新年の笛 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

アメーバブログにて超短編小説を発表しています。
「目次(超短編)」から全作品を読んでいただけます。
短い物語ばかりですので、よろしくお願いします。

 夜明け前に私は自宅の門前に立って初日の出を待っていた。しっかりと厚着をしていたが、それでも寒くて堪らないので私は身を竦ませながら足踏みをしていた。隣近所の住民達も既に道路に出てきていた。こちらに近付いてくる人影があり、よく見ると近所に住んでいる弟だった。

 「こっちの家で一緒に祝おう」と弟は誘ってきた。

 「ここでいいよ」と私は拒否した。弟の家族達と一緒に祝えば賑やかだろうとは思ったのだが、初日の出を自宅前で祝う慣習を守りたかったのだった。

 弟が立ち去ると門前はまた私一人になった。いよいよ東の空が明るくなってきたので私は笛を構えた。街の東の方では既に太陽が見えたらしく、笛の音が微かに遠くから聞こえてきた。その音がどんどんと鮮明になっていき、やがて辺り一帯が騒々しくなったかと思うと私の目にも太陽の輝きがはっきりと見えた。私は思い切り笛を吹いた。新年の到来を精一杯の音量で祝った。

目次(超短編小説)