短編小説 ショートショート

満月の思い出


9月17日は、中秋の名月と聞いた。
夜、庭先に出て見ると、空は厚い雲に被われ、
その雲と雲の隙間にやけに明るいところがあり、
背後に満月らしきものが窺えた。
風はない。
今宵は見れないかもしれないと、いったん引き上げた。

一時間ばかりして、再び外に出て見ると、
驚いたことに、雲がすっかり逃げて、
真っ暗な夜空には、満月がぽっかりと浮かんでいた。
田舎のこととて、周囲に明りらしきものはない。
足元は暗く、闇の上に立っているような感じで、
やけに覚束ない。
バランス感覚を失い、やけにぐらつくのである。
不如意な感覚と言っていい。
それでも、何とか月を眺めていた。

すると、その妙な感覚に呼び覚まされて、
思い出した記憶がある。
それは、いったい、いつの頃のことだろうか。
それさえも覚束ない。
川べりの柳の木の下で、女友達とふたり、
やはり中秋の名月を眺めていた。
どうして、ふたりきりで、
その場所にいたのか、それすらもわからない。
ただ満月の空を眺めていたことだけが、
確かな記憶として甦る。

満月ばかり見上げていると、
その時も、あの奇妙な感覚に襲われた記憶に辿り着く。
周囲は闇、
すると立っている足元がぐらついてくるのである。
私は女友達に言う。
「足元がふらついて怖い。手を握ってもいい?」
すると、女友達は怪訝そうな顔で、私を見上げたが、
「うん」と頷いた。
それで落ち着いた私は、それからしばらく、
今度は安堵の心持でまた月を眺めていた。

どれくらい、そうしたままでいたろうか。
いつの間にか、離すのが怖くなるほどに、
指がしっかりと絡みつくほどに組み合わされていた。
しばらくは、そのあたたかな余韻に浸っていたが、
いつまでもそうしているわけにもいかないので、
「ありがとう」
そう言って手を離した。
「力になれてよかったわ」
そう言って女友達は微笑んだ。
「帰ろうか」
そう私が言って、ふたり川べりの道を歩きはじめた。
すると、今度は女友達が、さりげなく、
ごく当たり前のことのように、
何も言わずに私の手を取った。
川面には、きれいな満月の月明かりが落ちていて、
かすかに揺らめいていた。(了)

 

 

 

 

月のしずく/柴咲コウ 

 

 

 

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