森の空気はなんとも美味い。うっそうとした杉、ヒノキの樹木に囲まれて、青空がぽっかりと開いて白い雲が行きかう。
樹間に木漏れ日が差し込んで快い。
京都の日吉町の奥山に森林組合参事、湯浅さんに案内していただいた。
菅直人民主党代表代行と、日本でも、もっともユニークな取り組みをしている森林組合の現場を見せていただいたが、驚きの連続だった。
若い作業員がカーキ色のヘルメットを被って、たった一人でハーベスターを駆使して間伐材の伐採を行っている。重機のアームがするすると伸びて、その先端部分が、直径15センチはある杉を無造作につかんで、そのまま根元から切断する。さらにそのまま枝を払いながら、4メートルの長さに、まるで大根でも切るように揃えて、切っては作業堂の横に積み上げていく。
まるで神業だ。揃えられた間伐丸太はそのまま、製材工場に運ばれて、大根のかつらむきのように一瞬にして、むかれて合板になるとのことだ。
林業の現場は変わった。
作業路さえつけて行けば、日本の林業も欧米に負けないくらい機械化、合理化されているのだ。
「作業路をつけるのに、1メートル当たりどれくらいかかりますか」
「1000円から1500円ですね」
湯浅さんはこともなげに答える。
「作業路さえ付けていけば植林も、下刈り。枝払い、間伐も簡単ですが、そのまま樹が成熟して、主伐するにしてもコストがさほどかかりません」
「見てください、向こうの山の杉は間伐されずにそのまま放置されているから、台風であのように倒れているのです」
確かに素人にも間伐がなされた山とそうでない山は一目で見分けが付く。
つい先日、ドイツの黒い森で林業を目の辺りにしてきたばかりだが、ドイツと日本では作業路、路網はどうなっているのだろうか。
林野庁で調べた。
ドイツでは1ヘクタールあたり100メートルの路網の整備ができているのに、作業路だけでいえば日本は3,5メートルしか整備できていない。
なんと日本は年間林道予算だけで690億円支出しているのに、そのほとんどがスーパー林道と呼ばれて、1メートル58万円かけて整備された、車が2車線通る立派に舗装された自動車道なのだ。おりしもこれらの道路建設に当たっている緑資源機構が林道の談合事件で調べられている。一般林道も1メートル当たり18万円はかかるものでアスファルトなどの舗装がなされて10トン積みのトラックが走れるようになっている。
日吉町の山でも林道を見せていただいたが、湯浅さんが
「山田さん、このように両側が崖になっているので、林道から作業路を付けていくの、なかなかできないのです」
と語った。
大切なわれわれの税金が、林道と称して林野庁の予算から、毎年、1000億円近い予算が使われながら、林家のためではなく、政治家と土建業者、官僚の癒着のための公共事業としてつぎ込まれてきたのだ。
これでは日本の林業が欧米に30年間遅れていると言われても仕方がない。
ちなみに、1メートル1000円で作業路を1ヘクタールあたり100メートル、ドイツ並みに、日本の人工造林1000万ヘクタールのすべてに整備するとなればどうなるだろうか。
なんと今年の林道予算690億円で、6,9万キロ整備でき、10年間でドイツ並みに、すべての杉、ヒノキの山に作業道を整備できることになり、日本の林業は一気に欧米に追いつき国際競争力を持つことになる。
問題は日本の場合、山の所有者があまりにも子規模に分散されている。一人20ヘクタール以下の所有者で8割を占める。
日吉町も例外ではない。町内に10,700ヘクタールの山林があるが、4,5ヘクタールの所有者が大半で、しかも不在村地主が3割は占める。
そのようなところに,作業路を整備してハーベスター等の重機で作業するとなれば「山林所有者の団地化」が必要となる。
日吉町森林組合はそれをどのようにして団地化を実現で来たのだろうか。
ここが私達の最大の関心の的だった。
湯浅さんは1枚のペーパーを広げて説明してくれた。
「不在地主の皆さん、サラリーマンの子規模所有者に、このように山の現在の写真をつけて、貴方の山に作業道をつけて、間伐などの手入れをしたいのですが、ご了解ください。
貴方がたに金銭的な負担は一切かけません
貴方の山にある杉、ヒノキが売れてお金になるようだったら、配当します」
といったことが記載され、詳しい山の見取り図とともに、現場の山林の状況がカラー写真で貼られている。
これでは不在村地主も喜んで管理委託契約書に署名捺印したくなるのでは。
「皆さん、応じてくれますか」
「100%です」と湯浅さんは、にこにこしながら自信ありげに答えられた。
もうひとつ、私は気になった。
「見取り図にある複雑に入り込んだ不在村所有者ごとの山の境界線はどうして、わかったのですか」と尋ねた。
おそらく村に住んでいても、山に入ったことのない勤め人には、おそらく相続で所有した山林の境界を知ることは難しいに違いない。
「森林台帳をもとに、組合の職員が、土地の山守さんとか、古老の人に一緒に、何日もかけて、山を踏査しているうちにわかってきました」
と分厚い森林台帳を見せてくれた。
今や個人情報保護法のもとに森林台帳は民間では知ることができず、組合でなければわからないようになってしまっている。
合点。まさしくこの仕事こそ森林組合にとって大事な仕事だ。
これを早急に進めていかなければ、日本の山林はせっかく戦後、莫大なお金をかけて、植林したのが、間伐もなされないまま、放置されて挙句の果ては、土石流などの災害をもたらすことになる。
私達は、京都の深山三吉町心地よい汗をかくことができた。
帰りの新幹線の中で、菅直人代表代行と缶ビールを開けながら、日本の林業の将来について、で大いに語り合った。
今まで、予算だけはつぎ込んでも、将来への青写真がなかっただけに、林業は衰退の一途をたどって来たが、これからは違う。