源義経黄金伝説■第17回
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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 驟雨が、鎌倉を覆っている。

頼朝の屋敷の門前に僧衣の男が一人たっている。
騎馬が二騎、二人は、この僧を物乞いかと考え、追い払おうとしていた。

「どけどけ、乞食僧。ここをどこと心得る。鎌倉公、頼朝公の御屋敷なるぞ。貴様がごとき乞食僧の訪れる場所ではない、早々に立ち去れい」
語気荒々しく、馬で跳ねとばさんばかりの勢いだ。

「拙僧、頼朝公に、お話の筋があって参上した。取り次いでくだされ」
「何を申す。己らごときに会われる、主上ではないわ。どかぬと切って捨てるぞ」
ちょうど、頼朝の屋敷を訪れようとしていた大江広元が、騒ぎを聞き付けて様子を見に来る。
「いかがした。この騒ぎは何事だ」
 広元が西行に気付く。

「これは、はて、お珍しい。西行法師殿ではござらぬか」
「おお、これは広元殿、お久しゅうございます。みどもを乞食僧と呼ばれ。何卒頼朝公にお引き合わせいただきたいのです」

「何ですと。天下の歌詠み、西行殿とあれば、歌道に詳しい頼朝様、喜んでお会いくだされましょう」
 広元が武者に向かい言う。
「この方をどなたと心得るのだ。京に、いや、天下に名が響く有名な歌人の、西行殿じゃ。さっさと開門いたせ」 広元は西行の方を向かい、
「重々、先程の失礼お詫び申しあげます。なにしろ草深き鎌倉ゆえ、西行殿のお名前など知らぬやつばらばかり」
「私は、頼朝殿に東大寺大仏殿再建の勧進のことを、お頼み申したき次第です」
「何、南都の…東大寺の…勧進で」
広元の心の中に疑念が生じた。
その波は広元の心の中で大きくなっていく。
「さよう、拙僧、東大寺勧進重源上人より依頼され、この鎌倉に馳せ参じました。何卒お許しいただきたい」

 頼朝と西行が対面し、横には大江広元が控えていた。
「西行殿、どうでござろう。この鎌倉の地で庵を営まれましては」
「いやいや、私は広元殿程の才もありません」
「それは西行殿、私に対するざれ言でござりますか」
「いえいえ、そうではございません」
「西行殿、わざわざ、この頼朝が屋敷を訪れられましたのは、歌舞音曲の事を話してくださるためではありますまい」

西行の文学的素養は、絢爛たるものがあった。
母方はあの世界史上稀に見る王朝文学の花を開かせた一条帝の女房である。
 西暦一千年の頃、一条天皇には「定子」「彰子」という女房がいたが、定子には「枕草子」を書いた清少納言が、また彰子には「源氏物語」を書いた紫式部などが仕えていて、お互いの文学的素養を誇っていた。

「さすがは頼朝殿、よくおわかりじゃ。後白河法皇様からの書状をもっております。ご覧ください」
 西行は、頼朝に書状をゆっくり渡す。
 頼朝は、それを読み、
「さて、この手紙にある義経が処置いかがいたしたものでしょうか。法皇様は手荒ことなきようにおっしゃっておられるが」

「義経殿のこと、頼朝様とのご兄弟の争いとなれば、朝廷・公家にかかわりなきことですが、日々、戦に明け暮れること、これは常ではございません」
「それはそれ。この戦や我が弟のことは私にまかされたい。義経は我が弟なればこそです。我が命令に逆らいし者です、許しがたいのです。……」
 頼朝は暗い表情をした。しばらくして、表情が変わる。

続く2010改訂
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