(2024/2/17)

 

 

『諜無法地帯』

暗躍するスパイたち

勝丸円覚  山田敏弘  実業之日本社  2023/11/22

 

 

 

日本では数万人規模の中国スパイが活動している

 

はじめに

スパイは、あなたのすぐそばにいる

 

・私は警視庁公安部外事課(通称:外事警察)に2000年代から所属していた。外事警察ではスパイテロ対策に従事し、スパイを追跡する「スパイハンター」として、街の中に溶け込んで活動を続けてきた。日本でスパイ対策をしている公的機関はいくつかあるが、外事警察は、逮捕権・捜査権をもつ法執行機関として最前線でスパイと戦っている。

 

加えて、「スパイハンター」として活動している際に、それぞれの場面で共通して思うことがあった。それは、スパイハンターの人手があまりにも不足していることだ

 

・もう、スパイがやりたい放題に動いている現実から、日本人は目をそらしてはいけないのである。

 

実録!私の外事警察物語

大手ショッピングモールにスパイあり

・大きなショッピングモ-ルはスパイに好まれる場所であり、首都圏にある米大手倉庫型店でスパイが協力者に接触を行っていたこともあった。郊外の店舗ゆえ、スパイや協力者が密会する穴場だと見られている。

 

犯罪だらけのアフリカ某国で大使館の警備

・もともとその国の日本大使館では、アフリカ某国の国家警察に所属していた元警察官が警備担当のローカルスタッフとして雇われていた。そして、その元警察官に、現地の治安状況や情勢について簡単な英語で報告書を作成させていた。

 

麻薬カルテル情報でネタを吸い上げる

日本には対外情報機関は存在しない。CIAやMI6のような国外でスパイ活動をする組織がない。

 それでも私は、大使館のみならず日本の安全のために、アフリカ某国で独自に情報活動をして、日本に報告を行うようになった。

 

事前にイスラム過激派のテロを把握

・警備対策官は、日本や日本人に対するこうした脅威情報を得るために情報取集をしているのだ。ただ日本には対外情報機関がないために、いち警察官である私は、それを個人の裁量で行わざるを得なかった。

 

命を懸けた海外での接触

・私が管轄していたいくつかのアフリカ諸国でも、お土産やプレゼントによるお礼の文化が普通にあった。

 情報のレベルにもよるが、謝礼は、高級な万年筆が買えるくらいのレベルから、高くても良質なスーツを買えるくらいが最高額だった。

 

世界から遅れている日本の情報機関

お互いに情報を隠し合う日本の情報機関

・こうした私の対外情報活動は、あくまでも個人として動いていたものである。再三述べたように、日本には対外諜報機関が存在しないからだ。

 

・内閣情報官は常に警察出身ということになっている。そこに警察庁と公安調査庁からの職員と、国際情報統括官組織ならびに防衛省の情報本部からも職員が出向している。問題は、それぞれの組織から来ている職員が、お互いに情報を共有することはなく、隠し合っていることである。

 

自衛隊の秘密組織「別班」は実在する

・防衛省は情報本部以外に非公然組織を抱えているといわれている。その名も「別班」。私が公安監修をしていたTBS系日曜劇場「VIVANT」に登場し、話題になっていた。

 防衛省では、軍事活動をする上で海外の裏情報を知ることが重要だとされているため、陸軍の軍人だった藤原岩市が、普通の情報機関員では手に入れることができない危険度の高い情報を集めることを期待して創設したのが始まりである。

 別班のメンバーは主に防衛省から外務省に出向して、外交官として在外公館に勤務しながら情報収集をしている。

 

・ちなみに政府は別班の存在を否定しているが、別班が集めた情報は内閣官房長官と内閣情報官に上がるので、把握しているはずだ。

 別班の創設にあたり、旧日本軍の陸軍中野学校というスパイ養成機関に所属していた人々が関与していたといわれる。彼らは日本を守るという任務のためには、時に邪魔者を排除することも辞さなかったといわれている。

 

金正男の来日情報を一番掴めなかった公安

・国際的に見れば、CIAやMI6といった対外情報機関の日本側のカウンターパート、つまり、日本側の同等の組織は、公安警察、内調、公安調査庁のどれなのかがはっきりとしない。そんなことから、海外の情報機関から日本に絡んだ重大な情報がもたらされても、それをうまく活かしきれずに失態がおきることもある。

