運転席に陣取ったネズミが後方に振り返えり、不敵な笑みを浮かべながら言う。「安全器具を着用して各自の座席にしっかりと掴まっていなよ。このタイムマシンから落下して時間の渦の中にでも巻き込まれたら、もう生還できる見込みはほとんどない。待っているのは遅くも早くもない死だけさ」
我々は出発した。タイムマシンは壁の穴から抜け出て床を駆け回り、家具の側面を這い上がり、冷蔵庫の裏側に滑り込んでいく。まったく目紛しいばかりの速度である。我々としては周囲の風景をじっくり眺めている暇さえない。そして、気が付くとネズミの姿がどこにも見当たらないのだった。どうやら体を繋ぎ止めておく為の器具が壊れていたらしいが、それでもタイムマシンは速度を緩めずに突き進んいく。我々をどこか遠い場所に運んでいくように設定されているらしい。
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