少年は高層ビルの屋上に立ち、空を見つめながら口を大きく開けた。頭上には幾つもの白い雲がふわふわと漂っていた。柔らかそうだった。それに、とても美味しそうだった。
かねてより抱いていた雲を食べたいという願望を実現させようと、少年は頭部をどんどんと巨大化させていった。地上を行き交う人々の目には、ビルを胴体とした巨人が出現したかのように見えた。
しかし、それだけでは雲には届かないので少年は首をするすると伸ばした。地上を行き交う人々の目には、建物の屋上から気球が飛び立ったかのように見えた。
そうして雲をぱくりと食べたのだが、まるで味がなかったので少年は期待を裏切られたように感じた。ちょっとだけ、ひんやりとしていたが、まったく物足りなかった。
ふと、少年は青空を舐めたくなった。雲よりは美味しいだろうと予想した。それで、どんどんと首を伸ばしていった。すると、すぐに夜になり、風が止んだ。星が見えて息苦しくなった。
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