源義経黄金伝説■第64回 

作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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 1199年(正治2年) 京都・鞍馬山

 鞍馬山は、京都市中よりも春の訪れが少しばかり遅い。
僧正谷で武術修行にうちこむ二人の姿があった。
老人と十二才くらいの童である。

鬼一法眼が手をとめて、「源義行」に話しかけてた。
「和子は、このじいを何と思うておられる」
「どうした、じいは。いつものじいではないのう」
幼い義行にとって、鬼一は年をとった父親のようであった。不思議そうな顔を
して、義行は、鬼一の方を見る。

「よいか、よく聞いてくだされ。わしも、もう長くは生きられぬ。そのため真
実を申し上げる。和子は源義経殿が和子にござます」
鬼一法眼は、深々と頭を下げる。びっくりする源義行だった。

「この私が、あの、源義経の子供だという、、、」

源義経が奥州平泉で襲撃されて十年がすぎている。
義行は、義経がことを、日々の勉学に聞き及んではいた。

「この私があなた様のために、亡くなられた西行法師殿より預かっているもの
がござる。それをお渡しいたしましょう。また和子の存在を知っている者が、京に一人おられた」
「おられたと。その方も…」

「そうです、七年前にお隠れなられた後白河法皇です。その方の指令がまだ生
きておる。源頼朝をあやめられよと」

「源頼朝をあやめると…」

「じゃが、よーく聞いてくだされ。源頼朝殿を殺すも殺さぬも自在です。なぜなら、この鬼一法眼、全国に散らばる山伏の組織を握っております。和子を鎌倉に 行かせるは自在。が、西行殿、そして義経様が義行様に望んでおったことは、和子が平和な一生を終えられることです。また平和な郷を作られることです。この 書状には奥州藤原氏よりの沙金のありか書いてございます。これをどう使われるかは、和子が自由でございます」

「鬼一法眼殿、私はどうすれば…」
突然、突き付けられた事実に、義行はたじろいでいる。

「どうするかは自分でお決めなされ。自分の生涯は自分で決めるのです。義経
殿が滅びたは、自分の一生、自分で決められぬほど、源氏の血の繋がりが強か
った。和子はそうではござらぬ。つまりは、和子は世に存在しない方。自
由にお考えなされい」

「……」
「が、義行さま、西行法師殿のまことの黄金は、あなたさま…。それほど大事に思われておったのです…」
「……」
「じい、決めた。私は父上、源義義の仇を討つ」
源義義の子供である源義行は、そう鬼一法眼に告げた。

「そのお考え、お変えになりませぬな」
 鬼一の眼は、義行の眼を見据えた。
義行の眼には、常とは違う恐ろしい別の者が潜んでいる。
「武士に二言はないぞ」恐れず義行は答える。

「わかりました。が、義行様、この先に進めば、二度とこの鞍馬山に帰ることはあいなりませぬぞ」

「何…この鞍馬には二度と」
「さようでございます。もし、源頼朝様を殺すとならば、義行様はこの日本に住
むことできますまい。なぜならば、鎌倉が組織、すでに全日本に張り巡らされ
ております。その探索から逃れることなど、絶対不可能」

「……」義行は急に黙り込んでしまった。

西行殿、許されよ。俺はお主との約束を破る。許してくだされい。俺は、
義行様が不憫なのだ。
鬼一はひとりごちた。

「なれど、義行様、安心なされませ。義行様をただ一人行かるじいではござい
ません。私の知り合いに、手助けを頼みましょう」

 鬼一法眼の屋敷は、京都では一条堀河にあった。
義経は、陰陽師でもある鬼一法眼から、兵書「六闘」を授かっていた。

 平安時代中期、藤原道長の霊的ボディガードとして有名だったのは、当時最
高の陰陽師安倍晴明であったが、彼の子孫は土御門家として存続する。この土
御門家に連なる一人が鬼一法眼であった。

 鬼一法眼は、自分の屋敷から白河に向かい、ある一軒のあばら家に入る。

 「おお、これは鬼一法眼殿、生きておられたか。伝え聞くところによれば、
貴公、奥州に行かれ行方不明と聞いていたが」

 のっそり出てきた優男は、京都で名高い印地打ちの大将「淡海」である。
「淡海殿、お願いがござる」

鬼一法眼が頭を下げている。突然の事に、淡海はめんくらう。
「これは、これは何を大仰なことを申される。法眼殿は義理の兄ではござらぬ
か」
「いや、ここは兄としてではなく、「印地打ち(いんじうち)の大将」にお願いしている客と思っ ていただきたい」

「俺の、印地打ちの力を借りたい、、と、、申されるのか」

「実は、儂の人生の締めくくりとして、ある人物をあやめていただきたい。と
いっても、儂は、手助けをお願いするのみだが」
「…、したが相手はだれぞ」

「鎌倉の源頼朝」
「むっ…」淡海は唸ったまま、眼を白黒させている。

 白河は、別所と呼ばれる。別所とは、別の人が住むところ。昔、大和朝廷が
日本を統一したときに、戦った敵方捕虜をそこへ押し込んだのであった。別所
は、大原、八瀬など、すべて天皇の命を受けて働く、別働隊の趣があった。し
かし、また、武者などの勢力から、声を掛けられれば働くという、傭兵的な要
素を持っているのである。

 淡海たちは、石つぶての冠者、つまり戦士であった。
 石つぶては、当時の合戦に使われている正式な武器だ。

「が、鬼一殿。相手が相手だけに、義兄さまの幻術も使ってもらわねば、難し
いのではないか」
「さよう、頼朝を郎党から一人引き離さねばのう」
「どのような塩梅か」

「気にするな。我が知識の糸は、鎌倉にも張り巡らしてござる。それも頼朝に
かなり近いところだ」
「おお、力が入っておるのう」

「よいか、義兄弟。この度の戦さは、儂の最後の戦さ。また、あの西行法師殿の弔い合戦でもある。頼朝を仕留めれば、奥州の沙金の行方を追うこと、諦め
るだろう」

「それでは、一石二鳥という訳でござるな」
「そういうことだ。済まぬが、おの手の方々を、すぐさま東海道を鎌倉に下ら
せてくださらぬか」

「おお、わかり申した。色々な職業、生業に、姿を変え、鎌倉へ向かわしまし
ょうぞ。京都の鎌倉幕府探題の動き、激しいゆえにな。動きをけどられぬよう
にな」
(続く)

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