(2024/2/12)

 

 

 

『日本怪異妖怪事典 九州・沖縄』

朝里樹  闇の中のジェイ 笠間書院  2023/9/30

 

 

 

牛鬼(うしおに)

・福岡県浮羽(うきは)郡田主丸町(現・久留米市田主丸町)の辺りに出たという怪物。

 頭や手足は牛、体は鬼の姿をしており、夜な夜な牛馬を盗み、女子どもを攫(さら)った。

 

大狒狒(おおひひ)

・福岡県北九州市伊川村(現・北九州市門司区)の異類婚姻譚。平山釈迦堂の由来譚。

 忠兵衛という者が大狒狒退治に行ったが、逆に大狒狒に襲われてしまう。命乞いに娘を嫁にやると忠兵衛は言ってしまう。一人娘は嫁入りを承知し、重い品物を入れた焼き物の壺を狒狒に背負わせて池の側の道を通った。娘はわざと簪(かんざし)を池に落とし、狒狒に簪を取りに行かせた。狒狒が背負っている壺に水が入って重くなり、とうとう力尽きて狒狒は沈んでしまった。狒狒の冥福を祈るために建てられたのが、平山釈迦堂だという。

 

おさん狐

・福岡県北九州市十三塚に出る狐。

 たびたび里人や山越えの人たちをたぶらかす。旅人が十三塚を超えていると、おさんと名乗る美しい娘が出てきて、道案内をしようと言う。話し相手に良いと連れだって歩いているといつの間にか雑木林の中に迷い込んでしまっているという。

 

一ツ目小僧

福岡県早良(さわら)郡早良町は原田の昔話に登場する山の神の使い

 猟師の目の前で、一匹のミミズが蛙に食べられ、その蛙は蛇に呑まれ、そこへ狸が出てきた。猟師はその狸を撃とうとしたが腕が萎えて引き金が引けなかった。不思議に思い、出てきた狸をよくよく見るとまな板を担いでいた。不吉な予感がし、「この狸を撃てば私は何者かに命を取られるだろう」と観念して帰ろうとした。すると一ツ目小僧が現れて猟師をニッと睨み、「良い了見が付いたぞ。お前がわしを撃てば、このまな板の上でお前を料理するところだった」と言って消え去ったという。

 

カワソウ

・佐賀県小城市、佐賀市でいう水怪。

 堀に入るとカワソウから足を引かれる、尻穴から手を入れられてジゴ(内臓)を抜き取られるという。

 

ガワタロー

・佐賀県伊万里市南波多の谷口、古里、重橋、水留、古川でいう水怪。

 谷口ではガワタローは人を引き込むとされるが、ガワタローを見た者はいない。

 重橋では、体が焼けるように暑い夏の日に、ある人が水を被るために川へ行ったが、死んでしまった。尻の穴が抜けていたため、ガワタローのせいだろうとされている。

 

カワッソ

・佐賀県武雄市橘町瀬見側一帯に棲んでいたという水怪。

 嘉禎三年(1237)に橘公幸が伊予国(愛媛県)から当地に移り、潮見神社の背後の山頂に潮見城を築いた。橘氏の眷属のカワッソたちも潮見川に移り住み、この川の流域で人畜に害をなすようになった。そこで橘氏の後裔の渋江氏がカワッソを戒め、川の上流にある浮橋から下流の潮見神社一の鳥居東側の茶畑の中にある平石の辺りまでいっさい害を与えないようにとカワッソに約束させた。この茶畑の中にある長さ2メートル余りの平石はカワッソの誓文石と呼ばれており、この石に花が咲くまでは人に害を与えないと約束したという

 

かわっそう

・佐賀県西松浦郡有田町でいう水怪。河童の意

 水死した人の肛門が開いているのは、かわっそうに尻子(尻子玉。尻付近の内臓)を抜かれたからだと解釈し、「かわっそうのしっご(尻子のことか)とる」という言葉がある。

 