 その象徴的な例が、2001年5月の金正男の来日事件だ。

 

・私はこのケースについて、いまだに惜しいことをしたと考えている。もし最初に情報が公安警察にもたらされていたとしたら、おそらく金正男を泳がせて、どこに立ち寄るのかなど行動を調べて、日本側の関係者を特定しようとしたはずだ。さらには、毛髪からDNA情報も確保できたかもしれない。金正男からいろいろな情報が収集できたはずだったが、結果的に、そのまま帰国させてしまうというあり得ない失態をさらした。

 この金正男のケースに限らず、海外で私が属していた外事警察はあくまで「法執行機関」であるために、アフリカ某国に赴任中に各国の情報機関関係者があつまるブリーフィング(説明会)にも呼ばれないこともあった。

 

・つまり、普段から日本の情報機関として接触をしていないと、相手にしてもらえないのである。これもまた、日本にきちんとした情報機関を作るべきだと考える所以である

 

・情報機関全般にいえることだが、基本的には自国の国益あるいは自分の国に対する脅威についての情報を求めている。それこそが帰結するところである。よって、自国について悪く言っている団体や評論家、政治家などがいれば、その団体や人物の背後関係を調べるのは当然のことだ。

 

・彼らも人に会う際には、プレゼントを渡したり、少額の現金を渡しているが、それらは外交機密費から出ている。警察庁出身だろうが、公安調査庁だろうが、外務省に身分を置き換えてから外国に赴任するので、活動の費用は外国機密費から出ることになる。どれだけの金銭を使えるかについては、その在外公館の大使が決済する。

 

日本を食い荒らすスパイたち

スパイが入国する際は申告制

・スパイは本当に日本各地で活動している。スパイは基本的に、人目につかないように動き、隠密に仕事をする。これはあまり知られていないことだが、日本政府は、日本に暮らす外国人スパイの存在をある程度、把握している。その理由は、国際的なインテリジェンスコミュニティ(諜報分野)には、通告のルール(外交儀礼)というものが存在するからだ。そのルールでは、日本に大使館などを置いて情報機関員を派遣している国々が余計なトラブルに巻き込まれないよう、日本に赴任している情報機関職員を外務省に伝えることになっている。外国人の情報機関員は、外交官の肩書で大使館に属しながらスパイ活動をすることが多い。

 外務省の中でも、この情報の管理を担当しているのは「儀典官室」(プロトコール・オフィス)だけである。

 

・外務省以外でこの情報を知ることができるのは、警察庁と、日本にある150カ国以上の大使館の連絡を担当する警視庁の担当部署だけだ。私はそこの班長だったので、それを知る立場にあった。

 

・意外に思うかもしれないが、実はロシアですら、この通告を行っている。もちろん、逆に日本もロシア政府にロシア大使館や領事館にいる警察庁や公安調査庁の職員の名前や所属などを通告している。

 

外務省が把握できないスパイは大量にいる

・国外の担当者は、国外でさまざまな情報収集を行い、自分の国にとって有害な活動をする組織や個人を調査する。さらには、自国が有利になるような影響工作や世論操作、国によっては破壊・暗殺工作も行う。彼らは対外情報機関と呼ばれる。

 一方で、国内の担当者は、国内に入ってくるスパイの情報を収集し、取り締まりをする「防諜」活動を行う。日本では公安関係の組織が担うが、多くの国でも捜査権や逮捕権を持つ法執行機関である警察やその他の機関が主導的に行っている。

 

・情報機関員たちは、さらに日本国内でスパイ活動を行うための協力者をリクルートする。そうした協力者も、いわゆるスパイということになる。

 

・ところがある日、このS国人はいつもと違う動きを見せた。「点検」である。点検とは、スパイや防諜担当者から尾行されていないかを確認する作業のことを指す。点検によって尾行されているかもしれないと察した場合は「消毒」をするのである。消毒とは、尾行を撒くことだ。

 

