アメリカのアルテックランシングというスピーカーは不思議な魅力を持っています。一見何の変哲もない安っぽい感じのフルレンジスピーカーですが今も一部の人には、高い人気を得ています。

409Bというスピーカー 劇場や施設の壁に埋め込んで使うタイプです。私が小遣いで初めて買ったのがこれ。別名「鉄仮面」

上とよく似た403というスピーカー 高音用のユニットは付いていないシンプルな構造です。両方とも、帯域は狭いですが、躍動感のある音を聞かせてくれます。

始めてこれらのスピーカーを手に入れたときは、音の粗さ、ややうるさく感じる面が気になり、「もっと高級な(例えばホーンのついた)装置がいるのかなあ。」と思ったものです。しかし、今にして思えは、音楽再生の中で必要な要素(躍動感、エネルギー、奏者の伝えたいもの)がいっぱい出てくる不思議なスピーカーです。繊細さはありませんが。

これらのユニットには欠点があります。長年使い込んでくると、同じところで断線します。ボイスコイルの引き出し線はコーンの付け根の所を通って、外部端子に配線されています。この部分が一秒間に何千回も揺さぶられ、一番たわみを生じる(そういう設計になっている)ので、エナメル線が金属疲労を起こして切れてしまうのです。非常に能率の高い設計なので、過大入力で焼き切れるよりも、金属疲労破断の方が断然多いようです。

オークションでもこの症状のものがよく見られます。今では作られていない貴重なものですので、修理をして生き返らせることが続きました。紹介します。

コーンを外した所

コーンを外した403 エッジを傷つけずシンナーで溶かしながら外すのが一番やっかいなところです。ダンパーは個体により差があり、比較的簡単に取れる時と、ダンパーに傷が残る場合があります、この場合は苦労したので、周囲に補強用のゴム部品で補強しました。

このコイルの部分での断線はあまりありません。コイルの出口から左の編線までの間が一番切れるところです。一か所エナメル線の被覆を少し剥ぎ、原因箇所を突き止めます。断線箇所が分かったときは、バイパス回路を作ります。もし、コイル内での断線であれば、1~2回コイルをほぐし、つなぎ直します。一番神経を使います。

断線が直ったら、ボイスコイルのセンターを維持しながらダンパーとエッジを接着します。

プラスティックフィルムを均等に入れ、隙間を保ちます。最近のスピーカーよりもギャップが狭いので、慎重な作業が必要です。

アルテックの755Eタイプでは、センターキャップが外せないので、この方法はとれません。

 

修理を終えた403 センターキャップとガスケットを付けます。

コーンを黒く着色するのは、「染めQ」がおすすめです。超微粒子を吹き付けるタイプで、むらがなく、音にも影響がありません。新品のようなコーンになります。

これは、コーンに破れがあった場合の 補修跡。段差がなくなるような状態で、最小限の木工ボンドで裏側から補修します。裏打ちをすると音に影響するので、できるだけ使いません。

409Bの高音用スピーカーもよく断線します。根気よく対応すれば直ります。この高音用スピーカーにダンパーがないことは、設計者と修理したし人だけが知る秘密です。

アルテックは好き嫌いが分かれますが、好きな人には、この深いグリーンはたまらないようです。アルテックを愛する人は自称「アル中」と呼んでいるようです。

こんな状態のものでも、放っておけない私です。

ただ誤解がないように、同じメーカーのホーンスピーカーを使った上級モデルには、いろいろな面でかなわない点があります。

ダイナミックスピーカーは、発明されてから80年以上になるのに、基本的な構造はまったく変わっていません。最新のデジタル機器に使われているものも同じです。素材以上に、設計者と選んだ使用者の感性が見えてくる部分です。