0 はじめに
私は、78期司法修習生です。任官、任検も考えていましたが、結局弁護士になることにしました。任官、任検するのであれば、おとなしくしていた方がよいのかもしれませんが、特におとなしくしている必要もなくなったので、今の司法修習がどんな感じなのかお伝えしていきたいと思います。合格体験記等については、別に取り上げていただいてますのでそちらをご覧ください。
1 修習地の区分
修習地の希望は、第6希望まで出すことができますが、好きなように順位付けして希望できるわけではありません。
修習地の区分は、大きくわけてA組とB組、1郡~2郡という概念を理解しておく必要があります。
まずA班とB班というのは、選択型実務修習と集合修習の順序を決める概念です。A班は11月半ばから司法研修所に戻って集合修習を受け、1月半ばから実務修習地に戻って選択型実務修習に臨みます。これに対し、B班は11月半ばから、それまでの分野別実務修習に続けて選択型実務修習を受け、1月半ばから司法研修所に戻って集合修習に臨みます。
A班は、東京、立川、横浜、さいたま、千葉、大阪、京都、神戸、奈良、大津、和歌山
B班は、それ以外です。
大雑把に言えば大規模な関東と関西です(なぜこのような分け方なのかはよくわかりませんが、関東勢は実務修習地から司法研修所に通うことができ、家賃が無駄にならないからなのだと思っています。関西勢は、二回試験が関西特別会場なので集合修習を関東でやってしまうと二回試験の移動が大変だからなのかなと思っています。正解はよくわかりませんが。。。)。
いずれにしても、東京でB班や鳥取でA班といった選択肢はありませんし、争ってどうこうなる問題ではないので、A班、B班の区別は前提として考える必要があります。
さてA班とB班について解説していこうと思います。どちらが良い悪いということはないと思いますが、次のようなA班・B班には次のようなメリット、デメリットがあると思います。
【メリット】
(A班)
・その年初の講義なので司法研修所教官の講義が初々しい?
・集合修習の内容を選択型実務修習の期間を通じてしっかりと復習することができる。
・選択型実務修習中に二回試験の勉強をさせてもらえる弁護士事務所がある(らしい)
(B班)
・A班の集合修習を先に済ませているので司法研修所教官の講義が洗練されている?
・集合修習で起案の勉強をしてそのまま二回試験に突入できる
・1月半ばに退去できるので、余計な家賃がかからない(A班は、集合修習に行っている間、実務修習地の家賃を払うことになる。)
【デメリット】
(A班)
・司法研修所の寮に入寮する人は余計な家賃を払わなければならない。
・集合修習で起案の勉強をしてから、選択型実務修習を挟んで二回試験になるので、選択型実務修習の間にやっていることを忘れてしまう。
(B班)
・集合修習から二回試験までの間が短すぎて消化しきれない?
・入寮する人は、乾燥の激しい司法研修所の寮で1月、2月を過ごさなければいけない
・(特に関東の人)1月半ばから司法研修所に移動するところ、年末年始に帰省すると、修習地に戻って1週間で関東に戻ることになる
以上のようなメリット、デメリットがあるわけですが、個人的にはB班派です。無駄な家賃払いたくないので。
ただ、B班を選ぶということはおのずから地方に行くことになるわけですので、どうしても関東圏や関西圏などの都会に残りたい人はA班を選ぶことになるかもしれません。
続いて1郡、2郡、3郡について説明します。
1郡は、東京、立川、横浜、さいたま、千葉、宇都宮、静岡、甲府、大阪、京都、神戸、大津、名古屋、福岡、仙台、札幌です。
2郡は、水戸、前橋、長野、新潟、奈良、和歌山、津、岐阜、金沢、広島、岡山、熊本、那覇、福島、高松です。
3郡は、福井、富山、山口、鳥取、松江、佐賀、長崎、大分、鹿児島、宮崎、山形、盛岡、秋田、青森、函館、旭川、釧路、徳島、高知、松山です。
人気度で分けられており、1郡の修習地は第6希望まである中で2度までしか選ぶことができず、第5希望、第6希望は3郡の修習地から選ばなければいけないという制約があります。
例外はありますが、1郡は東京や大阪といった都心に近い場所や、都心に近い新幹線駅がある県、高裁所在地が集まっています。
2郡は、比較的小規模ながら大都市か大都市に近い場所が多いです。
3郡は、ザ・ローカルといったところでしょうか。(個人的には都会が嫌いなので3郡推しです)
2 修習地の選び方・考え方
以上の区分を前提に、どのように修習地を選ぶべきなのでしょうか。
どの修習地も良し悪しのある話なので、一概にこの修習地がおすすめということはありませんし、結局はどの場所かよりも、その修習地に誰がいるのかが大事だったりします。
