YG源義経黄金伝説■一二世紀日本の三都市(京都、鎌倉、平泉)の物語。平家が滅亡し鎌倉幕府成立、奈良東大寺大仏再建の黄金を求め西行が東北平泉へ。源義経は平泉にて鎌倉を攻めようと

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源義経黄金伝説■第29回

作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所

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西行は、義経に対して、東大寺の再建の勧進聖、重源ちょうげんから預かったものを渡す時がきたと考えた。

 

「さあ、義経殿。やっと二人になれたところで、重源殿からの贈り物です」

 

 西行は義経に布包みを差し出している。

 

「これはどうもありがとうございます。さて、これは…」

「まあ、まあ、開けてくだされ。それからお話しいたします」

 西行は、にこりと微笑んだようであった。

 

「おお、これは、建物の図面ではござりませぬか。これを私のために…」

 

源義経は子供のように、喜んでいた。

「そのように喜んでくだされるならば、西行は、いささか恥ずかしく思います。

 

いやいや無論、私が図を起こしたものではない。ほれ、お主も知ってござろう。重源様の絵図なのじゃ」

 

「おお、あの東大寺を再建されておられる重源様の…」

「よいか、私が直々重源様に頼んだのです」

「一体何故に、このような絵図を」

「よいか、義経殿」

 西行は真剣な顔付きとなり、義経の方へ膝からにじり寄った。

 

「これはあくまでも二人だけの話ですぞ」

 義経は西行のただならぬ気配を感じ、顔色を変えている。

 

「奥州藤原氏を信じてはなりません」

「何を仰せられます。あの藤原秀衡殿が…」

 

「まあ、義経殿。落ち着いて聞きなさい。秀衡殿は別じゃ。秀衡殿のお子様が問題なのじゃ」

「子たちが一体私に対して企みを持っておられるといわれるのか」

 

「そうじゃ、義経殿。己が身の上考えて見なされい。いずれの身かわからぬお主を育ててくれ、勉強されてくれたは秀衡殿。が、子たちはお主のこと、よくは思っていまい。考えてもみなさい。義経殿がいることで平泉が危険になっておりますぞ」

 

「私に、この平泉から逃れよとおっしゃるのか、西行殿。それはあまりではございませんか。私と秀衡様のこと、西行殿はよくご存じではないでしょうか」

義経は涙を流さんばかりである。

 

「よいか、義経殿。この絵図の通り建物を建てなおされませ。そして密かに北上川の抜け穴を作られよ」

西行は、秀衡を動かし人即に手配をさせていた。

「抜け穴ですと、私は敵に後ろを見せる訳にはいきません」

 

「万が一のための予防策でございます。そして、この造作には、この男を当てられよ」

西行は後ろから、人を呼び入れた。人影が急に義経の前に現れている。

 

「お初にお目にかかります。南都東大寺からの使者、東大寺闇法師、十蔵と申します。重源様から命を受けて、この平泉まで参りました。どうか、この建物の作事の支配方は、私にお任せくださいませ」

 

西行が一人ごちた。

 

「不思議な縁でござりました。

平清盛殿、と私は北面の武士の同僚でございました。

平清盛殿は平家による日本の支配を確立し、この私は義経殿をお助けしたのです。

治承・文治の源平の争いの中を、私は伊勢に草庵をかまえ、戦いとは無関係に生き残ってこれたのも、秀衡殿のお陰です。食扶持の費用は、秀衡殿にまかなっていただいた」

 

「西行様にとって、秀衡様はどのようなお方なのですか」

 

「そうでございますな。あれは私が二九才の折りでございましたか。京都で秀衡さまにお会いいたしました。そのおうた折り、佐藤家に、夢を与えて下さったのです」

 

「夢ですとと」

 

「そうです、京の戦いにもかかわらず、奥州には、この平泉のような仏教の平和郷、極楽郷があるという夢です。私が昔、この平泉を訪れた時の思い出は、、この戦乱の世に、いつも、目に焼き付いていて慰めとなるは、この平泉、束稲山の桜の姿、、なのです。あれが、この世にあっては、何か平和の証しのように私には見えたのです」

 

「西行様は、桜の花がそれのどまでにお好きなのか」

義経がたづねる。

 

「私は、月と花をよく謡います。日本の「しきしま道」の根本なのです。

が、この何年か身近に人の死をみすぎました。その京の地に比べ、この奥州平泉の地、なんと静かなことよ。100年の平和、その時期をお作りななれた奥州藤原氏の見事さよ」

 

源義経が深くためいきをつく。

「西行様は、秀衡さまと御同族と聞いております」

 

「さようでございます」

「では、勇者、藤原秀郷様の子孫ですか」

 

「そうです」

「兄上頼朝様が西行さまに在られてごきげんはいかでございましたか」

「銀の猫をいただき歓待させました」

 

「藤原秀郷の子孫、西行どのが、坂東新王、頼朝殿を、つまり新しい反乱王平将門まさかどをとどめるわけですか」

 

「私にとってもこの地は安住の地、が、この私の存在が、この平泉の地を、地獄に変えるかもしれません」義経はひとりごとを発するがごとく言った。

 

(続く)20210903改訂

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