狐の嫁入り

・佐賀県伊万里市大川内町、鳥栖市立石町・本町・養父町・河内町でいう光物、怪火の類。鳥栖市山浦町では狐のご膳迎えと呼ぶ。

 大川内町では夜中に通る提灯の行列を狐の嫁入りと呼んでいる。

 鳥栖市では有明海の不知火のような光の行列を狐の嫁入りと呼んでいる。狐の涎(よだれ)がそういう火に見えるとされている。

 

蜘蛛の精

・佐賀県伊万里市でいう異類婚姻譚。食わず女房の類。

 蜘蛛が飯を食わない嫁として女房になるが、正体がバレて竹の籠に男を入れて家に持って帰ろうとする。男は逃げるが、蜘蛛は捕まえるために再び男の家を訪れる。そして囲炉裏の鉤(かぎ)を伝って降りてくるが、火箸で焼き殺されてしまう。

 

食わず女房

・佐賀県でいう異類婚姻譚。飯食わず女房の類。

 伊万里市南波田町では、女に化けた蜘蛛が嫁になり、握り飯を自分の背中に放り込んでいた。正体がバレたことに気が付いた嫁はすんなり男と別れた。満腹になるまで握り飯を食べたから蜘蛛の腹は大きいという。

 杵島(きしま)郡白石町福田秀津(ひでつ)では山伏に見破られた化け物が家族を食おうとしたが、山伏が持っていた菖蒲を恐れて逃げ去っている。

 

一つ目の大男

・佐賀県東松浦郡玄海町平尾地区の小山ン坂にある馬乗り石坂という所に出た化け物。

 昭和の初め頃、夜中に一人の若者が若者宿(若者が集まる集会所兼宿)へと向かっていたところ、この坂で一つ目玉の大男と遭遇し、金縛りにあった。その大男は4本足で、背丈が7、8尺(約2.1~2.4メートル)もあった。どちらも前に進むことができずにいたが、いつの間にか大男は消えていた。その後もこの大男と遭遇した人は何人かいたという。

 

兵主部(ひょうすべ)

・佐賀県でいう水怪。杵島(きしま)郡橘村(現・武雄市)の潮見神社は河童の主である渋江氏を祀っている。その祖先に兵部大輔島田丸という人がおり、工匠の奉行を務めていた。春日社の大工事の際に使った人形を川に捨てたところ、人形は河童となって害をなした。これを島田丸が鎮めたため、以後、河童を兵主部と呼ぶようになったという。

 

貧乏神

・佐賀県でいう俗言。三養基(みやき)郡北茂安町(現・みやき町)では茶碗を叩くと、貧乏神が寄ってくる。箸がなくなるのは、貧乏神が杖にして屋外に出るためであるという。

 佐賀市川副町大詫間(かわぞえまちおおたくま)では晩に口笛を吹くと貧乏神が寄ってくるという。

 

船幽霊(ふなゆうれい)

・佐賀県東松浦郡玄海町仮屋でいうあやかしの類。

 風もないのにスッスッと近づいてくる船は船幽霊だという。この船をよく見ると、帆を巻く車が帆柱に付いていないことがわかる。船幽霊は魚を焼く臭いを嫌がるとされ、松明(たいまつ)に魚をくべると、船幽霊はすぐ消えてしまうという。

 

みそ五郎

・佐賀県でいう巨人。伊万里市を中心にした自然伝説、地名由来譚。

 雲仙岳(長崎県)や背振山(せぶりさん)(福岡県・佐賀県)に腰を掛けて、有明海で顔を洗うほどの大男だとされる。

 

磯女(いそおんな)>

・長崎県でいう海に現れる女性姿の妖怪。五島宇久島沖の湊では磯女は乳から上が人の形で、下は幽霊のように流れている(ぼやけている)とされる。いつも磯におり、船を襲うという。また、前から見れば別嬪(べっぴん)だが、後ろ姿を見た人はいないともいう。

 

・五島列島では磯女は磯幽霊の一種だとされる。美女の姿で海中から現れ、漁夫や釣りに出ている人を海中に誘い込んで溺死させる。

 