これを前提に、まず特定の場所でなければならない事情がある人はその場所を書くほかないでしょう。例えば結婚していて東京に家族がいるとか、福岡に介護が必要な親がいるなどの事情がある人は、その場所を書くことになると思われます。
そういった事情がない人は、どこを希望するかから考えなければなりません。
そういう人が一番に考えるのは、現在の生活拠点から近い場所ということになると思います。例えば千葉で実家暮らしをしている人は千葉修習、東京のロースクールに通う人は東京修習といったように。
このような判断も大いにあり得ることと思いますが、一つ注意しなければならないのは大都市修習の場合、家賃や交通費が負担になる可能性があるという点です。
司法修習生には、通勤手当の支給はありませんので(今後変わる可能性もあります)、生活拠点と修習地との間で通勤が必要な場合、そのお金は自己負担となります。例えば東京修習の場合は、東京地裁がある霞が関に相当日数行くことになると思いますが、霞が関に家を借りるといった人はそういないと思われますので、それなりの距離、通勤する必要があります。地下鉄で数駅の場所に住んでいたとしても、毎日の通勤となれば数万円になることもあり得ます。
6か月定期を買えば安くなるという考えもあり得ますが、修習地によっては裁判修習、検察修習、弁護修習の場所がかなり違うというところもありますので、1か月定期を買うしかないということもあり得るわけです。
なお、弁護士会によっては弁護修習の通勤代を支給するところもあるようです。多くの庁では、裁判所と検察庁は隣接して設けられていますので、通勤代の支給がある修習地であれば6か月定期を買うことも可能かもしれません。
これに対し、地方に出た場合は、裁判修習、検察修習、弁護修習の場所が隣接していることも多く、そもそも家から徒歩や自転車で通えるなど通勤代がかからないケースも多いと思われます。交通費がかからないというのは、地方修習のメリットと思われます。
ただしどの修習地が、裁判所、検察庁、弁護士事務所が徒歩や自転車で通えるほど近いかは、自分で調べるにしても限度があり、その修習地を経験して先輩に尋ねるなどするしかないかもしれません。一般的には、小さな街であればあるほど、これらの施設が隣接している可能性が高いと思われます。
続いて家賃の問題です。言わずもがな東京や横浜、大阪といった大都会は家賃が高いわけです。
修習生には、定額で3万5000円の住居給付金が支給されますが、これは場所によって異なるわけではなく、また家賃によって左右されるものではありません。
つまり東京で家賃10万円の家に住む人と、長崎で家賃5万円の家に住む人とで司法研修所からもらえる住居給付金に差異はありません。
上述した通勤代の話、家賃の話からすると、地方の方が手取り金額を増やせる可能性が高いわけです。この点が地方修習の大きなメリットと考えられます。
なお地方修習だと移動代がかさんでしまうので、結局移動距離が少なくなる都市の方がよいと思う人もいるかもしれません。
ここで注意しなければならないのは、最低限必要な旅費は司法研修所から支給されるという点です。例えば、関東に在住する(ここでは水戸在住としましょう。)人が、那覇(沖縄)修習になった場合、導入修習参加にあたり水戸から司法研修所までの片道の交通費、導入修習が終わり分野別実務修習参加にあたり司法研修所から那覇地方裁判所までの交通費(リムジンバスや電車、飛行機代)が支払われます。さらに、分野別実務修習に引き続く選択型実務修習が終わり集合修習参加にあたり那覇地方裁判所から司法研修所までの交通費も支払われます。
このように最低限必要な旅費は司法研修所から支払われるわけです。もちろん最も経済的な通常の経路という制約がありますので、旅費支給庁の判断によっては支払われない可能性はありますが、一般的な経路であれば旅費が支払われることとなります。
そうすると旅費のことを懸念して地方修習を回避する必要はありません。
ただし、これはあくまでも最小限の移動に対して支払われるだけですので、週末に東京の友人に会いに行くとか、大阪の家族に会いに行くといった私用の場合、交通費の支給はありません。頻繁にどこかに行かなければならない人、特に飛行機や新幹線を使わなければならない距離の場合、その交通費が高額になる可能性はあります。
また引っ越し代の懸念もあるかもしれませんが、修習に伴い住所又は居所を移転することが必要と認められる場合、その距離に応じて、一律で移転給付金が支給されます。
例えば鉄道で50キロメートル未満の距離であれば4万6500円、鉄道2000キロメートル以上の距離であれば14万1000円が支払われます。(この金額は、今後変わるかもしれません。)