CIA支部長が断言「日本はスパイが活動しやすい国」

外事警察だった私としてはあまり認めたくはないが、やはり日本はスパイ天国だと言わざるを得ない

 

・中国の北京や上海では、スパイは自由に動きにくい。なぜなら、中国で監視対象になってしまえば、公安機関を動員して、入国情報から宿泊先、予約したレストランなどすべての情報がチェックされ、丸裸になってしまう。

 

繰り返し述べてきたことだが、日本には国内でのスパイ活動を防止する法律がない

 

・カナダもスパイに対して緩い国だ。カナダは、アメリカやイギリス、オーストラリア、ニュージーランドと情報共有のためのスパイ同盟「ファイブ・アイズ(UKUSA協定)」のメンバーである。しかしながら、その5カ国の中でも最もスパイに対して甘い。

 

尾行・盗聴・ハッキング………スパイ活動の実態

・では、どんな情報を集めているのか。世界第3位の経済大国である日本を例にとると、日本の半導体や通信などの最先端のハイテク技術や、それ以外で日本が他国よりも先を行く分野の技術だったりする。

 

・アジア諸国でも、在日大使館に情報機関員を置いている国はある。彼らは日本を敵対的には見ていないが、彼らが注視しているのは、日本に暮らす自国民の動向や自国民が集まるコミュニティの情報だ。自国で反政府活動をしているグループや人が、日本にいる仲間に日本からもSNSを使ってメッセージを投稿させたりしていれば、その在日の同国人を監視する。

 

・中国や韓国といった国々は、北朝鮮とは違って、外交に影響が大きい日本の政治情報をターゲットにして、情報収集や影響工作をしている。

 

・国によっては、情報収集以上の工作に力を入れている場合もある。その典型的な例は、北朝鮮だ。北朝鮮は1970年代から80年代には、最高指導者だった金日成がいざ革命の指令を出した時に、日本で一気に蜂起するような体制を作っておくという目的があった。現在では、日本の技術を盗んだり、お金を稼ぐことにかなり力を入れている。日本を通して外貨を稼ごうと目論んで活動している。

 

集めた情報は秘密の通信手段で自国に送る

・さまざまに集められた情報は、自国に伝えるためにまとめられる。情報収集や工作を行うだけがスパイの仕事ではない。集まった情報をリポートとしてまとめていくデスクワークもスパイの重要な仕事のひとつなのである。まとめられた情報は、自国の安全保障対策や政治決定の材料として活かされることとなる。

 各国の情報機関は、独自の通信手段を持っている。

 

中華料理屋の店主・クリーニング屋…スパイの協力者たち

・日本におけるスパイたちの活動は情報収集や工作活動など多岐にわたるが、その中でもスパイたちがまずする大事な仕事は協力者の獲得と維持だ。

 例えば中国なら、情報機関から派遣されているスパイは、メッセンジャー(伝達相当)やリエゾン(連絡担当)のような役割の人を抱えており、そうした人たちを動かしながら活動している。

 

・中国は、江東区にある教育処と呼ばれる大使館の関連施設で、莫大なデータベースを作っているとされる。そこには、現役の留学生だけでなく、これまで日本に留学した人たちの個人データが記録されている。

 

・中国スパイなら、ある大手電子機器会社の技術が欲しいとなれば、ターゲットの企業に中国人がいないかを調べる。

 

日本でも起きる暗殺事件

・いうまでもないが、日本の情報機関が殺しをすることは絶対にない。警察ではそもそも違法はしないことを前提に捜査活動をしている。

 

・2006年、ロシア人のアレクサンドル・リトビネンコが、イギリスで放射性物質のポロニウム210で暗殺された。

 

ロシアは、ウクライナ侵攻後も、現在進行形で暗殺工作を行っているといわれている。では世界で最も有名な情報機関のCIAも、暗殺は行うのか。私の見方では地域や、時と場合によっては実行する可能性もあるだろう。

 

恵比寿駅と大塚駅で尾行を撒くロシアスパイ

・日本に情報機関員を送り込んでいる国で、在日スパイ数が多い国といえばロシアが挙げられる。ロシアは3つの情報機関からスパイを送り込んでいる。大使館のみならず、総領事館にもいる。さらに民間に紛れているスパイを入れれば、総勢は120人ほどと分析されている。

