「その魚を押さえ付けろ」と船長が大声で命令していた。
私は他の船員達と共に甲板上で暴れ回っている大魚の長い身体にしがみ着いていた。冷たい雨が降っていて海は荒れていた。魚は狂ったような叫びを発していた。獣にも鳥にも似ていない濁声だった。
雨で濡れているせいか、大魚はいつまで経っても体力が落ちないようだった。私達の方がその大きな身体の下敷きになるなどして疲弊してきていた。魚の叫び声も私達の気持ちを苛立たせていた。いっそ無傷で捕獲しろという命令を無視して一思いに銛で刺殺してやりたいと私達は主張していたが、船長がそれを許可しなかった。生け捕りの方が港で高い値が付くのだった。
「撥ねて船から飛び下りるだけの元気はまだ残っているぞ」「もうすぐ港に着くから絶対に放すな」などと船長は大声を張り上げながら私達に指示していた。
しかし、私達は船長の目を盗んで大魚の頭に何度も拳骨をお見舞いしていた。「死ね」などという罵声も浴びせ掛けていた。
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