大きくなる林檎 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 夜中に無性に林檎を食べたくなった。しかし、果物屋が営業しているような時間帯ではないので私は寝床の上で目を閉じたまま唾を飲み込んだ。ちょうど明日は会社が休みなので朝になってから商店街まで買いに行こうと考えた。

 しかし、気持ちがなかなか紛れなかった。私は寝付けなくなっていた。それでも瞼をしっかりと閉じていたのだが、林檎以外の物事が考えられなくなっていた。しかも、考えれば考えるだけ頭の中で林檎が大きくなっていくようだった。

 林檎はすぐに私の住居よりも大きくなった。まるで特撮映画に登場して街を破壊していく怪獣のようだと思ったが、それでは留まらず、たちまち天体規模の大きさにまでなっていった。それでも林檎を食べたいという欲望は一向に衰えなかった。私は夜空に浮かぶ巨大な林檎を想像しながら今すぐに宇宙船に乗って旅立ちたいと望んでいた。自分の欲望に従って肥大化していく林檎をただ食べるだけの人生を送ってみたいという願いが頭の中に生じていた。

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