 

・逆を言うと、ロシアの場合はきちんと訓練を受けたスパイが、自らスパイ活動をしていることがわかる。他の国ならば、自ら動くことはなく、協力者を使って隠密に動くので、消毒をする必要もない。

 

G7広島サミット開催前はスパイが激増

・もちろん、日本のイスラム国家の大使たちとも普段から接触していたので、テロリストやテロに関する不審情報がその時点ではないことは確信していた。

 そうして恩を売ることで、私はシークレット・サービスに貸しを作ることができたわけだ。シークレット・サービスは面白い組織で、そもそも米財務省内の組織であり、歴史的に偽札の情報を収集している。日本では偽札を扱うのは警察庁刑事局だが、偽札造りで知られている北朝鮮も絡んでくるので、外事警察も情報収集活動を行う。

 

CIA/MI6の日本活動

【アメリカ】

<住宅ローンのため手当ほしさに危険国に赴任する情報機関員

・世界で最も有名な情報組織といえば、アメリカのCIA(中央情報局)で間違いないだろう。

 

・CIAは、予算の額も職員の数も機密事項であり、公開はされていない。ところが、元CIA職員で内部文書を暴露したスノーデンが明らかにした書類によれば、CIAの予算は約150億ドル(約2兆円)だ。職員の数も2万人を超える大所帯である。

 

・そういう活動は普段から幅広くやっておく必要がある。それが後々、自国の利益となるものだ。例えば、2013年にアルジェリアでイスラム系過激派組織が天然ガス精製プラントを占拠して日本人を含む37人が殺害された事件を記憶している人も多いだろう。

 

・この事件では、現地の日本の在外公館がテロ情勢の情報を把握できていなかったと批判された。

 

CIAに協力している日本人は多くいる ⁉

・実際に現場で感じていたCIAのイメージは、とにかくいろいろな情報を大量に持っていることだった。

 

・CIAが求めている情報は、「アメリカに関することならなんでも」である。

 

・日本では、CIAとのやりとりは公式に警察庁が取り仕切っている。

 

CIA幹部は日本政府中枢の人間と会っている

・CIAは日本で、情報収集以外の工作活動もひっそりと行っている。

 

持ち出し不可、目で覚えることしか許されないテロ情報

・米情報機関の機密情報には、トップシークレット(機密)、シークレット(極秘)、コンフィデンシャル(秘)と3段階に分かれている。そうした機密文書のなかには、コピーやメモ、持ち出しができず、見ることしかできない「EyesOnly(アイズ・オンリー)」と指定された書類がある。

 

CIA vs. 北朝鮮サイバー攻撃部隊

・聞くと、ステガノグラフィは北朝鮮スパイが使う通信手口で、パソコン上の画像のなかに情報を埋め込む技術だという。

 

・恐ろしいのは、最初の段階で、CIAは北朝鮮スパイのそんな通信手口も把握しており、それを使って通信していた人物も、日本である程度絞り込んでいたことだ。

 

【イギリス】

リアル007「MI6」

・イギリスの対外情報機関といえば、MI6(SIS=秘密情報部)である。

 

・実は、イギリス政府は1993年まで、MI6の存在そのものを公に認めてこなかった。

 

・MI6の職員数はそう多くない。イギリス政府の発表では、その数は約3600人。

 

・私がアフリカ某国に赴任していた時に見たMI6は活発に活動しているという印象だった。

 

・MI6の日本側の窓口になっているのは、内調と公安調査庁、そして警察庁警備局外事情報部の3つだ。

 

北朝鮮が絡んでいるかもしれない核情報

・アフリカ某国で勤務している際に、MI6やCIAの「情報収集合戦」を垣間見たことがある。十数年前のことだが、アフリカ某国で、原子力施設に絡んだ問題が発生したことがあった。

かつてその国では核開発が行われていた。

 

・日本人としては、何が盗まれたのかということと、日本の懸念国で核開発を行っている北朝鮮がその事件に絡んでいないかどうかを知る必要があった。

 

