YG源義経黄金伝説■一二世紀日本の三都市(京都、鎌倉、平泉)の物語。平家が滅亡し鎌倉幕府成立、奈良東大寺大仏再建の黄金を求め西行が東北平泉へ。源義経は平泉にて鎌倉を攻めようと
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源義経黄金伝説■第42回十蔵が鬼の表情で、 「正体知ったからには、生かしておく訳には」と冷たく言い放つ。 東大寺の伽藍消亡の折、十蔵の心はもう死んでいる。
源義経黄金伝説■第42回
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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第4章 一一八六年 足利の荘・御矢山
十蔵が恐ろしい表情で、
「お前たち、俺の正体知ったからには、よけい生かしておく訳にはいかん。そ
れに俺の方もお前たちの顔に見覚えがある」
と挑発に乗らず冷たく言い放つ。
十蔵の心は、すでに東大寺の伽藍消亡の折り、死んでいるのだ。
「……」
三人は顔を見合わせる慌てていた。
「お前たちは…」
西行は、あることにきずき、手を打つ。
「そうか。東大寺焼失の折り、その奈良で、押し込み盗みを働いておった盗
賊の片割れだな」
「ふふう、気付かれたからには、仕方があるまい。我々は、確かにその折りの
風盗よ。あの折り、一働きして、確かに財をなしたわい」
「のう、鳥海、こやつの顔を見てみい。お前も覚えがあろうが」
顔を見合わせる、十蔵と鳥海。
二人とも汗がどうっと噴き出た。まさかの驚きである。
「お主は…」鳥海が慌てていた。
「兄弟子よ。お前様には会いとうはなかった」
鳥海が十蔵にいう。
「かような所で…。そんな身分に落ちたか、鳥海」
十蔵は蔑みの目でみる。
「人のことを言えたものか。十蔵、お前様も東大寺の闇法師、闇の殺し人に成
り下がっておろうが」
「よいか、鳥海。よく聞け。俺は進んでこの役引き受けたのだ。なぜなら
ば、東大寺攻防の折り、たくさんの仲間を、俺のせいで死なしてしもうたから
のう。
ましてや、東大寺、大仏が焼け落ちるのを見たとき、俺の心の根は変わ
ったのじゃ。俺の心の間に浮かんだのは闇だ。復讐だ。残念ながら、仏法
は俺の救いにはならなんだ。よいか、俺は死に場所を探しておる。目の前にあ
る障害はすべて、握り潰してくれる」
「十蔵、わるう思われるな。俺はあの大仏が炎上する時、考え方が変わったの
だ。いや、生き方かもしれん」
「何を思うたのだ。お主の最後の言葉聞いてやろうか」
「この貴族の世が終わる。これからの世は武士の世だ。それゆえ、兄弟子
よ、聖武帝の東大寺ごときに義理を果たすのを止めろ」
「何を申す。東大寺、いや東大寺大仏、あってこその日の本ぞ」
「東大寺など、我々、貧乏人から金をふんだくるだけの存在だ。貴族でもな
い我々を助けてくれることなぞありもうさんぞ」
「鳥海、そのたわごと、さあ、地獄で言え」
東大寺闇法師、十蔵が叫ぶ。
「おもしろいわ。この闇法師。いや、十蔵!たっぷりいたぶってくれよう
ぞ」
「お主がその心なら、私も仕事がやりやすい。こ砂金の荷駄を挟んで勝負だ」
「よいか、お主たち。この沙金は、日本全体を平泉のような平和郷を、この世
に作るための資金だ。たやすく渡す訳にはいかぬぞ。考えを改めぬか、ぬし
ら」
西行がさけんだ。
が、寂しそうな顔をしている。絶望しているのだ。このよう
な奴らが世に多すぎる。日本は何を失ったのか。
「何をぬかすか、このくそ坊主。二人揃って三途の川、渡してくれようほど
に」
「そう申すなら、いたしかたあるまい。殺傷は望むところではないが、儂に
は武士のおりの約束があるでな」
西行は、密かにつみおいていた先祖代々の佐藤家の愛刀、朝日丸を取り出し、
悪党の攻撃にたいして防戦しょうとする。長く使ってはいないのだ。
黒田悪党、太郎左たちは、西行たちの強さに思わずたじろいでいた。こんな
はずではない。
「いささか、こやつら、手ごわいぞ」次郎左が言う。
「されば。あの手を、使うか、兄者」
太郎左は、祭りに使われた廃屋に走りいき、ひとつから静を連れて出て来た。
生かしておいたのだ。
「おい西行、この女をこうすれば、我らを容易には打てまい」
次郎左は、静の首筋に刀を当てている。
「ああ、西行様」静が我が身を呪うように嘆く。
「う、静殿。生きておられたか。ありがたし」
さすがの西行も、とまどい手がだせない。
「どうじゃ、我らがたっぷり弄んでやったわ」
次郎左がにやりとする。
「もう生きてはおれんというのを、何とか生かしておいやったぞ」
「よいか、この静とその沙金との交換と初めの案はいかがか」
「どうだ西行返事をしろ」次郎座がわめく。
「…」
しかたなく、西行と十蔵は、剣と棒を、地面にゆっくりと降ろす。
「ふうふう、その用に早くすれば、よいものを、」
広場の炎の外に富めておいた荷物駄を積む馬に、太郎左たち一群が連れてい
こうとする。
「おう、お宝じゃ」
静の体から、次郎左の注意が一瞬離れた。
祭りの階段丘の方より、新たな声が西行に聞こえた。
「西行殿、お助けに参った」ささやく声だった。
「おお、そのお声は…」
「しっ、奴らに聞こえましょう」
「さらば、もうひといくさ始めよう」
その声の主は言った。
続く2010改訂
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