東へ行け | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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 王からの命令は「太陽が昇る方向へ行け」というものだった。学校の授業で地動説を習い、大地が球体であるならば同じ方向へずっと進めば元の場所に帰還できるという理屈を試してみたくなったらしい。それで、その実行役として私が選ばれたというわけである。

 その日から私はひたすら東を目指して旅を続けている。しかし、王国から遠く離れてみると自分に下された命令がまったく馬鹿げたものであったように感じられてくる。なにしろ、仮にこの大地が球体でない場合、私は二度と故郷に帰還できないのである。遠方の国で身寄りもない旅人として一生を終えるかもしれないのである。

 しかも、あの王も今頃は自分の命令を忘れているかもしれない。私が出発した頃はまだ幼さが残る顔立ちの少年だったが、もう立派な大人に成長しているはずである。或いは、ひょっとすると家臣である私の存在自体を忘れている可能性もある。そのように考えてみると旅を続ける気力が萎えてくる。

 それに、私はもう何年もあの王国の存在を知る人間に出会っていない。誰も私に出された命令の価値を理解してくれない。そもそも言葉がほとんど通じない。

 しかし、それでも私は旅を続ける。自分の出自を理解してくれない社会に住み着く気にはなれない。とりあえず東を目指している。踵を返して王の命令と異なる方向から帰国しても居場所がないだろうと考えている。


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