MI6が一番日本に協力者を忍ばせている ⁉

・私の印象では、MI6は、日本で古い歴史のあるイギリス大使館で、長い時間をかけて培ってきた基盤があるように思えた。日本には戦前から、イギリス関係の企業やイギリス人大学教授がいたので、そこから人脈を広げて協力者との関係も築いている印象だった。日本に長く住んでいる学者や研究者など日本語が堪能なイギリス人を使って情報収集をしていると見ている

 

・イギリスは、昔から世界各地で植民地をたくさん持っていた強みもある。アメリカのように金と人に物を言わせて情報収集活動するのとは違い、歴史的に構築してきた人脈で根づいているという印象を持っている。

 

日本にとって最大の脅威国家 中国・ロシア・北朝鮮

【中国】

日本では数万人規模の中国スパイが活動している

・「スパイ」の数を正確にはじき出すのは無理だ。

 なぜなら、スパイというのは、スパイ行為をしている人のことを指すのか、あるいは、知らず知らず協力している人を指すのか、またそのすべてのことをいうのかによって定義が変わってくるからだ。

 中国スパイは人海戦術を使っていると各国の情報機関から分析されている。つまり、スパイ行為に関わっている人がかなり幅広くいて、その境界も曖昧である。

 

・オーストラリアには2500万人の人口がいて、そこに数千人の中国系スパイがいるという。一方で、日本の人口はオーストラリアの5倍以上になるので、単純計算すると、数万人規模で日本に中国スパイがいることになる。

 中国には、情報機関である国家安全部(MSS)と、国内の公安組織である公安部がある。人民解放軍にも、ヒューミントやシギントを担当する部隊がいくつも存在している。

 

在日ウイグル人を密かに弾圧しようとしている

・数年前、私は、日本ウイグル協会の幹部から相談を受けた。新疆ウイグル自治区から逃れてきた協会の会員の親族が、中国に帰国した際に中国当局に身柄を拘束されてしまったという。

 

・中国政府は、ウイグル人の反共的な立場やイスラム教の信仰を理由に、彼らを弾圧してきた。

 

・この事件では、中国政府がウイグル人コミュニティに対する圧力を一層強化していることが浮き彫りになった。そして中国当局は、日本ウイグル協会の会員に接触し、協力を持ちかけた。会員に対して「友達になって協力してくれないか」と提案。

 

中国人留学生にスパイ行為をさせることがある

・中国の情報機関の大きな特徴として、留学生を活用する手法が挙げられる。

 

中国がスパイを潜入させている日本企業は多数ある

・中国がいま、日本で最も欲しい情報は、日本が持つ最先端技術だ。

 

日本の有名女優似の留学生がハニートラップを仕掛ける

・中国は、世論工作を行っている。その最たる例は、政界への工作だ。日本ではかつて、橋本龍太郎元首相が中国人女性のハニートラップに見事に掛かってしまったことがよく知られている。ハニートラップとは、色仕掛けで行う情報活動のことだ。橋本元総理のケースでは、中華人民共和国衛生部の通訳を名乗った女性に橋本氏は篭絡された。それ以外でも、最近になって中国人女性との関係を週刊誌に書かれている自民党の参議院議員もいるので、ハニートラップは今も行われていると考えられる

 

・こんな例もある。2007年から営業していた京都の祇園にあった中国人クラブは、中国スパイ活動の拠点となっていた。

 

・日本には、全国各地に、中国人女性によるハニートラップの拠点になっているところがある。

 

秋葉原にある在日中国人を違法に取り締まる「海外警察」

・こうしたスパイ行為に加えて、中国は世界中に「海外警察」を設置して、国外に暮らす中国人に、中国共産党のルールを当てはめ、監視や「摘発行為」を行っている。

 

・中国政府は少なくとも世界30カ国の54カ所に海外警察を作っていると告発されている。日本国内では、秋葉原にあることが確認されている。他に可能性があるのは、福岡、名古屋、神戸、大阪、銀座だといわれている。

 彼らが監視対象にしていたのは、海外で中国人相手に商売をするなどして中国国内の法律を破っているような人たちだ。「自主的に」と言いながら半ば強制的に中国に連れ戻して、罪を償わせるのである。全世界的に直近3年間で数十万人ほどの中国人が帰国させられていることが判明している

