柱の一つではある。
・2016年時点のデータで約300億円集まっているので、ピークのときは500億円くらいであろうと考えられる。
<惰性でやっている信者>
・今の信者さんたちは、大きく3つに分類できると思う。
まずは、惰性でなんとなく信者をやっている人たち。もしかしたら、数の上では一番多いかもしれない。「親が信者」という理由で信者になった人たちの大半はコレじゃないだろうか。
・「エル・カンターレ・ファイト!」は入信してすぐに教わるお祈り(?)で、憑依霊を撃退することができる、らしい。
憑依霊というのは死んだ人の霊だったり生霊だったり、まあ定義はテキトーなんだけれど、たとえば、「肩が凝るな」「ちょっと体調が悪いな。霊に憑かれているかな?」と感じたら憑依霊の仕業かもしれないので、寝る前などにこれをやると効果的だとされている。
話が逸れまくっているけれどせっかくなのでやり方を解説すると、「主よ悪霊を撃退させたまえ……」うんぬんと経文を読み上げたら、「ライト・クロス×2」と十字架を2回切り、指で宙に五芒星を描きながら「エル・カンターレ・ファイト!」と叫ぶ。これを2回繰り返すと、悪霊が退散されるというわけだ。
肩凝りや体調不良に悩まされている方、いかがですか?
<承認欲求を満たす主婦たち>
・対照的に、熱心な信者さんもいる。
僕の感覚では比較的富裕層の主婦が多かったと思う。
・幸福の科学は、そういう人たちにコミュニティを提供できる。
たとえば支部単位でのイベントがけっこうあって、信者さんが絵画教室を開いていたりするから、そこで生き甲斐を見出す人も多いようだ。
<ビジネスに利用する経営者たち>
・一番金遣いが派手なのは、今紹介した主婦層ではなく、その旦那さんたちかもしれない。
幸福の科学の信者さんたちには、中小企業のトップがけっこういた。
<隆法の教えの「面白さ」>
・マジメな信者さんなら必ず知っている「四正道」は、基本的な教えだけど、はっきりいって大したことはない。愛・知・反省・発展(プラス思考)を大切にしなさいというくらいの意味で、その辺の自己啓発書に書いてありそうな内容だ。
・信者さんに評判がよかったのはSF的な世界観だ。幸福の科学の信者になるということは、そのSFに参加できるということでもあるからだ。
<宇宙の次元構造>
・普通の人々が過ごしているこの世は、次元構造の中では、縦、横、高さで構成されている3次元界だ。
だけどその上には4次元界、5次元界……とどんどん上がり、上の次元にいる人ほどエライということになっている。
3次元世界には時間がないので過去の人と同じところにいることはできないけれど、4次元界は3次元界に時間が加わった世界なので、過去の人物と同じ空間にいられる。
5次元界は「善人界」といって、3次元界での行いが良かった人が行ける場所。6次元界は「光明界」といって、善人の中でも指導者的な人々が行ける場所、という具合に細かい設定がある。
7次元界は……なんだっけ、忘れた。歴史上の偉人がいるんだったかな?
