背中から新しい肢が生えてきたので私としては腕を期待していたのだが、その先端は手にならなかった。足になった。背中にあっても歩行には使えないので私は気落ちしたのだが、サッカー部に勧誘されたので試験入部をしてみる事になった。
練習を始めるとサッカー部の先輩方は私に特別な才能があると評価した。それというのも私は新しい足と背中の間にボールを挟んだまま走れるのだった。それはサッカーという競技において随分と優利であるらしく、サッカーでラクビーをする男という綽名まで与えられた。先輩方から褒められて私はすっかり有頂天になった。
そして、サッカー部の新エースとして大会に臨んだのだが、いざ試合が始まってみると私の技はハンドの反則を取られた。先輩方が審判に抗議したのだが、判定は覆らなかった。上半身に生えていて歩行にも使用されていないのだから足とは認められないという見解が示されたのだった。得意技を封じられた私は試合においてまったく役に立たなかった。
先輩方の期待が失望に変わり、私はなんとなく居たたまれなくなったので大会後に退部した。冷静になってみるとサッカーという競技自体が好きというわけではなかったと気が付いた。
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