件(くだん)

・長崎県に出現した怪物。

 鷹島中通ではどこかで件が予言するとされる。牛が人間のように口をきき、流行病(はやりやまい)の襲来や戦などの不幸を予言する。来るべき不幸に備える方法を伝授した件は4~7日くらいで死んでしまうという。

 

獣人

・熊本県天草郡天草町(現・天草市)でいう足跡の怪。

 日本の野鳥を研究するために来日していたカナダ人男性が天草町お万が池の近くで長さ40センチ、幅20センチの足跡を発見した。地元では獣人がいるのではないかと噂になり、地元の新聞には記事と足跡の写真が掲載されたという

 

山女(やまおんな)

・熊本県。山にいる女性姿の妖怪。

 

・菊池郡虎口村(現・菊池市龍門虎口)に嫁ぎに来た女が三年を経って急に行方不明になった。消えた日を命日とし、三年忌をしていたところへ急に例の女が現れた。「今までどうしていたのか」と問うと、「深葉山から矢筈嶽(やはずだけ)の辺りに棲み、人を食って生きている。山にいるときはこういう姿をしている」と女は言い、身の丈一丈(約3メートル)ばかり、頭に角がある山女の本性を見せたという

 

ヤマワロ

・熊本県。赤ん坊、もしくは子どもくらいの大きさで、全身に毛が生えている。頭は扁平で、口には蝮(まむし)のような歯がある。指は五本で一本爪、足も長いが、手も非常に長い上、魚や山桃をとる時にはゴムのように伸びる、二倍に伸びるともいう。

 

犬神

・大分県でいう憑き物。インガミ、インガメとも呼ぶ。犬神が憑いているとされる家は犬神持ち、犬神使い、インガミ使い等と呼ばれる。中国、四国、九州に犬神についての俗信は分布しているが、九州では特に大分県が甚だしく多いという

 犬神は一般の人には見えず、犬神使いにしか見えないとされる。そのためか、容姿についてさまざまに語られている。

 

子取り

・大分県宇佐郡(現・宇佐市)でいう子攫いの怪。

 

大きな袋を背中に担いだ大男であるという。子どもの泣き声を聞きつけるとどこからともなくやって来ては、泣く子どもを背中の袋に放り込み、どこかへ連れて行ってしまうとされる。

 

座敷童(ざしきわらし)

・大分県玖珠(くす)郡九重町、別府市でいう屋内に現れる子ども姿の妖怪。

 九重町では2、3歳くらいから5、6歳くらいの子どもの姿をしているという。座敷に現れる子どもの魂とされ、座敷童が一人で来て、スーッと出ていくと不幸になるといわれている。

 

魅鬼(さっき)

・大分県臼杵市(うすきし)野津でいう覚り(さとり)、おもいの類

 魅鬼は鬼の一種で、人間が思っていることは何でもすぐにわかるとされる。高さは2メートルほどで、全身に灰色の毛を生やした痩せた体をしており、口は耳まで裂けて、眼は大きくランランと光っており、頭には一本の太い角が生えた大男だという。

 西神野地区の山奥に竹山があり、そこである男が手箕(てみ)を作るために太い竹を火に炙りながら曲げていた。そこへ魅鬼が現れ、男が思っていることを次々と大声で言った。驚いた男は思わず曲げていた竹の片方を放してしまい、竹は魅鬼の体を強くはじいた。驚いた魅鬼は「お前は思わんことをする。大抵の人間は考えながら仕事をするが、お前は変わった人間じゃ。お前のようなわからん奴は食っても美味くなかろう」と言って、逃げて行ったという。

 

サルガミ

・大分県大分市でいう憑き物。

 サルガミに憑かれると、猩々のように踊り舞い、巫女に祈禱してもらうと素直に落ちる。サルガミは家を守る神で金持ちになるというが、犬神のように他家の長持ちに隠れているというようなことはなかったとされる。坂ノ市にサルガミを祀っていた家があり、この家でサルという言葉を忌んでエンコウと言った。エンコウサマはときどき水中に入っては何日も帰ってこないことがあるという。