 

通信傍受するスパイ拠点が恵比寿にある

・そもそも恵比寿別館は、外交施設として登録されていないため、別館という看板を掲げることは許されていない。

 

・実はこれまでも建物の存在は確認されていたが、管轄警察署である渋谷警察署の外事担当がその施設の関係者にアポを取ろうとしても、いつも担当者が不在で、接触はすべて拒否されてきた。

 

・2012年5月に発覚した「李春光(りしゅんこう)事件」では、在日中国大使館の一等書記官・李春光氏が日本でスパイ活動を行っていたことが明らかになった。

 

中国企業には情報を抜かれている ⁉

・アメリカ政府は、2019年に中国のハイテク機器メーカー数社をエンティティリスト(米国商務省が指定した取引制限リスト)に入れ、その後も米政府や企業とビジネスができないように規制強化をしてきた。その理由は、中国製品が個人情報をスパイ行為で吸い上げる恐れがあるからだ。

 

【ロシア】

日本人と見分けがつかないロシアスパイがいる

・現在、ロシアには、KGBの後継組織として3つの情報機関がある。まずはFSB(連邦保安庁)、FSBはKGBの国内情報活動を引き継いだ組織だが、現在ロシアが侵攻しているウクライナなど旧ソ連の独立国家共同体(CIS)の監視も引き続き担当している。

 

・ロシアで、アメリカCIAのカウンターパートとなる対外情報機関は、KGBの国外担当部門から引き継いだSVR(対外情報庁)だ。そして軍のスパイ組織として情報活動を担当しているのは、GRU(軍参謀本部情報総局)である。

これらFSB、SVR、GRUは、いずれも日本総局を持っている。

 

・ロシアスパイを把握する際に難しいのは、外交官の身分を持たない事務技術職員がそれぞれの組織に混じっていることだ。

 

・ロシアのスパイというと、東アジア系とは見た目が違うのですぐに外国人であると見分けがつくと思いがちだ。しかし、実は白人系だけではなく、朝鮮系やグルジア系、カザフスタンなどの中央アジア系の血が入ったロシア人もいる。そうなると、見た目では日本人と大差がない人もいるため、一見してロシア人とはわからない。

 

金品を渡して協力者を作っていく

・日本人は、日本国内で暗躍するロシアスパイの実態をほとんど知らない。

 

・そして公安側でも、企業に対するスパイ活動を把握できれば、早い段階で企業に伝えるようになってきている。私の知る限りでも、ロシアのオペレーションは、年間で2つ3つは潰してきた。

 

・2021年、神奈川県警は座間市の元会社社長を逮捕した。過去30年ほど、ロシアスパイに軍事や科学技術関係の資料を渡していた。その対価として受け取った総額は、1000万円以上。

 

・2020年には、40歳代のソフトバンクの元社員がロシア人に営業秘密を渡して報酬を受け取っていた事件が発覚している。

 

狙われた東芝の子会社社員

・さらにこんな話もある。現在、ロシアがウクライナで使用しているミサイル誘導システムには、元をたどれば2005年に日本で発覚したスパイ事件で盗まれた技術が使われている可能性がある。

 

もうひとつ、ロシアスパイの手口として忘れてはいけないのが、人の身分を奪う「背乗(はいの)り」だ。

 

・1995年に発覚した黒羽・ウドヴィン事件だ。1965年頃に福島県で歯科技工士だった黒羽一郎という日本人が失踪した。しかしその後、ロシアスパイが黒羽になりすまして、30年以上にわたって情報収集活動を行っていたことが判明した。

 

・このロシアスパイは、在日米軍の情報をはじめ、日本の半導体技術やカメラのレンズ技術などハイテク知的財産の情報を盗み、手に入れた情報をマイクロフィルム化して空き缶のなかに入れ、人の目につきにくい神社や公園に置いていた。それをウドヴィンが回収していたとされる。スパイが使うこの手法は「デッド・ドロップ・コンタクト」と呼ばれている。

 

・また世間を賑わしたケースでは、2000年に、ロシア大使館のボガチョンコ海軍大佐に内部資料を渡していた海上自衛隊の三佐が自衛隊法違反で逮捕された事件がある。