鳥を食べない年 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 年が明けたので両親と共に初詣に出掛けた。籤を引くと「鳥」という意味の文字が紙に書かれていたので私は肩を落とした。今年中は好物の鳥を食べられなくなったのだった。目の前が真っ暗になるような気がした。

 おそらく私は思い詰めた表情を浮かべていたのに違いない。自宅に帰ってから両親が私に対し、掟を破って密かに家の中でだけ鳥を食べても構わない、と言ってくれた。しかし、私はその申し出を断った。もし籤の結果を蔑ろにすれば今年の特色が失われ、その瞬間からこの新しい一年の価値が急落するはずだった。ちなみに去年は貝を食べなかった一年として記憶にずっと残っていくはずだった。

 実際、両親は面白味がない籤を引いたと残念がっていた。父は蛙を禁止され、母は鹿を禁止されたが、どちらも私達の家族にとっては平素から食材として馴染みがない動物だった。両親は行動を制限されたという実感を持てないと愚痴をこぼしていた。だから、私はむしろ恵まれているのかもしれなかった。

 そのようなわけで鳥を食べない一年が開始された。なにしろ好物なので私の肉体を構成している物質の幾分かは鳥に由来しているはずなのだが、これから徐々にその比率が減少していくのだった。それは新しい自分に生まれ変わっていくような初々しい体験であり、きっと長い人生の一時期に特別な彩りを与えてくれるはずだった。


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