 

白殿(しろどの)

・大分県臼杵市(うすきし)でいう化け狐。

 昔、臼杵城に稲荷が祀ってあり、その眷属として数千の一族を持つ白狐がいたとも、臼杵坂に三匹の白狐が飼われていたとも伝わる。白狐は殿様にたいそう馴れついており、参観の際には船にもついてきた。護衛も務め、参勤交代の際は必ず五匹の狐が武士に化けて行列に加わり、他の狐たちは行商人や旅人に化けて物見の役を務めたとされる。

 

城守狐(しろもりきつね)

・大分県速見郡日出町(ひじまち)暘谷(ようこく)城の守り神。

 慶安年間(1648~52)、木下俊治は由比正雪に口説かれ、謀反陰謀加担の血判を押すが、計画が露見してしまう。この時、暘谷城の抜け穴に棲んでいた狐が謀反発覚について通報したため、城ではこれに応じて対策を練った。藩安泰の祈禱を城下の蓮華寺で七日間修したところ、血判状から木下俊治の名前が消えた。その事件から後、狐は城の守り神として祀られ、今の本丸跡の西側、石垣の下にある赤い鳥居の稲荷神社に祀られているのがその狐であるという。

 

棟椿木(とうしゅんぼく)

・大分県豊後高田市でいう古寺の化け物。椿の怪。

 とある秋の晩、山の中の集落を一人の旅僧が訪れた。廃寺に泊まると、夜中に「ドーン、ガラガラ。ドーン、ガラガラ」と大きな家鳴りがし、生臭い風が吹き込んできたため、旅僧は仏間へ行き念仏を唱え震えていた。すると外から戸を叩く音がして「トウシュンボクはお宿でござるか」という声がする。「そうおっしゃるはどなたでござるか」という声が囲炉裏の辺りからしたかと思うと「ホクガンのロウエン」「まぁ、おより」と会話し、頭から足先まで毛が生え、眼は鏡のように光っている猩々(しょうじょう)が寺の中へと上がってきた。その後も頭の毛をうち被り、鼻が高く、口は大きく尖り、舌をベラベラさせた「サンチのリョウ」や「サイチクリンのケイ」と名乗る化け物が囲炉裏の側へと上がってきた。しばらく四方山話をしていると、トウシュンボクが仏壇の下に六部(巡礼の僧)がいるから取って食おうと言いだす。それを聞いた旅僧が震えながら一生懸命念仏を唱えていると、一番鶏が鳴いたため、化け物たちは「祭りは明晩にしよう」と言って消え失せた。

 

「ホクガンのロウエン」は「北岩の老猿」であるため、北のほうの切り立った岩の下の穴に棲む年老いた猿であるとわかった

 

トウベ

・大分県でいう憑き物。筋系統の蛇神

 大分県では海岸部にトウベ持ちがいいたという。トウベは甕の中で飼われ、憑かれた人にしか見ないとされる。トウベ持ちは金持ちになるが、縁組は忌避された。嫁入りした女が実家に帰ろうとすると戸口にトウベが下がり邪魔したという話もある。

 

ドーメキドン

・大分県臼杵市野津町西神野でいう風神、高神、天狗。

 赤い顔で鼻は高く、大きな体をしている。風神森に訪れることがあり、通る際には音がする。

 

山童(やまわろ)

・高崎山(大分県大分市、別府市、由布市)や乙原(おとばる)の深山に現れたという怪物。

 永正年間(1504~21)に高崎山の麓から赤松谷にあった大森林の皆伐を手伝ったとされる。

 

見た目は10歳くらいの子どもに似て、毛は柿色、手は長く、ものも言わずに杣人(そまびと)や炭焼きが伐り倒した大木を軽々とひっかたげて積み場へ運ぶ。

 

ガラッパ

・宮崎県宮崎郡田野町(現・宮崎市田野町)、北諸県郡高崎町(現・都城市高崎町)、えびの市でいう水怪。

 