金額は、司法修習生の修習給付金の給付に関する規則(平成29年8月4日最高裁判所規則第3号)別表に記載されていますので、興味がある人は確認してみてください。
この金額の受け止め方は人によって異なるでしょうが、家具家電を引っ越す必要がない人であれば十分な金額と思われます。
このようにみていくと、地方修習もそんなに悪くないと思う人もいるかもしれません。
金銭面での問題はこのあたりにして、小規模修習地、大規模修習地の考え方について考えてみたいと思います。
定義付けをするのは難しいですが、100人以上の修習地を大規模、99人から50人を中規模、49人から30人を中小規模、29人以下を小規模と定義付けてみます。
どの修習地に何人配置されているのか気になる人は、「司法修習生配属現員表」でGoogle検索すると山中先生のブログで見られると思います。
例えば77期では、東京、大阪、横浜が100人を超えていますので大規模、さいたま、千葉、京都、神戸、名古屋、広島、福岡札幌などが中規模、岡山、仙台などが中小規模、それ以外が小規模と位置付けられます。
大規模修習地の一番のメリットは、仲良くする人を選べる点にあると思います。100人を超えていれば、もはや全員の顔と名前を覚えるのは難しく、同じ班の人とだけ仲良くするということも可能でしょう。
これに対し、小規模修習地であれば全員の顔と名前を必然的に覚えることになるでしょう。多人数での人間関係が苦手な人は、小規模修習地は不向きと言えるかもしれません。特に小規模修習地は地方であり、その場所に友人、知人がいないことが多く人間関係が修習生同士に限定されてしまうこともあるかもしれません。
中規模修習地でも、相当人数がいますのである程度顔なじみになったとしても、仲良くする人自体は選べると思われます。
また仮にクラッシャーと言われる人間関係を破壊するタイプの修習生がいた場合、人数が多ければその悪影響を吸収、解消し何事もなかったかのように過ごすことも可能かもしれませんが、小規模であればその悪影響がダイレクトに修習生間の人間関係に影響し修習地の崩壊といった事態さえ生じかねません。この点が、小規模修習地の最大のデメリットと言えるでしょう。
また小規模修習地といっても、20人程度いる場所であればまだなんとかなるかもしれませんが、5、6人といった規模の場合、トラブルがあると大変そうだなと感じています。
小規模修習地のデメリットばかり論じてきましたが、もし良い修習生が集まっていれば大規模修習地では得られない濃い人間関係の中で素晴らしい修習を過ごすことができると思います。また小規模修習地と言われる場所でしかできないこともできるかもしれません(観光やアクティビティなど)。
また小規模であればあるほど、裁判所や検察庁、弁護士会が歓迎ムードということも一般に言われており(あくまでも一般論です。)、これも小規模地のメリットかもしれません。
ところで真面目な修習生は、事件内容など修習内容にも関心があるかもしれません。そうすると数多くの専門部があり多数の事件がある大都市の方がよいと考えることでしょう。
この指摘は間違っていませんが、専門部があることで生じるデメリットもあります。それは修習生が配属される部に自分が見たい事件が係属していないかもしれないという点です。
民裁修習で言えば、小規模修習地であれば通常の民事事件に限らず、行政事件、医療事件、倒産、執行といった事件が係属することになりますが、修習生はいわゆる通常部に配属されることになるので、行政部がある裁判所では修習生は行政事件を見られないという可能性もあります。
これは裁判所にもよるので、一概に言えるわけではないですし、専門部がある庁でも専門部に何日間か行かせてもらえる可能性もあります。
あくまでも一般論ですが、専門部がない庁であれば自分が配属された部で見たい事件を見れるが、専門部がある庁だと自分の配属部に継続する通常事件しか見られないということがあり得るわけです。
ただし知財事件や発信者情報開示、大規模な会社再生といった手続は、東京や大阪にしかかからないということもあり得るので、自分がどんな事件を見たいかを考える必要はあると思います。
3 おわりに
だらだらと実務修習地について検討しましたが、すべてを説明しきれているわけではなく、むしろ議論を散らかしただけかもしれません。ぜひご自身でもいろいろと調べてみてください。
筆者の考え方については、今後自分の修習地について説明する機会があればお示ししたいと思います。
この連載が何部作になるのか、あるいはどこまで続くのかはよくわかりませんが、誰かの参考になれば幸いです。続編も楽しみにお待ちください。