源義経黄金伝説■第16回
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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奈良にある黒田荘(ショウ)(現三重県)は、東大寺の荘園である。先月の東大寺があげての伊勢神宮参詣もこの地で、重源を始め多数の僧が宿をとっている。いわば東大寺の情報中継基地である。

 あばら家の中、どぶろくを飲んで横たわっている二人がいる。太郎佐。そこに弟の次郎佐が訪れていた。
「兄者、兄者はおられぬか」
「おお、ここだ、次郎左」
「何じゃ、なぜそんな不景気な顔をいたしておるのだ」

「これがよい顔をしておられるか。お主、何用だ。俺に金の無心なら、無用だぞ」
「兄者、よい話だ。詳しい話は、ここにおる鳥海から聞け」
 
蓬髮で不精髭を生やした僧衣の男が汚らしい格好で入ってくる。
着物など頓着していない様子だ。
顔は赤銅色に焼けてはいるが、目は死んでいる。

鳥海は興福寺の僧兵として、かなりの腕を振るった人間だ。
園城寺、比叡山との僧兵たちとの争いでも、引けを取らなかった。

が、東大寺炎上の折りから、腑抜けのようになっていた。
一人生き延び、この太郎左、次郎左のところに転がり込んでいいのである。

 鳥海は、話を始めた。
「太郎佐殿は、先年、東大寺が焼き払われたこと、ご存じだろう」
「おお、無論、聞いている」
「東大寺の重源、奥州藤原氏への勧進を依頼した。さて、使者は西行法師」
「たしか先月、重源と、、そうか、あのおいぼれ。確か数え七十ではないか」
「供づれはいないと聞く。いかに西行とて、この我ら黒田悪党のことは知るまい」
「ましてや、みちのく。旅先で、七十の坊主が死んだとて、不思議はあるまい」

「お前、それでは、平泉からの東大寺勧進の沙金を…」
太郎佐は言う。
「そうよ、奪えというご命令なのだ。この話しはな、京都のやんごとなき方から
聞いた。ほれ、このとおり、支度金も届いておる」
「さらば、早速」

「まて、まわりがおかしい」
太郎左が皆を圧し止めた。
動物のような感がこの男には働く。
「ようすを見てみろ」
次郎左が命令を聞き、破れ戸の隙間からまわりをみる。
鳥海も他の方向を覗き見る。
「くそっ、お主ら、付けられたのか。馬鹿者め」

 まわりは、検非違使(けびいし)の侍や、刑部付きの放免(目明かし)らが、十重二十重に取り囲んでいる。検非違使の頭らしい若侍が、あばら家に向かって叫んでいた。
「よいか、我々は検非違使じゃ。風盗共、そこにいるのはわかっておる。おとなしく、縛につけ。さもなくば討ち入る」

「くくっ、何を抜かしおるか」
太郎左、次郎左は、お互いをみやって笑った。
戦いの興奮の血が体を回り始めているのだ。
「来るなら来て見ろ。腰抜け検非違使め」
大声で怒鳴った。
「何、よし皆、かかれ」
若い検非違使が刀を抜き言った。
「ふふっ、きよるわ。きよるわ」

「よいか、次郎左。ここは奥州の旅の置き土産。一つ派手にやろうか」
「あい、わかった」
 
太郎左と次郎左は、小屋の後手に隠してあった馬に乗り、
並んで頭の方へ駆けていく。侍は、急な突進にのぞける。
「ぐわっ」
 
太郎左の右手、次郎左の左手に、握られていた太刀が交差した。
 瞬間、検非違使の頭が血飛沫を上げ、青空に飛びあがっている。

後の者共は蜘蛛の子を散らすように逃げ出す。

「ふふっ、少しばかり、馬をいただいておこう」
 三人は逃げ去る侍たちの方へ目がけて駆けていく。
 
 
太郎左たちは、板東地方(関東)に入り、盗みを立ち働いていた。まず、第一の目的はよい馬を得ることである。
 近畿地方の馬と、阪東や板東の馬とは、種類が違っていた。
脚力、体長とも、板東の馬が勝っている。

武者の家が焼けている。
中には多くの死人。
そこから阪東の馬に乗り飛び出してくる三人の姿がある。

「さすが阪東の馬よのう。乗り心地や、走りごこちが違うなあ」
 次郎佐は叫ぶ。
「それはよいが、次郎左、屋敷に火を放ったか」 太郎佐が、その言葉を受ける。
「おお、それは心得ておる。この牧の屋敷は、もうすぐ丸焼けだ」
「行き掛けの駄賃とはよう言うな。
屋敷の地下に埋めたあった金品もすべてこちらがものよ」
 鳥海が言う。三人は走り去る

続く2010改訂
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