・えびの市ではガラッパに引き込まれると、引き込まれた者はなかなか見つからず、いなくなった場所から遠くない川底に端座させられているとされる。ガラッパに引き込まれる前には、その者に雑魚がたくさんたかるという。

 

カリコボウズ

・宮崎県児湯郡西米良村(にしめらそん)でいう山の怪。狩子坊主、カリコボーズとも表記。

 5、6歳くらいの子どものような姿をしているというが、主に音や声についての話が多く語られる。10月から11月頃になると、カリコボウズは川から上がって山に入る。西米良村では冬になると、「ホーイ、ホーイ、ホーイ」という声が聞こえてくることがあるが、これは山の尾根伝いに山頂へ上がっていくカリコボウズの声であるという。

 

ガワッパ

・宮崎県西臼杵(にしうすき)郡高千穂町や宮崎郡清武町(現・宮崎市清武町)でいう水怪。

 

・ガワッパはケツゴを抜くという。また、ガワッパの頭には皿があり、この皿に水があると千万力を発揮するとされている。

 

川の坊主

・宮崎県西臼杵郡五ヶ瀬町でいう水怪。

 山奥の村に炭焼きをする山師がいた。ある日、村で宴会があり、薄暗い中を山のほうへ帰っていると、川に差し掛かった道の真ん中に坊主頭の男の子が立っている。男の子は「山師どん、相撲を取ろうや」と言うと、いきなり山師の脚に飛びついた。山師は飛びついてくる男の子を取っては投げ、取っては投げしているうちに、男の子の数は15、6人に増えていた。さらに、男の子の腕を取るとするりと腕が伸びるため相撲が取りにくい。山師は一晩中相撲を取り、夜明けになると男の子は姿を消していた。

 

狐の太郎座衛門

・宮崎県延岡市愛宕(あたご)山麓の柚子ガ谷に棲む化け狐。村人たちから太郎左、もしくは太郎左狐と呼ばれる。

 太郎左が頭に芋蔓(いもづる)を2、3回降りかけて琵琶法師に化けた。それを目撃していた若者が琵琶法師の後を追うと、農民の家へと琵琶法師は入って行った。戸の節穴から覗いていた若者であったが、ふいに「危ないじゃないか」と声を掛けられた。戸の節穴だと思っていたものは馬の尻の穴であった。

 

キンタカコウ

・宮崎県東臼杵郡西郷村(現・三郷町西郷)でいう憑き物。

 

キンタカコウは犬神のようなもので、人に食らいつくとされるものの、犬神よりも位は高いという。子どもがキンタカコウに憑かれると大人でも知らないようなことを口走る。また、キンタカコウは家筋によって憑くとされ、キンタカコウに憑かれた者は風持ちと呼ばれる

 風持ちであるが、キンタカコウに憑かれた人のみの呼称ではないようで、犬神持ちも風持ちと呼んでいる。ヒジリ神と呼ばれる祈禱師がおり、ヒジリ神たちは風持ちを落とすという。

 

ヒダリ神

・宮崎県東臼杵郡北浦町(現・延岡市北浦町)でいう餓鬼憑きの類。ヒダリとはひだるい、ひもじい、空腹になるの意。

 山仕事や狩猟などで山に入ったら、昼食やご飯を一口分、飯一粒でも良いので、必ず残しておかないとヒダリ神に取り憑かれるとされる。ヒダリ神が取り憑くと、急に力が出なくなったり、動けなくなったりする。そういう状態に陥った際は残しておいた飯を食べれば元気になるという。

 

日向尾畑新蔵坊(ひゅうがおばたしんぞうぼう)

・『天狗経』に記されている四十八天狗の一つ。

 

ヒョウスボ

・宮崎県北部でいう水怪。

 西臼杵郡日之影町鹿川では、ヒョウスボは夕方に川へ来て、夜明けには山へ上がっていく。それに伴い、水神になったり、山の神になったりする。そのため、夕方にキュウリを採りに行くものではないといい、採った時は一番に水神様に供えるものだという。

