化粧待ち | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

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アメーバブログにて超短編小説を発表しています。
「目次(超短編)」から全作品を読んでいただけます。
短い物語ばかりですので、よろしくお願いします。

 「また口紅がはみ出したわ」
 
 「鏡に映る情景は現実世界の左右と上下を正確に反映しているけど、必ず前後が逆転するんだ。もし同じ方向を見て並び立っている二人の人間の片方が位置を変えて縦方向に並ぼうとした場合、横回転も縦回転もせずに正面で対峙するという事は人体の構造上あり得ない。でも、君はそんな不自然極まりない現象が起こっている鏡という物を参照しながら化粧をしている。だから口紅がはみ出すんだよ」
 
 「ややこしい話ね。でも、あなたの言う通りだとすると文字の場合はどうなるのかしら?鏡に映る文字は確実に左右が逆転しているわ」
 
 「わかってないね。文字は最初から人間の正面にある時に読めるように書かれているんだ。それを鏡に映す為に人間と同じ方向に置く場合、横回転で移動させれば左右が逆になるし、縦回転で移動させれば上下が入れ替わる。そして、僕達は地面を歩行しながら生活している。それは人間の視界にとって横回転を伴う行動だろう?だから僕達は鏡の中では文字の左右が逆転すると思い込みがちなんだよ」
 
 「あら、そうなの。でも、そんなに難しい事を考える暇があるなら化粧を失敗しない方法でも考えてほしいものだわね」
 
 「残念ながら化粧に関しては僕はまったくの素人だよ。それに、そんなに真剣に化粧している最中に耳に入れると不快かもしれないけど、僕は素顔の君の方が好きなんだ。前から何度も言っている事だけどもね」


化粧待ちシリーズ

化粧待ち
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