8次元以上にいる人は、壮大な人類育成計画みたいなのに関われる幹部的な人ということになっている。僕は今もここにいいるので実はとてもエライのだが、あまり知られていないようで残念だ。
なお、20次元以上の設定はないようだ。隆法は設定を作りきれずに死んでしまったのかもしれない。
・これ以上は省略するけれど、この次元構造のトップに君臨しているのが、地球神にして宇宙神のエル・カンターレこと我らが隆法だ。もちろん、全知全能。隆法の下にいるイエス、ムハンマド、孔子、仏陀なんかはエル・カンターレの魂の一部でしかない。
・なお霊言というのは、天上界にいる人たちを隆法が自分の中に入れてしゃべらせる行為、ということになっている。エル・カンターレならそのくらいは朝飯前なので、霊言集もたくさん出せるというわけだ。
・隆法の偉大さを理解してもらったところで、次に過去世について解説しよう。前述のように過去世っていうのは前世のことで、誰にでもある。
たとえば僕の場合、本体である宏洋は3次元でこの本を書いたりYou Tubeに動画をアップしたりしているけれど、過去世は8次元界のカフカとかデカルトらしい。つまり、僕は8次元界と3次元界を行き来していることになる。
<設定マニアの宇宙神>
・こういう設定は、ぜんぶ隆法本人が作ったものだ。
隆法は設定を自分で作ることにこだわっていて、僕と映画を作ったときにも、「そのシナリオは設定と違うから変えなさい」みたいなことをずいぶん言われた。
<過去世は誰?>
・この過去世は、信者さんたちの間での定番ネタになっている。
・過去世と並んで信者さんたちの楽しみになっているのが、「宇宙人リーディング」だ。
・大昔、ビッグバンを起こしたエル・カンターレこと隆法は金星にいて、いろいろな実験をしていたらしい。それが一段落してから地球に来るときに、隆法は火星人とかプレアデス星人とかレプタリアンといった宇宙人をあちこちから集めてきて地球に入植させた。
今の地球人はその宇宙人たちの子孫なので、一見みんな同じ人間に見えるけれど、先祖の宇宙人たちの性質を受け継いでいるという。だから、隆法が見れば、その人が何星人の子孫なのかわかるということだ。
そこにも「レプタリアンの子孫は冷たいけれど仕事はできる」とか「プレアデス星人の子孫は美的センスが優れている」とかの細かい設定がある(地球に来た宇宙人は数百種類はいたことになっている)。
・隆法はとにかく発信する情報の量が多いから、入信すると毎日、長時間、こういう情報に触れることになる。すると、接触する時間が長いほど相手を好きになる「単純接触効果」みたいなものが作用して、だんだんと熱心な信者さんになっていったのかもしれない。
<地域拠点となる支部>
・教団全体の職員は2000人くらいいると言われているので、もしそれが事実なら幸福の科学は大企業といってもいい。彼ら全員を食わせているわけだから、でかいビジネスをやっていたといえる。
<幸福の科学はなぜ失敗したか>
<デジタル音痴の隆法>
・ここだけの話、隆法は今どき珍しいくらいのデジタル音痴だった。
<隆法=幸福の科学>
・隆法の失敗のひとつは、完全なワンマン体制を作ってしまったことだ。周囲にはイエスマンしかいないし、隆法への批判は許されない。
<夢追い人・隆法>
・一方で隆法は、夢を見がちな理想主義者でもあった。だから「国のトップになりたい」「映画を撮るぞ」みたいな大きな目標を持つと、そこに向かって突っ走ってしまう。
こういう隆法の性格がよく表れているのが東大時代の失恋のエピソードだと思う。
・もっとも、いきなりベストの方法を見つけられる人なんてまずいない。普通は自分のやり方を反省して、少しずつ方法を修正していくはずだ。
ところが隆法は反省ができないから、いつまで経ってもよい方法にありつけない。だから失恋を繰り返すしかない。
<マネジャーがいない幸福の科学>
・しかしそういうタイプの人間が成功するためには、彼の脇に控えて冷静に実務を行う、マネジャータイプの人間が欠かせないと思う。
実際、神がかった教祖と冷静なマネージャーという組み合わせは、新興宗教ではよくあった。
大本を立ち上げたシャーマンの出口なおと養子の出口王仁三郎のコンビは宗教に詳しい人には有名だし、企業でも、スティーブ・ジョブズみたいなカリスマ的なトップの裏には、そのトップをうまく「運転」する人がいるものじゃないだろうか。
幸福の科学でも、初期は隆法のとりまきにいろいろ有能な人がいたらしい。彼らは隆法のカリスマに惚れて教団に尽くしたけれど、やがてひとり、またひとりと離れていくことになる。
・1993年という早い時期に書かれた暴露本『虚業教団』の著者である関谷皓元も、そのひとりだった。自動車販売業をやっていた彼は隆法に心酔し、すべてをなげうって教団の基盤づくりに奔走したが、やがて隆法に疑問を抱くようになり、退会してこの本を書いた。
・この本の出版直後、幸福の科学は彼を訴えたが、一審でも高裁でも最高裁でも負けた。
<隆法は人を信じられない>
・隆法はこういう人たちをどんどん切り捨てていった。彼は、人間を信頼できないからだ。僕は隆法が口癖のように言っていたのを思い出す。「あいつにやらせると、裏切られるかもしれない」
隆法が人間関係でことごとく失敗してきたことは確かだ。
・それでも、「東大卒」「幸福の科学総裁」といった肩書と権力だけは彼を守ってくれた。だから彼はそれにすがるしかなかった。