喫茶店で保温機能付き容器に入った紅茶を啜りながら窓の外を眺めている。もう一時間近く前から激しく雨が降り続いていて一向に弱まる気配がない。おかげで屋外の風景はまるで夕闇が押し迫ったかのような薄暗さである。人々は自らの上半身を傘で隠そうとしているかのような体勢で歩いている。
ふと路上に一匹のムダを発見する。全身が雨で濡れていて、力なく垂れ下がった二本の尻尾が非常に弱々しい。飼い主とはぐれたのだろうか?それとも野良だろうか?
先程から一人きりで時間を持て余していたので私はそのムダに注目する。そして、ムダそのものの本質を見極めてみようと思い付く。まったくの退屈しのぎである。
とにかくムダというものの輪郭を頭の中で明確にしていく作業から始めてみる。それ以外の余計な情報をすべて切り捨てていく。そこにいるのは野良ではなく、黒ムダでもなく、白ムダでもない。雨に濡れていないし、路上を歩いてもいない。弱々しくないし、可愛くもない。一匹でもなければ二匹でもない。いっそムダという名称も忘れよう。
ふいに私は戦慄する。この白昼に亡霊を目撃したような気分になったのだった。実際、いつの間にかムダの姿は路上のどこにも見当たらない。そして、私は自らの気持ちを落ち着かせる為に熱い紅茶をゆっくりと啜ったのだった。
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