 ヒョウスボの通り道であるウジがあり、ヒョウスボはオバネ(峰や山頂)を通るものだと伝える。

 

ヒョウスンボ

・宮崎県児湯郡木城町、宮崎郡佐土原町(さどわらちょう)(現・宮崎市佐土原町)、東諸県(ひがしもろかた)郡国富町、児湯郡高鍋町、西臼杵郡日之影町でいう水怪。

 

・西臼杵郡日之影町では、ヒョウスンボは水神様の使いだともいわれ、人目につかない得体の知れないものとされている。ヒョウ、ヒョウと鳴き、春の彼岸から秋の彼岸までは川に棲み、秋の彼岸からは山に棲みつく。頭に皿があり、皿に水がなくなると何もできなくなるため、「ヒョウスンボに出遭ったら、逆相撲を取れ」と言っていた。子どもが川へ泳ぎにいく時、「気をつけんとヒョウスンボにケツゴを取られるぞ」と親がよく脅かしていたという。

 

ヒョウスンボウ

・宮崎県宮崎市、児湯郡高鍋町でいう水怪。

 

・宮崎市のヒョウスンボウは「ひょいー、ひょいー、ひょういー」と鳴き、高鍋町のヒョウスンボウは「ヒュルル、ヒュルル」と鳴くとされる。雨がショボショボ降る晩には決まって、堀脇の茂みからヒュルル、ヒュルルと鳴きながら、黒い影が次から次へと飛ぶように出てきて消えていたという。

 

ヒョース坊

・宮崎県東臼杵郡諸塚村でいう水怪、山の怪、音の怪。

 ヒョース坊は秋頃、川から尾根伝いに山に登るとされ、春先までは山で過ごす。家代、立岩、黒葛原にはヒョース坊の通り路と伝えられる場所があるといい、昭和20年代(1945~54)頃までは山に登るヒョース坊の声が聞こえていた。山に登る時、ヒョース坊は仲間同士で声を掛け合い、相互に場所を知らせ合うとされる。

 

・ヒョース坊は人に姿を見せることはなく、たとえ姿を見ても村人はそのことを口にしたがらない。ヒョース坊に関わると祟りが生じたり、仕返しされるからだという。

 

ぼんぜん猿

・宮崎県宮崎郡佐土原町でいう猿の怪。ぼんぜん猿とは古猿、年老いた猿の意。

 毎晩、堤の土手にじんきち(糸車)を抱えた変化ものが出るという噂があった。ある狩人がこのじんきち変化を仕留めようと鉄砲を撃ってみたが、じんきち変化はニカッと笑って逃げて行ってしまう。そこで、仲間内で腕がたつと評判の女猟師のヤマオさんに相談すると、じんきちの車の軸を狙うようにと助言された。助言どおり、軸を狙って撃つと、じんきち変化は笑わず、ガラガラガラと気味の悪い音を立てて逃げて行った。

 

鹿児島県

おさん狐

・鹿児島県曽於(そが)郡(現・曽於市)でいう古狐。

 志布志市の宝満寺の和尚が夏井まで法事に行っての帰り、おさん狐が棲んでいる天神原を通った。その和尚は酒と角力が好きであった。酒を飲み、お土産の油揚げを提げて帰っていた和尚を見て、おさん狐は相撲取りに化けて、和尚に挑んだ。その頃、寺では和尚の帰りが遅いため、小僧の珍念が迎えに行くことにした。珍念が天神原に着くと、和尚が松の大木と角力を取っており、お土産はなくなっていた

 

かじゃねこ

・鹿児島県曽於郡志布志町(現・志布志市)でいうあの世のお迎え、火の車。

 悪人が死ぬと、かじゃねこといって、火の車が迎えに来るという。

 

ガラッパ

・鹿児島市でいう水怪。

 鹿児島市ではガラッパを見た人は死ぬとされている。「ガラッパの頭の皿を打たない」と約束した人が約束を破って、皿を打ったため、次々と出てくるガラッパたちに相撲を挑まれて精神に異常をきたしてしまったという話がある。

 

ガワンバッチョ

・鹿児島県阿久根市や出水郡東町(現・長島町)でいう水怪。

 4、5歳の子どものような格好をしており、頭頂部は禿げて皿を載せているように見える。このように伝わる一方、ガワンバッチョは姿を見せず、声だけが聞こえるともいう。牛にはガワンバッチョの姿が見えるため、ガワンバッチョがいると前へ進もうとしないとされる。

 

ガンバッチョ

・鹿児島県出水市でいう水怪。

 身長は1メートルから1.2メートル、7、8歳の子どもほどの大きさであるという。猿に似ているものの猿ではなく、猿はガンバッチョを見ると摑み合いの喧嘩をするため、猿回しは猿に袋を被せて川を渡る。

 

ヤコ

・鹿児島県でいう憑き物。人に憑く狐をヤコと呼び、狐憑きをヤコツキと呼ぶ。憑いたヤコを落とすのはヤコバナシと呼ぶ

 

山童(やまわろ)

・薩州(鹿児島県)でいう山中にいる人型の妖怪。

 山の寺という所は山童が多い。その形は大きな猿に似ていて、毛は黒く、常に人のように二本足で立って歩く。

 

・杣人(そまびと)が山深くまで入って、大きな木を伐り出し、峰を越え、谷を渡らないといけないような状況の時、山童に握り飯を与えて頼めば、どんな大木であろうと軽々と引っ担げて杣人の手助けをしてくれる。

 

・山童のほうから人に危害を加えることはないが、こちらから山童を打つ、もしくは殺そうと思うと、不思議なことに祟りがある。発狂したり、大病を患ったり、火事を被ったりなどさまざまな災害が起こり、祈祷や医薬も効き目がない。それゆえに、人は皆山童を大いに恐れ敬って、山童に手を出すことはないという

 

沖縄県

アカガンター

・沖縄県でいう家に現れる子どもの妖怪。枕返しの類。

 赤い髪をした赤ん坊の姿をしている。古い家の広間に出る、柱の陰や襖や障子の隙間から出るなどともいう。枕をひっくり返したり、寝ている人を押さえつけたりする。全身真っ赤なため、火事の前触れと解釈されることもある。

 

アカナー

・沖縄県でいう月の影模様の由来譚。

 アカナーは純真な性格をしており、全身が真っ赤な猿に似た姿とも少年ともいわれている。一緒に暮らしていた悪賢い猿の計略にはまり、猿に殺されてしまうと泣いていたところを月によって天上世界へと引き上げられた。以来、月への恩に報いるために水を汲んでいるという。沖縄県では月の影の模様は、月のために水を汲んだ桶を担ぐアカナーの姿であるという。

 

アカングァーイユ

・赤子魚の意味。沖縄本島および、周辺離島でいう人魚の顔。顔、体、胴体までは人間であり、その後ろは鰭(ひれ)も尾びれもある魚であるという。名前は、人間の赤ん坊に似た泣き声に由来する

 

オジーマジムン

・沖縄県山原地方(県北部)の家に棲みつくとされる妖怪。家の中から変な歌声が聞こえたり、イラブチャー(ナンヨウブダイ)が生きたまま風呂場で跳ねていたりするのは、たいていオジーマジムンの悪戯であるという。

 

キジムナー

・沖縄県でいう古木を棲み処とする精霊、妖怪。

 主にガジュマルやウスクの古木に棲みついているとされ、赤毛の童のような姿をしている。悪戯好きであり、どんな隙間も抜けることができるため、屋内に侵入して寝ている人を押さえつけることがある。

 魚獲りがうまく、地上を歩くように水面を歩いては、蟹や魚の目玉を取り食らう。キジムナーと親しくなることで、ともに獲った大量の魚を売って金持ちになることができる毎晩魚獲りに誘われるため、嫌気がさしてキジムナーを追い払ってしまうと貧乏になる。ましてや、キジムナーの棲み処である古木を焼いたり、伐り倒したりすると、家を焼かれる等の仕返しをされる。魚はもういらないから、他に金持ちになる方法があれば教えてくれ」と伝えたところ、黄金の入った甕(かめ)をもらったという話もある。

 

後生(ぐそー)からの使者

・沖縄県のあの世の使い。

 二人組で、夜に機(はた)を織っていた美女のマブイ(魂)を抜き取るが、偶然居合わせた美女の夫により、マブイを取り返されてしまう。夜に機を織るとあの世の人にマブイを取られるという。

 

ゴリラ女房

・沖縄県中頭(なかがみ)郡読谷村儀間(よみたんそんぎま)の民話。

 とある探検隊の若者が未開の島で大きなゴリラに捕まった。群れのボスであるゴリラとまる1年同棲生活を送り、ゴリラとの間に子どもを設けた。しかしいつかはここから逃げねばと若者は考えており、ゴリラたちに気づかれないよう脱出用のいかだを作り上げた。完成したいいかだで逃げようとしたところをボスゴリラに見られてしまった。ボスゴリラは怒り、我を忘れて我が子の両足を掴み、思わずその子を引き裂いてしまったという。

 

ザー

・沖縄県宮古島でいう女性姿の妖怪、幽霊。死霊とも呪術によって生きながら化け物となった女性ともされる。

 

ザン

・沖縄県石垣島に現れたという人魚。

 

椎の木の精

・昔、大宜味村喜如嘉に一人の娘がおり、ある日、山に椎の実を拾いに出かけた。山奥まで行ったが、椎の実がないために早めに帰宅にかかった。しかし、あまりにも山奥に入ったため道に迷ってしまい、日が暮れて進むこともできなくなった。娘は一夜を明かすために大きな古木の下へと足を延ばした。夜半と思われる頃、大勢の人々が踊っているような気配がしたため、娘は何気なく頭を上げてみると、周辺の様子が変わっていた。青々とした芝の上で緑の衣を着た人々が踊っており、娘は驚きのあまり、居住まいを正した。今まで自分が休んでいた大きな古木もなくなっており、娘がその場から逃げようとすると、後ろから大きな猪が追いかけてきた。娘はますます狼狽(うろた)えて、踊っている座の中へと入り込んでしまった。するとそこに白いひげを長く垂らした翁がおり、娘を抱き上げた。夜が明け、娘は気が付くと元の山におり、大木の枝の股にしがみついて寝ていた。

 

シェーマ

・沖縄県国頭(くにがみ)郡本部町、国頭郡恩納村(おんなそん)に出る妖怪。キジムナーの一種、もしくは別名の一つと紹介されることがある。

 本部町のシェーマは顔が赤く、髪がぼさぼさで、背が低い。シェーマは木に棲み、夏は川で漁をしているが、寒がりなため、冬は漁に行かず、北風が吹くような所へも行かず、北風が吹くような所へも行かず、山に行くという。何匹かで小屋にやって来ては釜口で火にあたる。少しでも人の気配を感じるとぱっといなくなってしまう。

 

シチマジムン

・沖縄県山原地方、島尻郡、久高島でいう魔物、化け物。シチともジームンとも呼ばれる。

 

・シチマジムンは形の見えないぼんやりとした雲か風のようなもので、軽快な動作をするものであるという。板戸の節穴のような所からも出入りできるのみならず、その中から人を連れ出すこともできるという。1週間も2週間も人を連れ出して迷わし、時には墓穴の中に押し込める。これをシチニムタリユン、もしくはムンニムタリユンと呼ぶ。

 

・シチマジムンは真っ黒で山道を歩くと前に立ち塞がって人の邪魔をするものだという。クルク山のシチマジムンが山原では有名だとされる

 

セーマ

・沖縄県国頭郡今帰仁村古宇利島や羽地内海やがんな島に出る妖怪。名前は精魔の意。キジムナーの一種、もしくは別名の一つとされる。

古宇利島のセーマは赤子のように小さい体をしているとされる。目は丸く、赤い髪の毛をボサボサと振り乱している。